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平成17年仙審第27号
件名

貨物船第十一内海丸漁船第十八漁栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月28日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,半間俊士,大山繁樹)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:第十一内海丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
a,b
受審人
B 職名:第十八漁栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
c

損害
第十一内海丸・・・擦過傷
第十八漁栄丸・・・左舷船尾外板などを圧壊

原因
第十一内海丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守
第十八漁栄丸・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は,第十一内海丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,第十八漁栄丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月19日02時50分
 青森県八戸港
 (北緯40度33.22分 東経141度32.11分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十一内海丸 漁船第十八漁栄丸
総トン数 699トン 14.98トン
全長 79.95メートル 19.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット 77キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十一内海丸
 第十一内海丸(以下「内海丸」という。)は,平成8年3月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製貨物船で,C社製の主機を備え,プロペラ翼が3枚の固定ピッチプロペラを有し,その航海速力は13.5ノットであった。また,バウスラスタの設備があるほか,航海計器としてアルパ付きレーダーを2台及び衛星航法装置などを備えていた。
 また,海上公試運転成績書によれば,14.94ノットの速力で航走中,舵角35度をとったとき,左旋回での最大横距は281.26メートルで,最大縦距は254.36メートルであり,右旋回での最大横距は261.18メートルで,最大縦距は225.88メートルであった。また,90度回頭するのに要する時間は,左回頭で0分52秒,右回頭で0分47秒であった。
 4/4連続出力前進中,後進最大を発令して船体が停止するまでの所要時間は1分14秒であった。
イ 第十八漁栄丸
 第十八漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)は,操業区域を丙区域として昭和52年12月に進水した,小型機船底びき網漁業に従事する鋼製漁船で,D社製の主機を備え,その推進器は,可変ピッチプロペラで,最大航海速力は8.0ノットであった。
 航海計器としてレーダー2台及び衛星航法装置などを備え,操業用として魚群探知器を備えていた。

3 事実の経過
 内海丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,空倉のまま,船首2.20メートル船尾4.30メートルの喫水をもって,平成16年9月18日17時10分北海道苫小牧港を発し,青森県八戸港に向かった。
 翌19日未明A受審人は,八戸港入港にあたって喫水を船首1.60メートル船尾3.60メートルに調整し,02時30分八戸港八太郎北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から006度(真方位,以下同じ。)2,960メートルの地点に達したとき,針路を180度に定め,機関を微速力前進にかけて6.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,手動操舵により進行した。
 ところで,A受審人は,着岸作業に備え,北防波堤灯台に並ぶころから,前部マスト灯,後部マスト灯,両舷灯及び船尾灯のほか,作業灯を前部マストの中間付近からウインドラス付近を照らすように1個,船橋両ウイングの中央付近から前部甲板を照らすように各1個を点灯していた。
 02時42分A受審人は,北防波堤灯台から041度480メートルの地点に至り,速力を6.0ノットの極微速力前進に減じたとき,左舷船首3度2,900メートルのところに,西航路を出港中の漁栄丸を初認した。
 02時44分ごろA受審人は,北防波堤灯台から070.5度330メートルの地点で機関を停止して惰力で続航し,同時46分同灯台から112.5度340メートルの地点で,左舷前方で錨泊中の第三船と中央防波堤との間を航行して着岸予定岸壁に向かうため,針路を147度に転じて進行した。
 02時48分A受審人は,北防波堤灯台から128度580メートルの地点に至り,少しの前進行きあしを得る目的で,機関を極微速力前進にかけ,そのころ,たまたま漁栄丸の緑灯を視認したので,同船は自船の右舷方を航過していくものと思い,目線を右舷前方の錨泊船などに転じ,漁栄丸の動向を早期に把握できるよう,引き続き動静監視を十分に行わなかったので,漁栄丸が右転したことに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく続航した。
 こうして,内海丸は,A受審人が漁栄丸の右転に気付かないまま,同船から目を離して進行中,02時50分少し前船首で着岸準備作業中の一等航海士から右舷船首方の漁船の動きがおかしい旨の報告を受け,同船が自船の前路に向かって衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め,機関を全速力後進にかけたが,及ばず,02時50分北防波堤灯台から134度850メートルの地点において,原針路のまま,その船首が前方から75度の角度をもって漁栄丸の左舷船尾部に衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の南南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,漁栄丸は,一級小型船舶操縦士免許を所有するB受審人ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首0.70メートル船尾2.50メートルの喫水をもって,同日02時30分青森県八戸漁港を発し,マスト灯,舷灯及び船尾灯のほか,マスト頂部に紅色全周灯及び船尾部に作業灯を点灯したまま漁場に向かった。
 02時42分半B受審人は,八戸港白銀西防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から201度40メートルの地点に達したとき,港口に向かう針路を000度に定め,機関を全速力前進にかけ,7.5ノットの速力とし,手動操舵により進行した。
 02時46分B受審人は,北防波堤灯台から161.5度1,650メートルの地点に達したとき,左舷船首7.5度1,440メートルのところに,内海丸の灯火を初認したが,同船が点灯した作業灯のためか,舷灯が視認できなかったことから,同船は錨泊しているものと思って続航した。
 02時48分B受審人は,北防波堤灯台から159度1,180メートルの地点に至り,内海丸を避けるつもりでわずかに右舵をとり,徐々に針路を右に転じながら進行し,その後,自船が内海丸の前面に進出し,同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,内海丸が錨泊しているものと思い込み,同船の動向を的確に把握できるよう,双眼鏡を使用するなどして動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 こうして,漁栄丸は,B受審人が接近する内海丸に気付かないまま進行中,02時50分わずか前同船が左舷至近に接近しているのに初めて気付き,左舵一杯としたが,及ばず,その船首が042度を向いていたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,内海丸は,船首部に擦過傷を生じ,漁栄丸は,左舷船尾外板などを圧壊した。

(航法の適用)
 本件は,八戸港港内において,着岸のため減速航行中の内海丸と操業のため出漁中の漁栄丸とが防波堤の出入口付近で衝突したものである。
 この場合,一見して港則法第15条の適用が考えられないこともないが,同港の出入口の幅が最狭部で約560メートルあり,両船の船形に比して十分な航行域であると判断できる。また,両船は互いに早期に視認しているところでもあり,対処するのに十分な時間的余裕があったといえ,港則法第15条を適用する余地はなく,他に適用すべき港則法上の航法もない。
 また,内海丸が左転し,両船の進路が交差する状態となったとしても,港内の状況から,内海丸は,当然に東航路に向かう船であるか,あるいは同航路付近で錨泊待機する船であろうことは予測されるところであり,かつ,漁栄丸がことさら右転すべき理由もそんざいしないよって,会場衝突予防法第15条を適用することも妥当ではない。
 したがって,海上衝突予防法第38条及び第39条を適用して船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 内海丸
(1)航海灯のほか作業灯を点灯していたこと
(2)左転したこと
(3)A受審人が,漁栄丸の緑灯を認め,互いに右舷を対して無難に航過できると思ったこと
(4)A受審人が,漁栄丸から目を離して引き続き動静監視を十分に行わなかったこと
(5)警告信号を行わなかったこと
(6)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 漁栄丸
(1)航海灯のほかマスト頂部に紅色全周灯及び船尾部に作業灯を点灯していたこと
(2)B受審人が,内海丸の舷灯が見えないので,錨泊している船と思っていたこと
(3)B受審人が,双眼鏡を使用するなどして動静監視を十分に行っていなかったこと
(4)右転したこと
(5)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,青森県八戸港港内を,着岸のため速力を減じながら入港中の内海丸と漁場に向かうため速力を一定に保って出港中の漁栄丸とが衝突したものであるが,以下,その原因について考察する。
 A受審人が,漁栄丸の緑灯を視認し,同船とは互いに右舷を対して航過できると思い,同船から目を離して動静監視を十分に行わず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもしなかったことは,本件発生の原因となる。
 内海丸が,航海灯のほか作業灯を点灯していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 内海丸が,東航路に向かうため,左転したことは,本件発生の原因とならない。
 B受審人が,内海丸の舷灯が見えなかったことから,錨泊している船と思い,双眼鏡を使用するなどして同船に対する動静監視を十分に行わず,右転を続けて衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 漁栄丸が,航海灯のほか紅色全周灯及び作業灯を点灯していたことは,本件発生の原因とならない。しかしながら,航海灯のほかに灯火を点灯することは,以後,慎むべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,青森県八戸港港内において,第十一内海丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,第十八漁栄丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,青森県八戸港港内において,着岸予定岸壁に向けて速力を減じながら進行中,出港する第十八漁栄丸を認めた場合,同船の動向を早期に把握できるよう,引き続き動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,たまたま第十八漁栄丸の緑灯を視認したことから,自船の右舷方を航過して行くものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が右転したことに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく進行して衝突を招き,第十一内海丸の船首部に擦過傷を生じさせ,第十八漁栄丸の左舷船尾外板などを圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,青森県八戸港港内において,漁場に向けて出港中,入港する第十一内海丸を認めた場合,同船の動向を的確に把握できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,第十一内海丸の舷灯が視認できなかったことから,同船は錨泊しているものと思い込み,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,第十一内海丸が航行中であることに気付かず,衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

  よって主文のとおり裁決する。


参考図
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