3 木材整理場
和歌山下津港の南防波堤から南方の雑賀崎ふ頭に至る間の同港和歌山区南区は木材港と称され,その南東奥には,東西400メートル,南北500メートルの水域に防波堤及び岸壁に囲まれた木材整理場があった。
木材整理場内には,木材を係止するために打ち込まれた直径約0.8メートルのさび色の鉄杭が散在する貯木区域及び通航路があり,その境に40ないし60メートルの間隔で鉄杭が設置され,以前は鉄杭間に柵が設けられていたが,2ないし3年前から柵がなくなり,貯木区域に進入することが可能になっていた。
通航路は,木材整理場北西部の西口から木材整理場南東部の水軒川河口に接続した東口へL字型に設定された,幅100ないし150メートル長さ500メートルの水路で,水軒川に係留された小型の船が,同水路を航行すれば貯木区域を避けて安全に通航することが可能であった。
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衝突した鉄杭 |
4 B組合
B組合は,住吉丸ほか2隻を有し,水軒川河口付近の右岸を係留地(以下「水軒川係留地」という。)として待合所兼事務所を構え,早朝に水軒川係留地から木材整理場を通航して瀬渡客を木材港の外防波堤等に送り,迎えの時刻を12時00分,13時30分,15時00分と決め,各15分前に水軒川係留地を出発し,数箇所に分散した瀬渡客を順次乗船させ,連れ戻すものであった。
5 事実の経過
住吉丸は,A受審人が単独で乗り組み,瀬渡客を迎えに行く目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年12月30日13時15分水軒川係留地を発し,和歌山下津港和歌山区南区の外防波堤に向かい,13時25分頃外防波堤の北部及びその北西方に築造中の防波堤に至り,瀬渡客を前部甲板に4人及び後部甲板に6人乗船させ,同係留地に向けて帰途に就いた。
13時34分A受審人は,和歌山南防波堤灯台から178度(真方位,以下同じ。)600メートルの地点において,舵輪後方で立った姿勢で見張りに当たり,針路を141度に定め,機関をほぼ全速力前進とし,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,木材港内を木材整理場の西口に向けて手動操舵により進行した。
13時38分40秒木材整理場の西口に接近したA受審人は,和歌山南防波堤灯台から152度2,000メートルの地点に達したとき,貯木区域に進入する針路で通航すると,船首方の死角により散在する鉄杭を見落とし,鉄杭に衝突するおそれがあったが,航程の短縮を図ろうと思い,通航路を進行する針路とすることなく,貯木区域に進入する132度に転じて鉄杭に向首する針路をとり,速力を8.0ノットに減じて右舷前方に見える鉄杭列に沿って続航した。
13時39分A受審人は,和歌山南防波堤灯台から151度2,080メートルの地点に達したとき,正船首250メートルのところに直径約0.8メートル海面上の高さ約1.5メートルの鉄杭を視認でき,このまま進行すると鉄杭と衝突するおそれのある状況となったが,右舷前方に設置された通航路との境にある鉄杭列に沿って航行することに気をとられ,身体を左右に移動するなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,同じ針路及び速力衝突した鉄杭で進行中,13時40分住吉丸は,和歌山南防波堤灯台から149度2,300メートルの地点に設置された鉄杭に正船首から衝突した。
当時,天候は晴で風はなく,潮候は下げ潮の末期で,視界は良好であった。
衝突の結果,住吉丸は船首部を圧壊したが,のち修理された。
また,瀬渡客1人が落水し,先行していた小型船が引き返して救助したが,A受審人及び瀬渡客10人が頭部打撲,腹部打撲等の入院又は通院加療を要する負傷をした。
(本件発生に至る事由)