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平成17年神審第54号
件名

貨物船第十エーコープ漁船明丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月7日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎,中井 勤,横須賀勇一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第十エーコープ機関長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:明丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十エーコープ・・・右舷船首外板にわずかな凹損
明丸・・・船首を圧壊, 船長が約1箇月の入院加療を要する頚椎捻挫,両肘打撲,両手切創など甲板員が3週間の治療を要する頚椎捻挫,腰椎椎間板ヘルニアなど

原因
第十エーコープ・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
明丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行(音響信号装置不装備),横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十エーコープが,前路を左方に横切る明丸の進路を避けなかったことによって発生したが,明丸が,汽笛を装備せず,かつ,動静監視不十分で,警告信号を行うことができず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月16日11時50分
 室戸岬南東方沖合
 (北緯33度10.4分 東経134度14.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十エーコープ 漁船明丸
総トン数 499トン 13.00トン
全長 76.22メートル 18.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   120
(2)設備及び性能等
ア 第十エーコープ
 第十エーコープ(以下「エ号」という。)は,平成15年12月に進水した,船尾船橋型鋼製貨物船で,船首底面にポンプジェット式バウスラスターを装備し,船橋内前面にレーダー2台,レピーターコンパス,操舵装置,機関制御部などを組み込んだコンソールがあった。
 海上公試運転成績書による旋回試験では,左転で縦距が189メートル,横距が67メートル,右転で縦距が193メートル,横距が68メートルであった。
イ 明丸
  明丸は,昭和50年9月に進水した,船体中央やや後部に操舵室のあるFRP製漁船で,操舵室前面に煙突やレーダー台などがあり前方視界の一部に死角を生じたが,操船者が頭を左右に振れば解消できるものであった。
 旋回能力は,縦距,横距とも船丈の2倍程度であった。
 また,B受審人は,平成15年6月に全長が12メートル以上である明丸を中古で購入したが,同船に装備されていた汽笛が,その後本件衝突発生までに取り外されていた。

3 事実の経過
 エ号は,A受審人ほか3人が乗り組み,ライムストーン1,500トンを積載し,船首3.15メートル船尾4.73メートルの喫水をもって,平成16年12月15日18時00分福岡県苅田港を発し,静岡県田子の浦港に向かった。
 発航後,エ号は,船橋当直体制を概ね11時から15時及び23時から03時の時間帯をA受審人,15時から19時及び03時から07時の時間帯を船長,19時から23時及び07時から11時の時間帯を一等航海士がそれぞれ立直する単独4時間交代制をとりながら,東行を続けた。
 翌16日11時20分昇橋したA受審人は,室戸岬灯台から197度(真方位,以下同じ。)6.8海里の地点で,船橋当直を引き継ぎ,針路を066度に定め,機関を前進全速として,11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行した。11時40分A受審人は,室戸岬灯台から164度5.2海里の地点に達したとき,右舷船首35度3.2海里のところに北上する明丸と同船の前方を同様に北上する漁船を初めて認め,両船に対する動静監視を開始した。
11時47分A受審人は,室戸岬灯台から150度5.2海里の地点に至って,明丸の方位に変化がほどんどなく,その距離が1.0海里となったとき,同船と衝突のおそれのある態勢となったことに気付いたが,明丸に先行して北上する漁船が自船の後方を替わったので,いずれ接近すれば明丸も自船の後方を替わしてくれるものと思い,速やかに,かつ,大幅に右転するなどして明丸の進路を避けることなく続航した。
 11時49分半A受審人は,衝突のおそれのある態勢で接近する明丸が自船の後方を替わることを期待して,手動操舵として左舵5度をとって緩やかに左転したものの及ばず,同時50分室戸岬灯台から143度5.6海里の地点において,原速力のまま,船首が043度に向いたとき,エ号の右舷船首外板に明丸の船首がほぼ直角に衝突した。
 当時,天候は晴で,風力3の西風が吹き,視界は良好であった。
また,明丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,樽流し釣漁の目的で,船首0.30メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,16日02時20分高知県室津港を発し,室戸岬南東方約15海里沖合の漁場に至って操業したのち,11時00分同漁場を離れて室津港に向かった。
 B受審人は,11時20分室戸岬灯台から138度11.5海里の地点に至ったとき,針路を313度に定め,機関を前進全速として12.0ノットの速力で,自動操舵により進行した。
 11時40分B受審人は,室戸岬灯台から140度7.2海里の地点に達したとき,左舷船首32度3.2海里のところにエ号を初めて認め,同号と接近することを認めたものの,まだ距離が離れているので,更に近づいてから対処するつもりで,操舵室の床に腰を下ろして釣糸のもつれを解く作業を行うこととした。
 11時47分B受審人は,室戸岬から142度5.9海里の地点に至って,エ号の方位に変化がほとんどなく,その距離が1.0海里となったとき,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが,前示作業に気を取られ,エ号の動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,汽笛不装備でエ号に対して警告信号を行うことができないで続航した。
 B受審人は,その後エ号が間近に接近して同号の避航動作だけでは衝突を避けられない事態となったが,依然として同じ作業に気を取られたまま,直ちに停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行し,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,エ号は右舷船首外板にわずかな凹損を生じ,明丸は船首を圧壊したがのち修理され,B受審人は約1箇月の入院加療を要する頚椎捻挫,両肘打撲,両手切創などを,また明丸甲板員Cは3週間の治療を要する頚椎捻挫,腰椎椎間板ヘルニアなどを負った。

(本件発生に至る事由)
1 エ号
(1)いずれ明丸が自船の後方を替わしてくれるものと思ったこと
(2)明丸の進路を避けなかったこと

2 明丸
(1)釣糸のもつれを解く作業に集中していたこと
(2)動静監視を十分に行わなかったこと
(3)汽笛を装備していなかったこと
(4)警告信号を行えなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

3 その他
 明丸に先行して北上する漁船がエ号の船尾を替わして北上したこと

(原因の考察)
本件は,A受審人が,速やかに,かつ,大幅に右転するなど明丸の進路を避けていれば,発生しなかったと認められる。したがって,同人が,いずれ明丸が自船の後方を替わしてくれるものと思い,明丸の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,B受審人が,釣糸のもつれを解く作業に気を取られることなく,エ号の動静監視を十分に行っておれば,衝突を避けるための協力動作をとることができ,本件が発生しなかったと認められる。したがって,同人が,釣糸のもつれを解く作業に集中して,エ号の動静監視を十分に行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,B受審人が,汽笛を装備しておれば,警告信号を行って,エ号に自船の進路を避けさせることができ,本件が発生しなかったと認められる。したがって,同人が汽笛を装備せず,警告信号を行えなかったことは,本件発生の原因となる。同人は,航行するに際して海上衝突予防法の規定を満足する汽笛を装備しなければならない。
 明丸に先行して北上する漁船がエ号の船尾を替わったことは,A受審人の判断に影響を与えたものの,本件に直接に関与したとは認められないので,これを本件発生の原因とすることはできない。

(海難の原因)
 本件衝突は,室戸岬南東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近しているとき,東行中のエ号が,前路を左方に横切る明丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上中の明丸が,汽笛を装備せず,かつ,動静監視不十分で,警告信号を行うことができず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,室戸岬南東方沖合において,右舷前方に明丸を認めて同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付いた場合,速やかに,かつ,大幅に右転するなどして明丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,明丸に先行して北上する漁船が自船の船尾を替わしたので,明丸も船尾を替わしてくれるものと思い,明丸の進路を避けなかった職務上の過失により同船との衝突を招き,エ号の右舷船首外板にわずかな凹損を生じさせ,明丸の船首を圧壊し,また,B受審人に約1箇月の入院加療を要する頚椎捻挫,両肘打撲,両手切創などを,明丸甲板員に3週間の治療を要する頚椎捻挫,腰椎椎間板ヘルニアなどをそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,室戸岬南東方沖合を北上中,左舷前方に,前方を右方に横切るエ号を認めた場合,同船と衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,釣糸のもつれを解く作業に気を取られ,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,エ号との衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き,前示損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

  よって主文のとおり裁決する。


参考図
 





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