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平成17年神審第65号
件名

警備艇さざなみ手漕ぎボート(船名なし)衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄)

副理事官
山本哲也

受審人
A 職名:さざなみ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:手漕ぎボート(船名なし)乗組員

損害
さざなみ・・・損傷ない
手漕ぎボート(船名なし)・・・右舷船首部に亀裂及び破口

原因
手漕ぎボート(船名なし)・・・見張り不十分,条例等による航法(琵琶湖等水上安全条例)不遵守(主因)
さざなみ・・・見張り不十分,警告信号不履行,条例等による航法(琵琶湖等水上安全条例)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,手漕ぎボート(船名なし)が,見張り不十分で,停留中のさざなみを避けなかったことによって発生したが,さざなみが,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月8日15時00分
 滋賀県琵琶湖南方の瀬田川上流
 (北緯34度58.2分 東経135度54.6分)

2 船舶の要目
船種船名 警備艇さざなみ 手漕ぎボート(船名なし)
総トン数 11.0トン  
全長 12.60メートル 7.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 338キロワット  

3 事実の経過
 さざなみは,平成元年12月に建造された,平水区域を航行区域とする2機2軸の推進装置を備えたFRP製警備艇で,モーターホーン1基を装備し,A受審人が1人で乗り組み,花火大会の開催に伴う湖上安全啓発活動の目的で,同乗者1人を乗せ,船首1.0メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成17年4月8日13時00分滋賀県琵琶湖,大津港の係留地を発した。
 発進後,A受審人は,琵琶湖南湖西岸沿いに北上して警ら区域を巡回し,雄琴港付近で反転して瀬田川に向け南下した後,瀬田川を下航した。
 ところで,琵琶湖から大阪湾にそそぐ瀬田川の同湖口付近には,北から順に,JR東海道本線鉄道橋,瀬田川大橋,瀬田唐橋,JR東海道新幹線鉄道橋及び高速自動車国道中央自動車道瀬田川橋(以下「瀬田川橋」という。)が架けられており,A受審人は,これまでの経験から,瀬田川橋の上流において,C校ボートチーム(以下「ボートチーム」という。)のボートが漕艇練習を行っていることをよく知っていた。
 14時45分A受審人は,瀬田唐橋付近で,安全啓発活動用パンフレット配布のため同乗者を上陸させたあと,同乗者を収容するため,これより少し上流の瀬田漁港沖合に向かい,14時51分滋賀県大津市膳所に所在する,標高87.4メートルの三角点(以下「膳所三角点」という。)から156度(真方位,以下同じ。)2,550メートル付近に至り,船首をほぼ北方に向け,レーダーを停止したまま停留を開始し,同乗者が用務を終えるのを待った。
 そして,A受審人は,後方が窓となっている操舵室内右舷側の操縦席に腰を掛けて見張りに当たり,機関を舵効の生じる最低速力にかけたりクラッチを切ったりして,折からの下流に向かう流れに抗しながら,ほぼ同じ場所で停留を続けた。
 14時56分半A受審人は,船首が000度に向いて停留していたとき,左舷船尾12度600メートルのところに,ボートチーム所属の競技用手漕ぎボート(船名なし)(以下「D号」という。)を視認でき,その後,自船に向け衝突のおそれがある態勢で接近していたが,保船と上陸した同乗者の動静確認に気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,間近に接近したとき機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることもなく停留中,15時00分膳所三角点から156度2,550メートルの地点において,さざなみは,船首が000度に向いていたとき,その左舷船尾部に,D号の船首が後方から12度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北風が吹き,下流に向かう1.0ノットの流れがあった。
 また,D号は,カーボン製のシングルスカル型1人乗りの競技用手漕ぎボートで,漕艇者が中央部付近の移動式座席に腰を掛けて進行方向に背を向け漕ぐようになっており,ボートチーム員のB指定海難関係人が1人で乗艇し,漕艇練習を行う目的で,船首尾とも0.1メートルの喫水をもって,同日14時45分JR東海道本線鉄道橋北側付近にあたる,膳所三角点から148度1,950メートルの艇庫前を発進した。
 ところで,C校は,同校教諭をボートチーム顧問兼監督として部員の指導に当たらせ,瀬田川を練習場所としていた。また,同川で部員が練習するにあたっては,同川内に設定した長さ約1,400メートルの練習水域を漁船などに注意して右側航行するよう指導し,また陸上に自転車に乗った監視員を適宜巡回させていた。
 発進後,B指定海難関係人は,瀬田川を約1,200メートル下航したあと瀬田川橋付近で左旋回して反転し,同川左岸寄りを上航して発進地点に戻る予定で練習を開始し,同川右岸寄りを下航した。
 14時56分半,B指定海難関係人は,膳所三角点から163度3,100メートルの瀬田川橋付近において,左旋回を終え,針路を012度に定め,下流に向かう約1.0ノットの流れに抗し,5.5ノットの対地速力で上航を開始した。
 上航を開始したとき,B指定海難関係人は,正船首600メートルのところに停留中のさざなみが存在したが,一見しただけで前路に支障となる他船はいないものと思い,その後,時折,船首方に振り向くなどして,船首方の見張りを十分に行わなかったので,さざなみに向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けることなく,同じ針路,速力で進行中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,さざなみに損傷はなかったが,D号は,右舷船首部に亀裂及び破口を生じた。

(原因)
 本件衝突は,琵琶湖南方の瀬田川上流において,漕艇練習中のD号が,見張り不十分で,前路で停留中のさざなみを避けなかったことによって発生したが,さざなみが,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
1 懲戒
 A受審人は,琵琶湖南方の瀬田川上流において,湖上安全啓発活動のため上陸した同乗者を収容するために停留する場合,自船に向首して接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,保船と上陸した同乗者の動静確認に気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,D号が自船に向け衝突のおそれがある態勢となって接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることもなく停留を続けてD号との衝突を招き,同号の右舷船首部に亀裂及び破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,D号に乗って漕艇の練習中,船首方の見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。


参考図
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