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平成17年神審第50号
件名

瀬渡船第三住吉丸木材整理場施設衝突事件
第二審請求者〔理事官黒田敏幸,受審人A〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,中井 勤)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第三住吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部を圧壊,船長及び瀬渡客10人が頭部打撲,腹部打撲等

原因
針路選定不適切,見張り不十分

主文

 本件木材整理場施設衝突は,針路選定が不適切で,木材整理場内の通航路を進行する針路としなかったばかりか,見張り不十分で,前路の鉄杭を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月30日13時40分
 和歌山県和歌山下津港
 (北緯34度11.8分 東経135度8.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 瀬渡船第三住吉丸
総トン数 3.4トン
全長 11.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 180キロワット
(2)設備及び性能等
 第三住吉丸(以下「住吉丸」という。)は,平成2年8月に竣工した,限定沿海区域を航行区域とする最大搭載人員20人のFRP製瀬渡船で,船体中央やや後方に操舵室を有し,同室前方に操縦台が設置され,その中央に舵輪及び右舷側に機関のクラッチ及びスロットルの各レバーが配置されていた。
 また,船首部には,瀬渡客を乗下船させるための鉄製パイプで組まれた階段及び船首端のタイヤフェンダーが取り付けられており,操舵位置からは船首方両舷にわたって約5度の死角を生じ,同方の見通しが妨げられる状況にあったが,身体を左右に移動すれば,これを解消することができた。

3 木材整理場
 和歌山下津港の南防波堤から南方の雑賀崎ふ頭に至る間の同港和歌山区南区は木材港と称され,その南東奥には,東西400メートル,南北500メートルの水域に防波堤及び岸壁に囲まれた木材整理場があった。
 木材整理場内には,木材を係止するために打ち込まれた直径約0.8メートルのさび色の鉄杭が散在する貯木区域及び通航路があり,その境に40ないし60メートルの間隔で鉄杭が設置され,以前は鉄杭間に柵が設けられていたが,2ないし3年前から柵がなくなり,貯木区域に進入することが可能になっていた。
 通航路は,木材整理場北西部の西口から木材整理場南東部の水軒川河口に接続した東口へL字型に設定された,幅100ないし150メートル長さ500メートルの水路で,水軒川に係留された小型の船が,同水路を航行すれば貯木区域を避けて安全に通航することが可能であった。

衝突した鉄杭

4 B組合
 B組合は,住吉丸ほか2隻を有し,水軒川河口付近の右岸を係留地(以下「水軒川係留地」という。)として待合所兼事務所を構え,早朝に水軒川係留地から木材整理場を通航して瀬渡客を木材港の外防波堤等に送り,迎えの時刻を12時00分,13時30分,15時00分と決め,各15分前に水軒川係留地を出発し,数箇所に分散した瀬渡客を順次乗船させ,連れ戻すものであった。

5 事実の経過
 住吉丸は,A受審人が単独で乗り組み,瀬渡客を迎えに行く目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年12月30日13時15分水軒川係留地を発し,和歌山下津港和歌山区南区の外防波堤に向かい,13時25分頃外防波堤の北部及びその北西方に築造中の防波堤に至り,瀬渡客を前部甲板に4人及び後部甲板に6人乗船させ,同係留地に向けて帰途に就いた。
 13時34分A受審人は,和歌山南防波堤灯台から178度(真方位,以下同じ。)600メートルの地点において,舵輪後方で立った姿勢で見張りに当たり,針路を141度に定め,機関をほぼ全速力前進とし,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,木材港内を木材整理場の西口に向けて手動操舵により進行した。
 13時38分40秒木材整理場の西口に接近したA受審人は,和歌山南防波堤灯台から152度2,000メートルの地点に達したとき,貯木区域に進入する針路で通航すると,船首方の死角により散在する鉄杭を見落とし,鉄杭に衝突するおそれがあったが,航程の短縮を図ろうと思い,通航路を進行する針路とすることなく,貯木区域に進入する132度に転じて鉄杭に向首する針路をとり,速力を8.0ノットに減じて右舷前方に見える鉄杭列に沿って続航した。
 13時39分A受審人は,和歌山南防波堤灯台から151度2,080メートルの地点に達したとき,正船首250メートルのところに直径約0.8メートル海面上の高さ約1.5メートルの鉄杭を視認でき,このまま進行すると鉄杭と衝突するおそれのある状況となったが,右舷前方に設置された通航路との境にある鉄杭列に沿って航行することに気をとられ,身体を左右に移動するなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,同じ針路及び速力衝突した鉄杭で進行中,13時40分住吉丸は,和歌山南防波堤灯台から149度2,300メートルの地点に設置された鉄杭に正船首から衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,潮候は下げ潮の末期で,視界は良好であった。
 衝突の結果,住吉丸は船首部を圧壊したが,のち修理された。
 また,瀬渡客1人が落水し,先行していた小型船が引き返して救助したが,A受審人及び瀬渡客10人が頭部打撲,腹部打撲等の入院又は通院加療を要する負傷をした。

(本件発生に至る事由)
1 船首方に死角を生じる状況であったこと
2 A受審人が木材整理場内の通航路を進行する針路としなかったこと
3 A受審人が右舷前方の鉄杭列に気をとられ十分な見張りを行っていなかったこと
4 A受審人が鉄杭を避けなかったこと
5 木材整理場内の貯木区域に鉄杭が散在していたこと

(原因の考察)
 本件木材整理場施設衝突は,船首部に死角を生じる住吉丸が,木材整理場を通航する際,木材整理場内の通航路を進行する針路を選定していれば,また,死角を補う見張りを十分に行っていれば,鉄杭との衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,木材整理場内の通航路を進行する針路としなかったばかりか,右舷前方の鉄杭列に気をとられ,死角を補う見張りを十分に行わず,前路の鉄杭を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 住吉丸の船首方に死角が生じる状況にあったことは,見張りを阻害することになったものと認められるが,死角は船舶の構造的要因であり,死角が生じることを十分承知した上で,これまでその不具合を補う手段,対策をとって運航に当たることが可能であったから,本件発生の原因とするまでもない。
 木材整理場は,その水域に貯木区域として木材を係止するために必要な鉄杭が散在していたが,木材整理場内に小型船が航行可能な通航路が設定されていたのであるから,これを原因とすることはできない。

(海難の原因)
 本件木材整理場施設衝突は,和歌山下津港において,木材整理場を通航する際,針路選定が不適切で,木材整理場内の通航路を進行する針路としなかったばかりか,見張り不十分で,前路の鉄杭を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が,単独で和歌山下津港において木材整理場内を通航して水軒川係留地に向かう場合,貯木区域に向く針路とすると貯木区域に散在する鉄杭に衝突するおそれがあったから,木材整理場に設定された通航路を進行する針路とすべき注意義務があった。しかるに,同人は,航程の短縮を図ろうと思い,通航路を進行する針路としなかった職務上の過失により,貯木区域内を通航して鉄杭との衝突を招き,住吉丸の船首部を圧壊させ,瀬渡客1人を落水させ,A受審人及び瀬渡客10人に頭部打撲,腹部打撲等の入院又は通院加療を要する負傷をさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

  よって主文のとおり裁決する。





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