(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月20日21時30分
備讃瀬戸東航路
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第三興峰丸 |
漁船元栄丸 |
総トン数 |
198トン |
4.9トン |
登録長 |
44.01メートル |
11.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
第三興峰丸(以下「興峰丸」という。)は,専ら,瀬戸内海各港間で重油の輸送に従事する船尾船橋型の油送船で,船長B及びA受審人ほか1人が乗り組み,重油500キロリットルを積載し,船首2.80メートル船尾3.60メートルの喫水をもって,平成16年7月20日14時30分大阪港堺泉北区を発し,愛媛県松前(まさき)港に向かった。
B船長は,船橋当直を自ら,一等航海士及びA受審人による4時間交替の単独3直制とし,同当直のほかに出入港時,狭水道通過時,船舶輻輳時及び視界制限時等には操船指揮を執っており,平素から当直者に対し,避航動作は早めに大きく行うこと,主機をためらわずに使用すること,漁船の動静監視を十分に行うこと及び必要があれば船長に知らせることなどの注意事項を口頭で行うほか,夜間命令簿に記載して指導していた。
20時30分A受審人は,大角鼻沖合で前直の一等航海士と交替して単独で船橋当直に当たり,西行して備讃瀬戸東航路に入り,21時07分カナワ岩灯標から102度(真方位,以下同じ。)4.1海里の地点で,針路を同航路に沿う294度に定め,機関を全速力前進に掛け,折からの西北西流に乗じて12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,法定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
21時26分半少し過ぎA受審人は,カナワ岩灯標から033度1,630メートルの地点の航路屈曲部に達したとき,右舷船首4度1,630メートルのところに,備讃瀬戸東航路を南に向けて横断中の元栄丸の表示する左舷灯及び白色全周灯を視認することができ,自船が針路を航路に沿った280度に転じ,元栄丸の方位が右舷船首18度となり,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,左舷船首方2海里ばかりのところに先航する同航船に追従するため,同船の表示する船尾灯を見ることに気を取られ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま続航した。
A受審人は,警告信号を行うことも,更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行し,21時30分少し前右舷船首至近に迫った元栄丸を認めて衝突の危険を感じ,左舵20度をとったものの及ばず,21時30分カナワ岩灯標から349度1,520メートルの地点において,興峰丸は,船首が250度を向いたとき,原速力のまま,その右舷船尾部に,元栄丸の船首部が,前方から49度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力2の西風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の中央期で,衝突地点付近には,約2ノットの西北西流があった。
A受審人は,衝突を回避できたものと思い,そのまま航行を続け,その後,B船長が,海上保安部からの電話連絡で衝突の事実を知り,事後の措置にあたった。
また,元栄丸は,船体中央部に操舵室を有し,モーターホーンを装備したFRP製小型底びき網漁船で,C受審人(平成5年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,船首0.35メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,操業の目的で,同日15時30分香川県庵治(あじ)港を発し,備讃瀬戸の漁場に向かった。
C受審人は,備讃瀬戸東航路北側の漁場に到着して操業を行ったのち,同航路を横切って南下し,航路の南側を東行して次の操業予定地点である備讃瀬戸東航路中央第6号灯浮標南側付近に向かうこととし,21時20分小豊島(おでしま)南方沖合1.5海里付近の地点を発進した。
21時25分C受審人は,カナワ岩灯標から345度1.4海里の地点で,針路を146度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの西北西流に圧流されて158度の実効針路及び7.2ノットの速力となり,両舷灯を表示したほか船尾A型マスト頂部に白色全周灯及びその下部に作業灯を点灯し,自動操舵により進行した。
21時26分半少し過ぎC受審人は,カナワ岩灯標から346度1.2海里の地点に達したとき,左舷船首28度1,630メートルのところに,興峰丸の表示する白,白,紅,緑4灯を初認し,同船が航路をこれに沿って西行中であることを認めたが,その後,船尾甲板で漁獲したカレイを活魚のまま海水を張った樽に入れる作業に熱中し,動静監視を十分に行わなかったので,同船が航路に沿って針路を左方に転じ,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないで続航した。
C受審人は,興峰丸の進路を避けないまま進行し,21時30分少し前ふと前方を見て船首至近に迫った興峰丸を初めて認めて衝突の危険を感じ,左舵一杯としたものの効なく,元栄丸は,119度を向いたとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,興峰丸は,右舷船尾部外板に擦過傷を,元栄丸は,船首部に損傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は,夜間,備讃瀬戸東航路において,同航路を横断する元栄丸が,動静監視不十分で,同航路をこれに沿って航行中の興峰丸の進路を避けなかったことによって発生したが,興峰丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
C受審人は,夜間,備讃瀬戸東航路を横断中,同航路をこれに沿って航行中の興峰丸を認めた場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾甲板で,漁獲したカレイを活魚のまま海水を張った樽に入れる作業に熱中し,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,興峰丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,元栄丸の船首部に損傷を,興峰丸の右舷船尾部外板に擦過傷を,それぞれ生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,夜間,備讃瀬戸東航路をこれに沿って西行する場合,航路を横断する元栄丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷船首方2海里ばかりのところに先航する同航船に追従するため,同船の表示する船尾灯を見ることに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,元栄丸の存在に気付かず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。