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平成16年広審第121号
件名

貨物船栄徳丸貨物船サン インベスター衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島友二郎,吉川 進,米原健一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:栄徳丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
補佐人
a,b

損害
栄徳丸・・・右舷中央部外板に破口を伴う損傷
サン インベスター・・・球状船首部に破口及び凹損

原因
サン インベスター・・・海上交通安全法の航法(避航動作)不遵守(主因)
栄徳丸・・・警告信号不履行,海上交通安全法の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,北流時の来島海峡航路において,東行するサン インベスターが,できる限り四国側に近寄って航行しなかったばかりか,同航路をこれに沿って航行している栄徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する栄徳丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月15日00時52分
 来島海峡航路
 (北緯34度09.7分 東経132度56.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船栄徳丸 貨物船サン インベスター
総トン数 497トン 3,866トン
全長 76.50メートル 105.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 3,089キロワット
(2)設備及び性能等
ア 栄徳丸
 栄徳丸は,平成5年6月に進水した限定沿海区域を航行区域とする二層甲板船尾船橋型の貨物船で,船橋前方に貨物倉1個を有し,操舵室には,中央に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側に隣接して2号及び1号レーダーが,右舷側にGPSプロッター及び主機遠隔操縦装置がそれぞれ配置され,ジャイロコンパス及び自動吹鳴装置付きの汽笛などが装備されていた。
 また,船舶件名表抜粋写中の海上試運転成績によれば,最大速力が機関回転数毎分230のときに12.14ノットで,旋回性能は旋回径が左右とも160メートルで,1回転するのに約3分30秒を要し,前進中後進を発令して船体が停止するまでに2分13秒を要した。
 栄徳丸は,専ら,鋼材輸送に従事し,積地は,主に大分港,関門港及び室蘭港で,揚地は東京湾から九州に至る主要港であった。
イ サン インベスター
 サン インベスター(以下「サ号」という。)は,1997年に建造された遠洋区域を航行区域とする船尾船橋型のケミカルタンカーで,センターに8個のカーゴタンク及びスロップタンクを,ウイングに各4個のカーゴタンクをそれぞれ有し,その総容積は7,427.983キロリットルで,船橋前方の上甲板上には船首楼及び前部マスト以外に見張りの妨げとなる構造物はなく,ジャイロコンパス,レーダー,GPSプロッター及び汽笛などが装備されていた。
 海上公試運転成績書写によれば,最大速力が機関回転数毎分209.7のときに約13.6ノットで,旋回性能は左右とも旋回径が357メートルで,1回転するのに4分27秒を要し,満船状態で全速力前進中全速力後進を発令して船体が停止するまでに5分10秒を要した。

3 事実の経過
 栄徳丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首1.60メートル船尾3.20メートルの喫水をもって,平成16年5月14日14時40分尼崎西宮芦屋港を発し,来島海峡経由の予定で大分港に向かった。
 22時00分A受審人は,備讃瀬戸北航路西口付近において,前直の一等航海士と交替して単独の船橋当直にあたり,翌15日00時24分ごろ来島海峡航路に入り,折から北流時であったので中水道を通過した。
A受審人は,小島を左舷側に見て左転したのち,00時42分桴磯灯標から092度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点において,針路を303度に定め,機関を全速力前進にかけ,法定の灯火を表示し,潮流に乗じて15.3ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,できる限り大下島側に近寄って,手動操舵により進行した。
 00時48分A受審人は,桴磯灯標から054度1.2海里の地点に差し掛かったとき,左舷船首26度1.5海里のところに,サ号が表示する白,白,緑3灯を初認し,その後衝突のおそれがある態勢で接近したが,同船は針路を変えずに進行し,自船が左転すれば右舷を対して無難に航過できるものと思い,警告信号を行うことなく続航した。
 00時49分A受審人は,桴磯灯標から043度1.2海里の地点に達したとき,サ号の方位が変わらず,1.1海里となり間近に接近したが,右転して更に大下島側に近寄るなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく,左舵を少しとり,航路西口に向け徐々に左転を開始した。
 00時51分左転中のA受審人は,船首至近に迫ったサ号の白,白,紅,緑灯を視認し,同船が右転中であることを認めて衝突の危険を感じ,直ちに左舵一杯としたが及ばず,00時52分桴磯灯標から012度1.0海里の地点において,栄徳丸は,原速力のまま210度に向首したとき,その右舷中央部に,サ号の船首が,後方から75度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の末期にあたり,付近には約3ノットの西流があった。
 また,サ号は,大韓民国の国籍を有する船長Bほか17人が乗り組み,液体化学製品2,670トンを積載し,船首4.40メートル船尾6.20メートルの喫水をもって,同月14日18時05分大分港を発し,来島海峡経由の予定で神戸港に向かった。
 ところで,B船長は,船長に昇格して13年の経験があり,2002年大韓民国が発行し,パナマ共和国が認証した船長免許を受有し,来島海峡航路の通航経験は80回ほどあり,同航路の事情はよく知っていた。
 22時40分B船長は,安芸灘で昇橋し,一等航海士と二等航海士を見張りに,甲板手を操舵にそれぞれ就け,自らが操船の指揮に当たって東行し,翌15日00時46分桴磯灯標から315度1.1海里の地点で,馬島周辺は折から北流時であったので西水道に向けて来島海峡航路に入航したとき,右舷船首方に自船より速力の遅い2隻の同航船を認めたことから,針路を071度に定め,機関を全速力前進にかけ,潮流に抗して11.5ノットの速力で,法定の灯火を表示し,手動操舵により,できる限り四国側に近寄って,航路をこれに沿うことなく進行した。
 00時48分B船長は,桴磯灯標から335度1.0海里の地点に差し掛かったとき,右舷船首26度1.5海里のところに,栄徳丸が表示した白,白,紅3灯を初めて視認し,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,右転して四国側に近寄るなどして栄徳丸の進路を避けることなく続航した。
 00時49分B船長は,桴磯灯標から345度1.0海里の地点に達し,栄徳丸の方位が変わらず,1.1海里に接近したとき,徐々に右転を開始した。
 00時51分B船長は,船首至近に迫った栄徳丸の白,白,紅,緑灯を視認し,同船が左転中であることを認めて衝突の危険を感じ,直ちに右舵一杯とし,機関を半速力後進としたが及ばず,サ号は,135度に向首したとき,約7ノットの速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,栄徳丸は,右舷中央部外板に破口等を,サ号は,球状船首部外板に破口及び凹損等をそれぞれ生じた。

(航法の適用)
 本件は,夜間,北流時の来島海峡航路内において,両船が互いに視野の内にある状況下,同航路を西行中の栄徳丸と東行中のサ号が衝突した事件であり,以下,適用される航法について検討する。
 本件は,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の特別法である,海上交通安全法(以下「海交法」という。)に定める航路内で発生しているので,海交法が適用される。
 栄徳丸は,中水道を通過後,航路の右部分を航路の方向とほぼ一致した針路で進行していたのであるから,航路をできる限り大下島に近寄って,これに沿って航行していたものと認められるが,サ号は,西水道に向け来島海峡航路のほぼ中央部分から入航し,航路の方向と約13度の交角をなす針路でその左側の部分に向け進行したのであるから,航路をできる限り四国側に近寄って,これに沿って航行していたものとは認められない。
 また,両船が衝突のおそれがある態勢で接近を始めたと認められるのは,衝突の4分前,両船間の距離が1.5海里のときからであり,両船の大きさや操縦性能,当時の周囲の状況からして,両船が衝突を回避するのに十分な時間的,距離的な余裕があったものと認められる。栄徳丸については,予防法第40条の規定により,同法第17条第3項で「間近に接近して,避航船の動作のみでは衝突を避けることができないと認められる場合には,第1項の規定にかかわらず,衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならない。」と規定され,サン インベスターについては,海交法第20条第1項で「西水道を経由して航行する場合は,できる限り四国側に近寄って航行すること。」,同法第3条第1項で,「航路をこれに沿わないで航行している船舶は,航路をこれに沿って航行している他の船舶と衝突するおそれがあるときは,当該他の船舶の進路を避けなければならない。」とそれぞれ規定されている。
 以上のことから,本件は,サ号が避航動作をとり,栄徳丸が衝突を避けるための最善の協力動作をとるのに何らの制約はなく,海交法第3条及び予防法17条によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 栄徳丸
(1)左転を開始したこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 サ号
(1)できる限り四国側に近寄って航行しなかったこと
(2)航路をこれに沿って航行しなかったこと
(3)栄徳丸の進路を避けなかったこと
(4)前方に2隻の同航船がいたこと

3 その他
 付近に約3ノットの西流があったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,中水道に向けて来島海峡航路に入航したサ号が,できる限り四国側に近寄って,同航路をこれに沿って航行し,栄徳丸と衝突のおそれが生じた際,同船の進路を避けていれば発生を回避できたものと認められる。
 したがって,サ号が,できる限り四国側に近寄って,同航路をこれに沿って航行しなかったこと,栄徳丸と衝突のおそれが生じた際,その進路を避けなかったことはいずれも本件発生の原因となる。
 一方,夜間,来島海峡航路をできる限り大下島側に近寄って,航路に沿って西行中の栄徳丸が,サ号と衝突のおそれが生じた際,警告信号を行い,更に間近に接近したとき大下島側に右転するなど衝突を避けるための協力動作をとっていれば,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,サ号と右舷を対して無難に航過できるものと思い,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 サ号の前方に2隻の同航船がいたこと,付近に約3ノットの西流があったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,北流時の来島海峡航路において,東行するサ号が,できる限り四国側に近寄って航行しなかったばかりか,同航路をこれに沿って航行している栄徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する栄徳丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,北流時の来島海峡航路をこれに沿って西行中,同航路を航法に従わないで航行するサ号と衝突のおそれがある態勢で間近に接近することを認めた場合,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,左転すれば右舷を対して無難に航過できるものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらずに進行してサ号との衝突を招き,栄徳丸の右舷中央部外板に破口等を,サ号の球状船首部外板に破口及び凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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