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平成17年仙審第19号
件名

漁船第三健勝丸モーターボート第8長須賀丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月27日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,半間俊士,大山繁樹)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第三健勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第8長須賀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三健勝丸・・・船首部に擦過傷
第8長須賀丸・・・右舷中央部外板などを圧壊して廃船,船長が約3箇月の入院を要する脳挫傷,顔面及び全身裂傷など,同乗者が肋骨を骨折

原因
第8長須賀丸・・・見張り不十分,狭い水道等の航法(右側航行,前路進出)(主因)
第三健勝丸・・・動静監視不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)(一因)不遵守

主文

 本件衝突は,第8長須賀丸が,狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか,見張り不十分で,第三健勝丸と左舷を対して無難に航過する態勢のとき,同船の前路に向け,衝突の危険を生じさせたことによって発生したが,第三健勝丸が,動静監視不十分で,有効な音響による注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月13日20時10分
 宮城県大島瀬戸
 (北緯38度53.09分 東経141度37.24分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三健勝丸 モーターボート第8長須賀丸
総トン数 4.93トン  
全長   6.86メートル
登録長 9.85メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   51キロワット
漁船法馬力数 50  
(2)設備及び性能等
ア 第三健勝丸
 第三健勝丸(以下「健勝丸」という。)は,昭和51年2月に進水した,一本釣り漁業及びはえなわ漁業などの操業に使用されるFRP製漁船で,プロペラ翼数が3枚の固定ピッチプロペラを有し,航海速力は機関回転数毎分1,850前後で約9ノットであった。また,旋回径は船丈の約2倍であった。
 航海計器としては,レーダー1台と衛星航法装置を備えていたが,同レーダーは故障中であり,他に操業用機器として魚群探知器を備えていた。
イ 第8長須賀丸
 第8長須賀丸(以下「長須賀丸」という。)は,平成5年10月に進水した,航行区域を限定沿海区域とし,自動操舵装置やレーダーを設備しないFRP製遊漁船兼交通船で,主機としてC社が製造した船外機を使用し,プロペラ翼数3枚の固定ピッチプロペラを装備していた。
 また,航海計器としては衛星航法装置を,遊漁用機器としては魚群探知器をそれぞれ装備していた。

3 事実の経過
 健勝丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,真だらのはえ縄漁を行う目的で,船首0.7メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年9月13日00時30分宮城県気仙沼漁港を発し,岩手県大船渡港東方沖合の漁場に向かった。
 03時30分A受審人は,漁場に至って操業を始め,同日17時前に操業を終え,気仙沼湾の東湾から大島瀬戸を経由して帰港することとし,航行中の動力船が掲げる灯火を点灯したのち,17時00分陸前御崎岬灯台(以下「岬灯台」という。)から100度(真方位,以下同じ。)18海里ばかりの漁場を発進し,帰途に就いた。
 ところで,気仙沼湾は,宮城県の御崎岬と同県岩井埼との間にあって南方に開口し,湾の中央には大島があって同湾を東西に2分している。
 大島瀬戸は,大島とその北方側陸岸とで形成し,その東西の長さが約1海里で,同瀬戸の東口中央部付近に番所根が存在し,日向具側陸岸と同根間とで可航幅が約300メートルの水路を,及び大島北端と同根間とで可航幅が約100メートルの水路をそれぞれ形成していた。また,大島瀬戸は,その両側が陸岸に沿ってかきなどの養殖施設が設置されており,全体として,その航行可能な水域が狭められる状況となっていた。
 19時50分ごろA受審人は,岬灯台から257度1,200メートルばかりの地点に至り,狭い水域に入ったので,操舵を自動から手動に切り替え,20時08分番所根灯標から063.5度630メートルの地点に達したとき,大島北端と番所根間の狭い水域を航行するに際し,同水域の右側端を航行することとなる,番所根の南側至近を航過するつもりで,針路を243度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)として進行した。
 針路を定めたとき,A受審人は,左舷船首9度1,020メートルのところに,長須賀丸が表示する白,緑2灯を視認し,その灯火の視認模様から同船とは横切り関係にあり,自船は針路,速力の保持義務があるものと思い,針路,速力を保って続航した。
 20時09分A受審人は,番所根灯標から065度370メートルの地点に至り,依然として白,緑2灯を表示した長須賀丸を左舷船首12度510メートルに認める状況となったが,その方位も左方に変化しているので,そのうち同船も狭い水域の右側端を航行するために右転するであろうし,互いに左舷を対して航過できるものと思い,有効な音響による注意喚起信号を行うことも,速力を減じるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく進行した。
 20時09分半少し前A受審人は,番所根灯標から066.5度260メートルの地点に達したとき,長須賀丸が左転して自船の前路に進出する態勢となったが,依然として同船が自船を避けるものと思い,同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま続航した。
 こうして,健勝丸は,A受審人が長須賀丸が自船を避けるものと思って進行中,20時10分わずか前左舷船首至近に迫った長須賀丸を認めて衝突の危険を感じ,機関中立,続いて後進にかけたが,及ばず,20時10分番所根灯標から071度100メートルの地点において,原針路,原速力のまま,健勝丸の右舷船首部が長須賀丸の右舷中央部に前方から30度の角度をもって衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期で,月齢は27.6であった。
 また,長須賀丸は,一級小型船舶操縦士免許を所有するB受審人が1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,はも釣りの目的で,船首0.10メートル船尾0.36メートルの喫水をもって,同日16時30分宮城県舞根漁港を発し,大島の一杯森西方沖合の釣り場に向かった。
 16時55分B受審人は,釣り場に至り,かき筏に係留して釣りを始め,はもを8匹ほど釣ったところで,帰港することとし,20時00分気仙沼港梶ケ浦防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から186度980メートルの釣り場を発進して帰途に就いた。
 20時03分少し前B受審人は,防波堤灯台から184.5度530メートルの地点に達したとき,大島瀬戸を経て帰港するため右転し,機関回転数を毎分2,700の前進にかけ,速力を8.4ノットとして航行を続けた。
 20時08分少し前B受審人は,番所根灯標から218度480メートルの地点に達したとき,針路を048度に定め,舵輪の後方に立って操舵しながら進行した。
 20時09分B受審人は,番所根灯標から200度180メートルの地点に至ったとき,右舷船首3度510メートルのところに,南西進する健勝丸の白,紅2灯を視認することができたが,自船が小型船で小回りが効くので,いつでも他船を避航できるものと思い,前路の見張りを十分に行っていなかったこともあって,前方の陸岸の灯火に紛れていたためか,接近する健勝丸の灯火を見落としたまま続航した。
 20時09分半少し前B受審人は,番所根灯標から176度100メートルの地点に至り,ほぼ正船首310メートルのところに,互いに無難に航過する態勢の健勝丸の灯火を視認することができたものの,このことに気付かず,少しでも近回りするつもりで,健勝丸の前路に向かって進出することとなる033度の針路に転じて進行した。
 こうして,長須賀丸は,B受審人が衝突の危険がある態勢で,健勝丸に接近する状況となったことに気付かないまま進行中,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,健勝丸は,船首部に擦過傷を生じたが,修理を行わず,そのままとされ,長須賀丸は,右舷中央部外板などを圧壊し,廃船とされた。また,B受審人が約3箇月の入院加療を要する脳挫傷,顔面及び全身裂傷などを負い,同乗者が左第9肋骨及び左第10肋骨を骨折した。

(航法の適用)
 本件は,気仙沼港の港域外の宮城県大島水道東口において,南西進中の健勝丸と北東進中の長須賀丸とが衝突したものであるが,以下適用すべき航法について検討する。
 港域外であるから港則法の適用はなく,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用され,発生地点が番所根と大島北端とで形成された,可航幅が約100メートルの狭い水道である。
 したがって,本件には予防法第9条第1項を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 健勝丸
(1)A受審人が,長須賀丸の右舷灯を視認していたこと
(2)A受審人が,長須賀丸が左舷前方から接近しており,航海灯の視認模様から同船に対して保持船の立場にあると思っていたこと
(3)番所根に接近する進路をとっており,右舷側に避航水域がなかったこと
(4)A受審人が,長須賀丸が自船を避けると思い,動静監視が十分でなかったこと
(5)有効な音響による注意喚起信号を行わなかったこと
(6)速力を減じるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 長須賀丸
(1)レーダーを装備していなかったこと
(2)狭い水道の右側端に寄って航行していなかったこと
(3)B受審人が,針路を左に転じ,健勝丸の前路に進出し,衝突の危険を生じさせたこと
(4)B受審人が,見張りを十分に行っていなかったこと
(5)B受審人が,いつでも他船を避航できると思っていたこと

3 その他
(1)可航幅の狭い水道であったこと

(原因の考察)
 本件は,両船が狭い水道を航行中に衝突したものであるが,以下,その原因について考察する。
 B受審人が,狭い水道の右側端に寄って航行しなかったこと,自船が小型船であることから小回りが効き,遭遇する他船をいつでも避航できると思い,前路の見張りを十分に行わなかったこと,及び健勝丸と左舷を対して無難に航過する態勢で進行中,近回りするつもりで針路を左に転じて健勝丸の前路に進出し,衝突の危険を生じさせたことは,いずれも本件発生の原因となる。
 また,長須賀丸がレーダーを装備していなかったことは,本件衝突に至る過程において関与して事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められず,本件発生の原因とならない。
 A受審人が,長須賀丸が右舷灯を見せて前路を右方に横切る態勢で航行しているのを認めていながら,同船が避航船の立場にあり,いずれ自船を避けるものと思い,動静監視を十分に行わず,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となった際,速やかに有効な音響による注意喚起信号を行うことも,更に接近したとき速力を減じるなどの衝突を避けるための措置もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 健勝丸が番所根に接近する進路をとっていて右舷側に避航水域がなかったこと,及び可航幅が狭い水道であったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められず,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,宮城県大島瀬戸において,第8長須賀丸が,狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか,見張り不十分で,第三健勝丸と左舷を対して無難に航過する態勢のとき,同船の前路に向け,衝突の危険を生じさせたことによって発生したが,第三健勝丸が,動静監視不十分で,有効な音響による注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,遊漁を終え,宮城県大島瀬戸を経て帰港する場合,反航する第三健勝丸を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が小型船で小回りが効くので,いつでも他船を避航できるものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,反航する第三健勝丸に気付かず,同船の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,第三健勝丸の船首部に擦過傷を生じさせ,第8長須賀丸の右舷中央部外板などを圧壊して廃船とさせ,また,B受審人が約3箇月の入院加療を要する脳挫傷,顔面及び全身裂傷などを負い,同乗者が左第9及び同第10各肋骨を骨折するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,はえ縄漁を終えた後,狭い水道である宮城県大島瀬戸を経て帰港する場合,反航する第8長須賀丸の態勢の変化を見落とすことのないよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,そのうち同船も右転するであろうし,互いに左舷を対して航過できるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,速力を減じるなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き,前示の損傷を生じさせ,負傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

  よって主文のとおり裁決する。


参考図
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