(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月30日14時15分
愛媛県松山市中島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船寿丸 |
モーターボート朝映V |
総トン数 |
0.6トン |
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全長 |
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10.92メートル |
登録長 |
6.60メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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169キロワット |
漁船法馬力数 |
25 |
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3 事実の経過
寿丸は,一本釣り漁に従事するFRP製漁船で,船長B(小型船舶操縦免許受有,平成16年8月死亡)が1人で乗り組み,平成16年4月30日12時30分愛媛県松山市神ノ浦漁港を発し,同港南方沖合のフグリ岩東方500メートル付近の釣り場に向かった。
B船長は,12時40分釣り場に至ったのち,機関を停止回転の状態で漂泊を開始し,機関室囲いの後部右舷側でいすに腰掛けて手釣りによるいか釣りを行った。
B船長は,14時14分少し前,船首が038度(真方位,以下同じ。)に向いた状態で釣りをしていたとき,左舷船尾60度580メートルのところを自船に向首して接近する朝映Vを認め,その後同船が衝突のおそれのある態勢で間近に接近するのを認めたが,自船は漂泊しているので相手船の方で避けてくれるものと思い,機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとることなく,朝映Vに向かって長い棒を振っていたところ,相手船が避航の気配のないまま至近距離に接近したので,急ぎ機関のクラッチを後進側に引いたが,14時15分フグリ岩灯標から078度500メートルの地点で,朝映Vの右舷船首部が寿丸の左舷船首部に後方から60度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力2の西風が吹き,潮候は上げ潮の初期に当たり,視界は良好であった。
また,朝映Vは,FRP製のモーターボートで,A受審人(小型船舶操縦士免許を取得していたところ,平成16年3月二級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士免許に更新した。)が1人で乗り組み,友人1人を乗せ,釣りの目的で,同日09時30分愛媛県松山市和気地区の係留場所を発し,松山市中島周辺の釣り場に向かった。
A受審人は,10時ころ同島北部の畑里湾の釣り場に到着して釣りを行ったが,釣果がないので帰航することとし,13時30分中島の沖合を西まわりで係留地に向かった。
A受審人は,14時10分ころフグリ岩の北西方400メートルばかりの地点でプロペラに絡んだ異物を取り除いたのち航行を再開し,同時14分少し前フグリ岩灯標から340度200メートルの地点で針路を098度に定め,16.0ノットの対地速力で手動操舵により操舵室右側に立ったままで進行した。
ところで,朝映Vは,16.0ノットの対地速力で航行すると船首部の浮上により,操舵室右側に立っていても死角が発生し,船首から各舷5度の範囲が見通せない状況であった。
A受審人は,定針したとき,正船首580メートルに漂泊中の寿丸が存在し,その後同船に衝突のおそれのある態勢で接近したが,定針する前に周囲を一瞥して他船を見かけなかったので,前路に他船はいないものと思い,船首を振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず,寿丸を避けないで続航するうち,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,寿丸は船首部左舷側ブルワークが破損して廃船とされ,朝映Vは船首部船底に擦過傷,プロペラ及びシャフトが損傷し,のち修理された。
(原因)
本件衝突は,愛媛県松山市中島南方沖合において,東行中の朝映Vが,見張り不十分で,前路で漂泊中の寿丸を避けなかったことによって発生したが,寿丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,愛媛県中島南方沖合を船首方に死角を生じた状態で東行する場合,前路で漂泊中の寿丸を見落とさないよう,船首を振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,定針前に周囲を一瞥して他船を見かけなかったので,前路に他船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,寿丸との衝突を招き,同船の船首部左舷側ブルワークを破損させ,自船のプロペラ及びシャフトに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。