(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月27日05時20分
北海道根室港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第15勝盛丸 |
漁船第18紀恵丸 |
総トン数 |
1.0トン |
0.9トン |
登録長 |
6.83メートル |
6.57メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
22キロワット |
22キロワット |
3 事実の経過
第15勝盛丸(以下「勝盛丸」という。)は,和船型でレーダー不装備の船外機付きFRP製漁船で,A受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,えびかご漁の目的で,船首及び船尾とも0.1メートルの喫水をもって,平成16年7月27日04時00分北海道根室港第2船だまりの係留地を発し,04時10分弁天島西岸から100メートル沖合の漁場に至って操業を行い,漁獲したえびを生け簀に移し替えるため一旦同係留地に戻ったあと,05時14分再出航し,そのころ霧により視程が800メートルの状況下,次の漁場のルエカ岩北方沖合に向かった。
ところで,根室港は,3号物揚場北東端から北東方に中防波堤が設けられ,その沖合の弁天島北東端に西防波堤が,同島南西端にバラ島を挟んで南防波堤が築造されていることから,同物揚場と弁天島との間には,長さ約700メートル,最小の可航幅約230メートルの水路(以下「航路筋」という。)が形成されていた。
A受審人は,05時17分半中防波堤先端を左舷正横方60メートルに見て左転を開始し,狭い航路筋に向けて南下することとなったが,その右側端に寄って航行することなく,05時18分根室港南防波堤灯台(以下「根室港南灯台」という。)から046度(真方位,以下同じ。)760メートルの地点に至ったとき,針路を210度に定め,船外機のスロットルを調節して6.0ノットの対地速力とし,甲板員が船尾方を向いて中央部に座り,自らは右舷船尾部の物入れに座って同機の操縦ハンドルを操作して進行した。
勝盛丸は,中速力以上で航行すると船首部が浮上することから,右舷船尾部に座った状態では,船首方の見通しが妨げられる状況であったが,立ち上がるなどすれば周囲を見渡すことができた。
05時18分少し過ぎA受審人は,根室港南灯台から047度720メートルの地点に達したとき,右舷船首4度760メートルのところに第18紀恵丸(以下「紀恵丸」という。)を視認でき,その後同船と方位に変化なく,衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが,左転したとき船首方に他船を見かけなかったことから,前路に他船はいないものと思い,立ち上がるなど前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま,続航中,勝盛丸は,05時20分根室港南灯台から060度420メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その左舷船首が紀恵丸の左舷船首に前方から6度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風力1の南西風が吹き,潮候はほぼ低潮時で,視程は約800メートルであった。
また,紀恵丸は,和船型でレーダー不装備の船外機付きFRP製漁船で,B受審人(昭和50年9月二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)ほか1人が乗り組み,えびかご漁の目的で,船首及び船尾とも0.1メートルの喫水をもって,同日03時30分根室港第3船だまりの係留地を発し,ルエカ岩北方沖合の漁場に至って操業を行い,えび約5キログラムを漁獲したあと,05時13分同漁場を発進し,そのころ霧により視程が800メートルの状況下,次の漁場の北浜町西方沖合に向かった。
ところで,紀恵丸は,中速力以上で航行すると船首部が浮上することから,右舷船尾部に座った状態では,船首方の見通しが妨げられる状況であったが,立ち上がるなどすれば周囲を見渡すことができた。
B受審人は,漁場近辺に旗竿などの漁具が沢山あることや,水深が浅いことから,発進後,ゆっくりした速力で北上し,05時17分根室港南灯台から191度400メートルの地点に至ったとき,針路を036度に定め,船外機のスロットルを調節して8.0ノットの対地速力とし,甲板員が左舷船首部で船尾方を向いて座り,自らは右舷船尾部の物入れに座って同機の操縦ハンドルを操作して進行した。
05時18分B受審人は,狭い航路筋南口の手前約150メートルの地点に差し掛かったが,その右側端に寄って航行することなく,同じ針路のまま続航した。
B受審人は,05時18分少し過ぎ根室港南灯台から143度180メートルの地点に達したとき,左舷船首2度760メートルのところに勝盛丸を視認でき,その後同船と方位に変化なく,衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが,定針したとき他船を見かけなかったことから,前路に他船はいないものと思い,立ち上がるなど前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま,進行中,紀恵丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,勝盛丸は,左舷側船首部外板に破損を,紀恵丸は,左舷側船首部外板に破損を生じたが,のちいずれも修理され,紀恵丸甲板員Cが転倒して中心性頚髄損傷を負った。
(原 因)
本件衝突は,根室港の狭い航路筋において,両船がその右側端に寄って航行しなかったばかりか,互いに近距離で行き会う態勢となって衝突のおそれが生じた際,南下する勝盛丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,北上する紀恵丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,漁場に向け根室港の狭い航路筋を南下する場合,前路から接近する他船を見落とさないよう,立ち上がるなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,左転したとき船首方に他船を見かけなかったことから,前路に他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,紀恵丸の存在と接近に気付かず,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,勝盛丸の左舷側船首部外板に破損を,紀恵丸の左舷側船首部外板に破損をそれぞれ生じさせ,紀恵丸の甲板員を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,漁場を移動するため根室港の狭い航路筋を北上する場合,前路から接近する他船を見落とさないよう,立ち上がるなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,定針したとき他船を見かけなかったことから,前路に他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,勝盛丸の存在と接近に気付かず,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。