(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月5日03時38分
秋田県八森漁港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船菱洋丸 |
漁船良豊丸 |
総トン数 |
499トン |
4.02トン |
登録長 |
73.43メートル |
8.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
180キロワット |
3 事実の経過
菱洋丸は,航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型の鋼製貨物船で,A受審人ほか3人が乗り組み,半載状態となる,肥料500トンを積載し,船首2.7メートル船尾4.2メートルの喫水をもって,平成16年10月4日14時45分新潟県新潟港を発し,北海道苫小牧港に向かった。
翌5日03時00分A受審人は,チゴキ埼灯台から224度(真方位,以下同じ。)16.8海里の地点で,一等航海士と交替して単独の船橋当直に就き,針路を011度に定め,機関を全速力前進にかけて12.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
03時20分A受審人は,チゴキ埼灯台から233.5度13.8海里の地点に達したとき,右舷船首32度5.3海里のところに,良豊丸のレーダー映像を初めて認め,その後,同船が西進しているのを知った。
03時33分A受審人は,チゴキ埼灯台から242.5度12.0海里の地点に達したとき,右舷船首34度1.5海里のところに,良豊丸が白,紅2灯を表示し,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,動静監視不十分で,自船の船尾方を航過して行くものと思い,同船の進路を避けることなく続航した。
こうして,菱洋丸は,A受審人が衝突のおそれがある態勢で接近する良豊丸に気付かないまま,原針路,原速力を保って進行中,03時38分少し前右舷船首至近に迫った良豊丸に衝突の危険を感じ,左舵一杯とし,続いて機関を停止したが,及ばず,03時38分チゴキ埼灯台から246度11.3海里の地点において,その船首が250度を向いたとき,右舷中央部外板に,良豊丸の左舷船尾部が前方から17度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
また,良豊丸は,一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で,昭和62年10月に取得した一級小型船舶操縦士免許を有するB受審人が1人で乗り組み,まぐろはえ縄漁を行う目的で,船首0.3メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,同日02時15分秋田県八森漁港を発し,同漁港西方沖合の漁場に向かった。
03時33分B受審人は,チゴキ埼灯台から244度10.6海里の地点に達したとき,針路を267度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力とし,自動操舵により進行した。
針路を定めたとき,B受審人は,左舷船首42度1.5海里のところに,菱洋丸の白,白,緑3灯を視認でき,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが,右舷前方で操業中の僚船に気を取られていて,このことに気付かず,有効な音響による警告信号を行うことも,更に間近に接近したとき,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
こうして,良豊丸は,B受審人が左方から衝突のおそれがある態勢で接近する菱洋丸に気付かないまま,原針路,原速力で進行中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,菱洋丸は,右舷中央部外板に擦過傷を生じ,良豊丸は,左舷船尾部外板に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は,夜間,秋田県八森漁港西方沖合において,両船が互いに進路を横切り,衝突のおそれがある態勢で接近中,菱洋丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る良豊丸の進路を避けなかったことによって発生したが,良豊丸が,見張り不十分で,有効な音響による警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,秋田県八森漁港西方沖合を苫小牧港に向けて北上中,右舷船首方に良豊丸のレーダー映像を認めた場合,衝突のおそれがある態勢で接近する同船を早期に避けることができるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船の船尾方を航過して行くものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,良豊丸を避航する時機を失して同船との衝突を招き,菱洋丸の右舷中央部外板に擦過傷を,良豊丸の左舷船尾部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,秋田県八森漁港西方沖合を漁場に向けて西行する場合,衝突のおそれがある態勢で接近する菱洋丸を早期に視認できるよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷前方で操業中の僚船に気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する菱洋丸に気付かず,有効な音響による警告信号を行うことも,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3項を適用して同人を戒告する。