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平成17年広審第81号
件名

漁船一利丸漁船第3みき丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:一利丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第3みき丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
一利丸・・・船首部外板に損傷
第3みき丸・・・右舷船尾部を破損,船長が頭部外傷等

原因
一利丸・・・見張り不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第3みき丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第3みき丸を追い越す一利丸が,見張り不十分で,第3みき丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,第3みき丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月11日10時30分
 伊予灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船一利丸 漁船第3みき丸
総トン数 4.9トン 4.8トン
登録長 12.07メートル 10.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 15

3 事実の経過
 一利丸は,底引き網漁に従事する木製漁船で,A受審人(昭和50年7月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.45メートル船尾0.70メートルの喫水をもって,平成16年7月11日03時30分愛媛県豊田漁港を発し,伊予灘の漁場に向かった。
 05時00分目的地に着いたA受審人は,5回操業を行ったものの不漁が続き,南方の漁場に移動することとし,10時20分櫛生港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から310度(真方位,以下同じ。)7.0海里の地点において,針路を愛媛県三机港沖合に向く200度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,自動操舵により進行した。
 定針したのちA受審人は,周囲に他船を見かけなかったことから,船尾甲板に赴き,乗組員とともに立ったまま船尾方を向いた姿勢で,15分ばかりかかる漁網の修理を開始した。
 10時27分A受審人は,西防波堤灯台から300度6.7海里の地点に達したとき,左舷船首11度800メートルのところに,第3みき丸(以下「みき丸」という。)を視認することができ,その後,同船に衝突のおそれがある追い越し態勢で接近したが,付近に航行の妨げとなる船舶はいないものと思い,船首方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 A受審人は,みき丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行し,10時30分西防波堤灯台から296度6.6海里の地点において,一利丸は,原針路原速力のまま,その船首部が,みき丸の右舷船尾部に,後方から44度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期で,視界は良好であった。
 また,みき丸は,底引き網漁に従事するFRP製漁船で,汽笛を設備し,B受審人(平成16年10月一級(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦免許取得)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,同日05時00分愛媛県磯崎漁港を発し,伊予灘の漁場に向かった。
 06時00分目的地に着いたB受審人は,操業して漁獲物約75キログラムを積載し,09時00分2回目の操業を開始し,西防波堤灯台から329度5.2海里の地点において,針路を244度に定め,機関を回転数毎分2,700にかけ,2.4ノットの曳網速力とし,所定の形象物を掲げ,手動操舵により進行した。
 ところで,B受審人が行う底引き網漁は,船尾から長さ約300メートルのワイヤロープ2本を引き,その先端に長さ約100メートルの化学繊維索と袋網を含む漁具を取り付け,これを約2時間曳網したのち20分かけて揚網するものであった。
 10時27分B受審人は,操舵室後方に置いたいすに腰掛けて前方の見張りに当たり,西防波堤灯台から297度6.5海里の地点に達したとき,右舷船尾55度800メートルのところに,一利丸を視認することができ,その後,同船が衝突のおそれがある追い越し態勢で接近したが,後方から接近してくる他船はいないものと思い,船尾方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 B受審人は,警告信号を行わず,一利丸が間近に接近しても,機関を使用して行き足を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行し,みき丸は,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,一利丸は,船首部外板に損傷を生じ,みき丸は,右舷船尾部を破損したが,のちいずれも修理された。また,B受審人が,頭部外傷などを負った。

(原因)
 本件衝突は,伊予灘において,みき丸を追い越す一利丸が,見張り不十分で,みき丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,みき丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,伊予灘において,単独で操舵と見張りに当たり,漁場を移動する場合,操業中のみき丸を見落とさないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲に他船を見かけなかったことから,付近に航行の妨げとなる船舶はいないものと思い,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある追い越し態勢でみき丸に接近していることに気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行してみき丸との衝突を招き,一利丸の船首部外板に損傷を生じさせ,みき丸の右舷船尾部を破損させ,B受審人に頭部外傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,伊予灘において,単独で操舵と見張りに当たり,操業する場合,漁場を移動中の一利丸を見落とさないよう,船尾方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲に他船を見かけなかったので,後方から接近してくる他船はいないものと思い,船尾方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある追い越し態勢で接近している一利丸に気付かず,警告信号を行うことも,機関を使用して行き足を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して一利丸との衝突を招き,前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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