(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月24日06時45分
福島県四倉港北北東方沖合
(北緯37度12.6分 東経141度02.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船十八共同丸 |
漁船末吉丸 |
総トン数 |
499トン |
4.25トン |
全長 |
75.50メートル |
|
登録長 |
72.20メートル |
9.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,618キロワット |
139キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 十八共同丸
十八共同丸(以下「共同丸」という。)は,平成7年6月に建造された,航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端から船橋前面までの距離が約60メートルであった。
旋回時間は,左旋回において5度で8.3秒,90度で53.7秒,180度で1分40.2秒,270度で2分24.9秒及び360度で3分10.3秒で,右旋回の値もほぼ同様であり,最短停止時間は1分30.6秒であった。
当時,鋼材を半載の状態で,喫水は船首2.35メートル船尾3.90メートルで,眼高は,約9.5メートルであった。また,2台のレーダーは休止中で,自動操舵装置及びGPSは稼働中であった。
イ 末吉丸
末吉丸は,昭和57年5月に進水し,従業区域を丙区域とし,ひき網漁業やさし網漁業等に従事するFRP製漁船で,操舵室には魚群探知器のほか航海用具としてレーダー1台,GPSプロッター及び自動操舵装置を備えて,当時,レーダー及び自動操舵装置を休止とし,魚群探知器及びGPSを稼働していた。
3 事実の経過
共同丸は,船長C及びA受審人ほか4人が乗り組み,平成16年10月23日12時10分千葉港を発し,宮城県仙台塩釜港に向かった。
船橋当直は,単独3直制を採り,次席一等航海士が00時から04時まで及び12時から16時まで,A受審人が04時から08時まで及び16時から20時まで,C船長が08時から12時まで及び20時から24時まで,それぞれの時間帯を各人が受け持った。
翌24日04時ごろA受審人は,川尻灯台の東方14海里ばかりのところを北上中に次席一等航海士から単独船橋当直を引き継ぎ,06時00分塩屋埼灯台から039度(真方位,以下同じ。)4.0海里の地点に達したとき,針路を004度に定め,機関を全速力前進にかけ,13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行した。
06時35分A受審人は,久之浜港沖防波堤南灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)から045度2.4海里の地点に達したとき,右舷船首1度2.4海里のところに末吉丸を初めて認め,同船が南方を向き,船首の波切りが見えなかったことから,漂泊している様子であり,自船が予定針路線の東側にいる状況であったので,末吉丸の西側を航過するよう同時36分沖防波堤灯台から042度2.6海里の地点で,針路を000度として続航した。
06時40分A受審人は,沖防波堤灯台から032度3.3海里の地点を航過し,以後,時々末吉丸から目を離したものの,同船が南方に向首した状態で漂泊を続け,同船の右舷側を約100メートル隔てて自船が無難に航過する態勢であったのを確認した。
A受審人は,少しの間末吉丸から目を離して06時44分半右舷船首17度300メートルのところで末吉丸が発進したことを見落としたものの,同時44分半わずか過ぎ同船が左舷側を見せ,自船の前路を横切る態勢で走り始めたのを認め,汽笛の短音を3回吹鳴し,同船に自船を避ける気配がなかったので左舵一杯として汽笛の長音を吹鳴し,衝突直前に機関停止としたが,及ばず,06時45分沖防波堤灯台から024度4.2海里の地点において,原速力のまま,315度に向首した共同丸の右舷中央部やや後方に末吉丸の船首が直角に衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期で,視程は良好であった。
また,末吉丸は,B受審人が1人で乗り組み,ひらめひき縄漁の目的で,船首0.40メートル船尾1.40メートルの喫水をもって,同日05時00分福島県久之浜漁港を発し,同県双葉郡広野火力発電所沖合の漁場に向かった。
漁場に着いたB受審人は,長さ42メートルばかりの幹縄の端に潜航板を取り付け,同板から長さ6メートルの先端及び途中に釣り針をつけた化学繊維製の釣り糸をつけたひき縄を,船尾両舷から出したプラスチック製の竿1本ずつにそれぞれつける操業の準備を行った。
06時14分B受審人は,沖防波堤灯台から027度5.5海里の地点を発進して針路を215度に定め,3.0ノットのひき縄速力で操業を開始したものの,一匹の漁獲もなかったことから漁場を移動することとし,06時40分沖防波堤灯台から025度4.3海里の地点で,船首を南方に向けた態勢で漂泊し,船尾でひき縄を手繰り寄せるなど漁具の収納にかかった。
06時44分半B受審人は,漁具の収納を終わったところで発進することとしたが,この付近は陸岸に近く,航行船舶はもう少し沖合を通航することが多かったことから,他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行うことなく,右舷船首17度300メートルのところを北上する共同丸に気付かず,操舵室に入って舵輪を左手に持ち,右下方の魚群探知器を監視しながら発進し,針路を225度に定め,魚群探知器を見ることができる9.0ノットの速力で進行した。
B受審人は,魚群探知器の監視に専念し,共同丸の吹鳴した汽笛音に気付かないまま,原針路,原速力のまま続航中,前示のとおり衝突し,初めて共同丸に気付いた。
衝突の結果,共同丸は右舷中央部やや後方の外板に凹損を生じ,末吉丸は船首部を圧壊したが,のちいずれも修理され,B受審人は胸部及び左大腿部打撲傷を負った。
(本件発生に至る事由)
1 共同丸
(1)A受審人が,末吉丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(2)A受審人が,正規の警告信号を行わず,衝突を避けるための措置が遅れたこと
2 末吉丸
(1)B受審人が,本件発生地点付近は陸岸近くなので内航船はいないものと思って前方の見張りを行わずに発進したこと
(2)B受審人が,魚群探知器の監視に気を奪われて前方の見張りを行わずに進行したこと
(3)B受審人が,共同丸の汽笛音に気付かなかったこと
(原因の考察)
本件は,北上中の共同丸が,南方に向首して漂泊中の末吉丸の右舷側を無難に航過する態勢で進行中,突然,本件発生の30秒前に末吉丸が発進し,共同丸の前路に進出して衝突したものである。
本件当時,A受審人は,右舷前方に認めた漂泊中の末吉丸を無難に航過する態勢であり,同船の発進が衝突間近であったから,同船の発進は予想不可能であったと認められる。
したがって,A受審人が,末吉丸から時々目を離して動静監視を十分に行っていなかったこと,正規の警告信号を行わなかったこと,同船を避けるための措置をとることが遅れたことは,本件発生の原因とならない。
一方,漂泊中及び発進直後の末吉丸が,見張りを十分に行っておれば,右舷前方から自船の右舷側を無難に航過する態勢で接近する共同丸を認識して衝突を避けるための措置をとり,発生を回避できたと認められる。
したがって,B受審人が,発進前に,この付近は陸岸に近く,航行船舶はもう少し沖合を通航することが多かったことから,他船はいないものと思い,発進前の周囲の確認を怠り,発進後,魚群探知器の監視に専念し,見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,福島県四倉港北北東方沖合において,漂泊中の末吉丸が,見張り不十分で,無難に航過する態勢で北上中の共同丸の前路に向けて急発進したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は,福島県四倉港北北東方沖合において漂泊中,漁場移動のために発進する場合,右舷前方から無難に航過する態勢で北上する共同丸を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,付近は陸岸に近く,航行船舶はもう少し沖合を通航することが多かったことから,他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,共同丸を見落とし,同船に気付かないまま発進して衝突を招き,共同丸の右舷中央部やや後方に凹損を,末吉丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせ,自身は胸部及び左大腿部打撲傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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