(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月19日08時30分
浦賀水道航路南口付近
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船石川丸 |
モーターボートスピカ |
総トン数 |
3.4トン |
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全長 |
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7.39メートル |
登録長 |
9.90メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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66キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
石川丸は,平成13年12月交付の一級小型船舶操縦士の免許を受有するA受審人が1人で乗り組み,スズキ刺し網漁を行う目的で,船首0.40メートル船尾1.45メートルの喫水をもって,同16年12月19日05時00分千葉県萩生漁港を発し,浦賀水道航路中央第1号灯浮標付近の漁場で操業した。
A受審人は,操業を終えて帰港することとし,08時28分少し前浦賀水道航路中央第1号灯浮標の南側至近にあたる,海獺島灯台から092度(真方位,以下同じ。)2.1海里の地点で,針路を090度に定め,機関を半速力前進にかけ,14.0ノットの対地速力で,手動操舵によって進行した。
ところで,石川丸は,14.0ノット程度の速力で航行中,操舵室の天窓から顔を出して見張りを行うときには,船首死角はないが,操舵室内でしゃがんだ姿勢で操船をすると,船首部分で左舷側に約20度右舷側に約15度の死角が生じる状況であった。
定針したとき,A受審人は,正船首方960メートルに球形形象物を掲げて錨泊中のスピカを視認できる状況であったが,波しぶきを受けるのを嫌って,操舵室の天窓から顔を出すなどして前路の見張りを十分に行うことなく,操舵室内でしゃがんだ姿勢のまま操船し,船首死角に入ったスピカの存在に気付かなかった。
その後,A受審人は,スピカに向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが,同船を避けないまま続航し,08時30分依然スピカの存在に気付かず,石川丸は,原針路,原速力のまま,海獺島灯台から092度2.6海里の地点において,その船首がスピカの左舷後部に90度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,視界は良好で潮候は上げ潮の中央期であった。
また,スピカは,平成16年2月交付の一級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を受有するB受審人が1人で乗り組み,友人3人を乗せ,カワハギ釣りの目的で,船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同12月19日07時10分横浜市のCマリーナを発し,08時10分衝突地点に至り,ダンホース型錨を水深約35メートルのところに投錨し,錨索を40メートル延ばし,黒色の球形形象物を掲げ,機関を停止して錨泊を始めた。
B受審人は,操舵室で船尾方を向いて釣りの準備中,08時28分少し前,船首が北に向いていたとき,左舷正横960メートルに石川丸を視認でき,その後同船が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが,釣りの準備に気をとられ,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,石川丸に対し,備えていた携帯式のエアーホーンを使用して注意喚起信号を行うことなく錨泊を続け,08時30分少し前,同乗者の1人が石川丸の接近に初めて気付き,全員で避航を促すために手を振ったり,大声を出したりしたものの効なく,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,石川丸は損傷がなかったが,スピカは左舷後部を圧壊し,衝撃で転覆した。
(原 因)
本件衝突は,浦賀水道航路南口付近において,石川丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中のスピカを避けなかったことによって発生したが,スピカが,見張り不十分で,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,浦賀水道航路南口付近を東行する場合,前路で錨泊中のスピカを見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,波しぶきを受けるのを嫌って,操舵室の天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,スピカに気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,スピカの左舷後部を圧壊し,衝撃で転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,浦賀水道航路南口付近で錨泊する場合,接近する石川丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣りの準備に気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近する石川丸に気付かず,注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。