(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月7日06時50分
京浜港東京区第2区月島水産ふ頭F5岸壁
2 船舶の要目
船種船名 |
練習船海鷹丸 |
油送船第十五大洋丸 |
総トン数 |
3,391トン |
96.79トン |
全長 |
93.0メートル |
31.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
4,489キロワット |
250キロワット |
3 事実の経過
海鷹丸は,中央船橋型の鋼製練習船で,B船長ほか28人が乗り組み,実習生27人を乗せ,船首4.75メートル船尾6.00メートルの喫水をもって,平成16年10月21日13時46分京浜港東京区第2区月島水産ふ頭F5岸壁に175度(真方位,以下同じ。)を向首して左舷付けで係留した。
越えて同年11月7日06時50分海鷹丸は,前示岸壁に係留中,晴海信号所から321度800メートルの地点において,その船尾外板左舷側に第十五大洋丸(以下「大洋丸」という。)の船首が真後ろから衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
また,大洋丸は,専ら京浜港及び千葉港内において燃料油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で,A受審人ほか1人が乗り組み,A重油約30トン及びC重油約70トンを積み,船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,7日06時40分月島水産ふ頭F1岸壁を発し,千葉港葛南区に向かった。
A受審人は,離岸操船に引き続き単独の船橋当直に就き,月島水産ふ頭北西端をつけ回して隅田川を南下し,06時49分晴海信号所から324度1,030メートルの地点に達したとき,針路を同川に沿う183度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.0ノットの対地速力で手動操舵として進行した。
ところで,定針地点から183度の針路で南下すると,月島水産ふ頭F4及びF5岸壁を左舷側約100メートルで接航することとなり,さらにF5岸壁には海鷹丸が係留していたことから,同船を安全に航過できるよう,船首方の見張りを十分に行い,針路の保持に努める必要があった。
定針時A受審人は,周囲に航行中の他船がいないのでしばらくの間船首方から目を離しても大丈夫と思い,舵輪から手を離して操舵室左舷後部の海図台に船尾方を向いて立ち,積荷計算の確認作業を始め,船首方の見張りを十分に行うことなく続航した。
このときA受審人は,舵中央のつもりで舵輪から手を離したものの,実際は左舵4ないし5度をとった状態で放置され,その結果,間もなくF4岸壁南端もしくはF5岸壁係留中の海鷹丸に向け緩やかに左転し始めたが,見張り不十分でこのことに気付かないまま進行した。
06時50分少し前A受審人は,ふと船首方を振り向いたとき,目の前にF4岸壁が迫るのを見てあわてて右舵一杯,機関を全速力後進としたが及ばず,大洋丸は,その船首がF4岸壁南端のラバーフェンダーに接触して跳ね返され,175度を向首して進行中,約6ノットの対地速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果,大洋丸及び岸壁には損傷はなく,海鷹丸は,船尾外板左舷側に破口を伴う凹損を生じるとともに,係船索2本が切断し,損傷部は,のち修理された。
(原因)
本件衝突は,大洋丸が,京浜港東京区第2区を航行中,見張り不十分で,針路を保持しないまま緩やかに左転して月島水産ふ頭F4岸壁南端に接触して跳ね返され,同ふ頭F5岸壁に係留中の海鷹丸に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,京浜港東京区第2区において,月島水産ふ頭に沿って南下する場合,同ふ頭南端のF5岸壁には海鷹丸が係留中であったから,針路を保持して同船を安全に航過できるよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,他船がいないのでしばらくの間船首方から目を離しても大丈夫と思い,舵輪から手を離して船尾方を向いて作業を始め,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,緩やかに左転し始めたことに気付かず,同ふ頭F4岸壁南端ラバーフェンダーと接触して跳ね返され,海鷹丸に向け進行して同船との衝突を招き,海鷹丸の船尾外板左舷側に破口を伴う凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。