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平成17年函審第32号
件名

漁船第五菊栄丸貨物船メディ ナガサキ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月20日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(堀川康基,弓田邦雄,西山烝一)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第五菊栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第五菊栄丸・・・・・・船首部を圧壊,甲板員1人負傷
メディ ナガサキ・・・左舷側外板に擦過傷

原因
第五菊栄丸・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
メディ ナガサキ・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五菊栄丸が,操舵室を無人とし,前路を左方に横切るメディ ナガサキの進路を避けなかったことによって発生したが,メディ ナガサキが警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月26日17時27分
 津軽海峡
 (北緯41度34.6分 東経140度47.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第五菊栄丸 貨物船メディ ナガサキ
総トン数 9.7トン 29,295トン
全長 19.70メートル 188.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 503キロワット 7,685キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第五菊栄丸
 第五菊栄丸(以下「菊栄丸」という。)は,平成4年4月に進水したいか一本つり漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に操舵室があるFRP製漁船で,同室には操舵スタンド,レーダー2台,GPSプロッタ,魚群探知機及びソナーなどが装備されていた。
 また,操舵室前面から船首マストまで6メートルばかりの前部甲板には,日よけ,風よけをして漁獲物整理作業がしやすいように,操舵室前面窓下高さ1.8メートルばかりのオーニングが設けられていて,その天井及び船首方囲部分が不透明プラスチック製板,両側面がカーテン式の白色ビニールシートで覆われ,作業台,魚箱などが置かれてあり,当時,操舵室前面から船首方へ2メートルばかりの両脇が開放されていたが,オーニング内からは船首方が見通せない状況であった。
イ メディ ナガサキ
 メディ ナガサキ(以下「メ号」という。)は,西暦2003年に建造された船尾船橋型 鋼製貨物船で,船橋にはレーダー2台,自動衝突予防援助装置,GPSプロッタ及び音響測深機などを備え,船首端より船橋前面までの距離が約161メートルであった。
 運動性能は,満載状態において,航海速力,港内全速力,半速力,微速力,極微速力がそれぞれ14.7ノット,10.5ノット,7.8ノット,5.8ノット,3.7ノットであり,全速力で航走中に右旋回するときの最大縦距539メートル,最大横距590メートル及び90度回頭に要する時間は1分37秒で,最短停止距離が1,991メートルであった。

3 事実の経過
 菊栄丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,いか一本つり漁の目的で,船首0.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,平成16年12月26日07時00分青森県材木漁港を発し,07時30分同漁港北西方沖合の漁場に至って操業を開始した。
 17時00分A受審人は,大間埼灯台から304度(真方位,以下同じ。)9.3海里の地点で,それまでにいか440キログラムばかりを漁獲して操業を終え,水揚港である青森県奥戸漁港に向かうため,針路を材木鼻に向く149度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進の10.0ノット(対地速力,以下同じ。)にかけ,航行中の動力船であることを示す灯火を掲げて帰途に就いた。
 ところで,菊栄丸にはいか釣り機が11台あって,1台ごとにいかを取り入れる流し台(以下「いか流し台」という。)が舷外に向けて取り付けられており,船体動揺で波浪と接触して破損するおそれがあったことから,航行するときは船内に取り込むこととしていた。
 A受審人は定針したあと,6海里レンジとして作動させていた主レーダーを,船首方9海里まで探知するオフセンターにセットしたところ,前路に普段から集団で出漁しているまぐろ漁船の映像と右舷前方5海里ばかりに大型船の映像を認めたものの,いか流し台を取り込むため,操舵室を出て同台の取り込み作業を始め,同作業を終えたあとも同室に戻らず同室を無人としたまま,オーニングの中で甲板員とともに漁獲したいかの整理作業を行った。
 17時20分少し前A受審人は,大間埼灯台292度6.5海里の地点に達したとき,右舷船首52度2.0海里のところにメ号の白,白,紅3灯を視認することができ,その後,メ号の方位がほとんど変わらず,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,操舵室を離れるときに認めたレーダー映像は,自船の航行の支障にはならず,しばらくは大丈夫と思い,船舶の輻輳する海域で在橋して見張りに専念しなかったので,このことに気付かず,右転するなどメ号の針路を避けないまま進行した。
 菊栄丸は,メ号が照射した昼間信号灯にも気付かず,同じ針路,速力のまま続航中,17時27分大間埼灯台から284度5.5海里の地点において,その船首がメ号の左舷前部に,後方から60度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力5の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 また,メ号は,B国国籍の船長C及び一等航海士Dほか同国人17人が乗り組み,石炭44,000トンを載せ,船首10.82メートル船尾10.83メートルの喫水をもって,同月18日10時36分(現地時間)ベトナム社会主義共和国カンパ港を発し,北海道室蘭港に向かった。
 C船長は,船橋当直を航海士に操舵手1人を付けた,3直交替による4時間当直制をとり,越えて,24日対馬海峡を通航して日本海を北上し,翌々26日,龍飛埼西方7海里ばかりの地点に達した15時00分ごろ,津軽海峡東航時の船橋指揮を執るために昇橋した。
 16時00分D一等航海士は,矢越岬南方7.4海里ばかりの地点で甲板員1人とともに船橋当直に就き,16時13分日没となったところで,航行中の動力船であることを示す灯火を点灯して北東進し,17時15分大間埼灯台から269度7.6海里の地点で,甲板員を操舵につけ針路を056度に定め,機関を全速力前進にかけて14.2ノットの速力で進行した。
 定針したとき,C船長は,レーダー情報により,左舷船首36度3.4海里のところに菊栄丸が149度の針路及び10.0ノットの速力で航行しているのを認め,動静監視をして続航した。
 17時20分少し前C船長は,大間埼灯台から275度6.7海里の地点に達したとき,菊栄丸の白,緑2灯を視認するとともに,同船がほぼ同方向2.0海里となり,その後も方位にほとんど変化のないまま,同船が自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,菊栄丸の方で避航することを期待して,警告信号を行わず,自船の運動性能を考慮し,間近に接近したとき速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 17時24分C船長は,菊栄丸が自船を避航する気配がないまま,1,300メートルに接近したのを認め,衝突の危険を感じて機関用意を命じ,昼間信号灯を照射して注意喚起を行い,続いて機関を減速して右舵一杯をとったが及ばず,メ号は,その船首が089度を向き9.5ノットの速力となったとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,菊栄丸は船首部に圧壊を生じたがのち修理され,メ号は左舷側外板に擦過傷を生じ,甲板員Eが1箇月半の通院加療を要する腰部挫傷などを負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,津軽海峡において,南下する菊栄丸と東航するメ号とが,その接近模様から互いに進路を横切り,相手船の舷灯を見る態勢で接近し,衝突のおそれがあったことから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 菊栄丸
(1)操舵室を無人として漁獲物整理作業に当たっていたこと
(2)在橋して見張りに専念しなかったこと


2 メ号
(1)昼間信号灯を照射したが警告信号を行わなかったこと
(2)衝突を避けるための協力動作を速やかにとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,菊栄丸が,操舵室で見張りに専念していたなら,接近するメ号を認識して同船の進路を避け,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,操舵室を出ていか流し台を収納した後,同室に戻らず漁獲物整理作業に当たり,操舵室を無人として見張りに専念しなかったこと,メ号の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 他方,メ号が,衝突のおそれがある態勢で接近する菊栄丸に対し警告信号を行っていれば,菊栄丸が気付いて,メ号の進路を避けることが推認でき,また避航の動作が見られないまま接近するとき,運動性能を考慮して,速やかに衝突を避けるための協力動作がとられていたなら,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,C船長が,警告信号を行わなかったこと及び自船の運動性能を考慮して,速やかに衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,津軽海峡大間埼西方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,南下する菊栄丸が,操舵室を無人とし,前路を左方に横切るメ号の進路を避けなかったことによって発生したが,東航中のメ号が,避航動作をとらないまま接近する菊栄丸に対して警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,津軽海峡大間埼西方沖合において,水揚港に向け南下する場合,船舶が輻輳する海域であるから,接近するメ号を見落とすことのないよう,在橋して見張りに専念すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,認めた他漁船などのレーダー映像は自船の航行の支障にはならず,しばらくは大丈夫と思い,いか流し台を船内に取り込むため操舵室を離れ,同台を取り込んだあとも同室に戻らず漁獲物整理作業に当たり,操舵室を無人として見張りに専念しなかった職務上の過失により,右舷前方から衝突のおそれがある態勢で接近するメ号に気付かず,同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,菊栄丸の船首部に圧壊を,メ号の左舷側外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ,E甲板員に腰部挫傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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