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平成16年第二審第40号
件名

押船第二十八みつ丸被押起重機船350光海号光ケーブル損傷事件[原審・那覇]

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成17年11月9日

審判庁区分
高等海難審判庁(上野延之,大須賀英郎,山田豊三郎,竹内伸二,坂爪 靖)

理事官
川俣従道

受審人
A 職名:第二十八みつ丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:C社専務取締役(運航管理責任者)

第二審請求者
理事官熊谷孝徳

損害
光海号・・・左舷側のスパッド上端部付近に接触痕
光ケーブル・・・切断

原因
光海号・・・針路選定不適切
運航管理責任者・・・水路調査不十分で海峡の通航を勧めたこと

主文

 本件光ケーブル損傷は,針路の選定が不適切で,光ケーブルが架設された元ノ間海峡を通航したことによって発生したものである。
 押船第二十八みつ丸被押起重機船350光海号の運航管理責任者が,水路調査不十分で,元ノ間海峡の通航を勧めたことは,本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 指定海難関係人Bに対して勧告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月8日15時15分
 大分県元ノ間海峡
 (北緯32度57.0分 東経132度04.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第二十八みつ丸 起重機船350光海号
総トン数 19トン 約1,884トン
全長 13.45メートル 58.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,206キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第二十八みつ丸
 第二十八みつ丸(以下「みつ丸」という。)は,平成13年6月に進水し,沿海区域を航行区域とする最大とう載人員が12人の2機2軸引船兼押船兼交通船で,船体中央部の甲板下に機関室,同室前部甲板上に船橋,同船橋上方で海面上約10メートルのところに押船時に使用する操船用固定式船橋(以下「上部船橋」という。)を設けていた。
 上部船橋内には,前部中央に操舵輪,その右斜上に磁気コンパス,操舵輪の左舷側にレーダー,その真上にGPSプロッター,その左側に音響測深機及び操舵輪の右側に主機遠隔操縦装置がそれぞれ設置され,船橋前面が角窓となっていた。
 また,船首部にアーチカップル式嵌合装置が装備され,同部外板に被押船との緩衝装置としてゴムフェンダーを取り付けていた。
 みつ丸は,平成13年7月にC社が船舶所有者D社から借り入れ,専ら被押起重機船と嵌合して運航されていた。
イ 350光海号
 350光海号(以下「光海号」という。)は,油圧式スパッド装置搭載の非自航型起重機船で,船首部甲板上に最大吊上能力310トンの旋回式クレーン(以下「クレーン」という。),その甲板下にサイドスラスタ室,船体中央部甲板上に積荷区画及び船尾中央部に凹部及びその凹部を囲むように甲板上に2層の居住区があり,両舷舷側付近に各辺1.2メートルの角柱状で長さ28メートルのスパッドがそれぞれ立てた状態で設備されていた。
 また,光海号は,航行中にクレーンのジブを船尾方に向けて船首尾線から約10度右舷側に振り,その先端部を居住区わきに設けた高さ約7メートルの架台に格納し,スパッドを船底下に露出しないよう約2メートル押し上げていた。なお,本件発生当時,喫水により船体最高部のスパッド上端は海面上26.2メートルであった。
 光海号は,みつ丸と同様にC社がD社から借り入れ,みつ丸船首部を光海号船尾凹部に嵌合し,全長約60メートルの押船みつ丸被押光海号(以下「みつ丸押船列」という。)となって運航されていた。
 みつ丸押船列の航行中における船首方の見通しについては,クレーンハウスによってみつ丸の上部船橋から正船首方左右両舷約9度の範囲が船首端から約300メートル前方まで見えず,また,クレーンのジブによって右舷方の視界にやや支障が生じる状態であったが,前方上空の見通しは良好であった。
 みつ丸押船列は航海速力約6ノットで,その旋回径が同押船列の長さの約3倍,最短停止距離が約7倍であった。

3 C社
 C社は,昭和50年1月に創業,営業種目を土木工事,浚渫工事,とび土工工事及び潜水業とする,従業員が約55人の会社で,大分県に本社及び沖縄県に支店をそれぞれ構え,起重機船5隻,台船3隻,潜水士船12隻,引船及び押船などの船舶10隻を運航して業務を行っていた。

4 元ノ間海峡
 元ノ間海峡は,大分県佐伯湾の南東部に位置しており,鶴見半島の北岸にある地蔵埼とその対岸にある大島南端の立花鼻とによって挟まれた幅約450メートルの海峡で,地蔵埼沖の元ノ間灯標と立花鼻沖の大阪碆とにより最狭部が形成され,その可航幅は約200メートルであった。
 また,地蔵埼及び立花鼻付近には,架空線用の鉄塔(以下「鉄塔」という。)がそれぞれにあり,地蔵埼の鉄塔から立花鼻の鉄塔に,架空線として太さ約12ミリメートルの電力線4本及びその下方約12メートルに太さ約10ミリメートルのアルミ覆鋼より線を支持線とする太さ約5ミリメートルの架空地線巻付型光ファイバケーブル(以下「光ケーブル」という。)1本がそれぞれ渡されており,同ケーブル最下垂部の高さは略最高高潮面から23.8メートルで,海図W1245にその存在と高さが23メートルと記載されていた。

5 事実の経過
 みつ丸押船列は,A受審人と作業員3人が乗り組み,回航の目的で,船首1.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって,平成15年11月6日16時00分総トン数153トンの引船E丸に引かせて沖縄県那覇港を発し,大分県南海部郡上浦町(平成17年3月3日佐伯市,南海部郡鶴見町等と合併し,佐伯市となった。)夏井沖合の魚礁据付け工事現場に向かった。
 ところで,A受審人は,奄美諸島以南の沿海区域でみつ丸押船列の運航に従事していたところ,同年10月初旬に佐伯湾の工事現場まで回航するようにC社から指示され,発航前に沖縄県内の水路図誌販売所に関係海図を注文した。しかし,同所に在庫がなく取り寄せとなったことから出航日に間に合わず,入手できなかったので本社に依頼し,海図第151号を支給され,これを見て障害物のない広い海域の大島北方沖を航行して目的地に向かう航海計画を立てた。
 A受審人は,E丸に曳航させ,みつ丸の機関を全速力前進にかけ,船橋当直を自らと作業員とによる単独3時間交替制として当直を行いながら北上した。
 翌々8日12時15分A受審人は,大分県深島の北東方約1海里沖で,E丸の曳航索を外して同船による曳航を終了させ,みつ丸押船列として航行を続けた。
 一方,B指定海難関係人は,みつ丸押船列の乗組員全員が佐伯湾周辺海域の航行経験がないことを知って船長の補佐をするため,同船に乗ることとした。
 B指定海難関係人は,以前にガット船に乗って元ノ間海峡を通航した折,その船の乗組員から元ノ間海峡の架空線の高さが35メートルであることを聞いていたことから,みつ丸押船列が同海峡を安全に通航できるものと思い,元ノ間海峡に光ケーブルが設置されたことを聞いていたものの,海図W1245で元ノ間海峡にある架空線最下垂部の高さを調べるなど水路調査を十分に行わなかったので,最下垂部の高さが23.8メートルであることを知らず,海面上の高さ26.2メートルのスパッド上端部が同光ケーブルと接触するおそれがあることに気付かなかった。
 14時29分B指定海難関係人は,鶴御埼南方約2海里沖において,潜水士船F丸(総トン数5トン未満)から社員Gとともにみつ丸押船列に移乗した。
 移乗後,B指定海難関係人は,昇橋してA受審人に挨拶し,その後光海号の甲板上積荷区画の右舷側付近に立って見張りをしていたところ,在橋していたを通じ,A受審人が大島北方沖を航行して目的地に向かう予定であることを聞き,航海時間短縮のため元ノ間海峡の通航を勧めた。
 A受審人は,G社員を通じてB指定海難関係人から元ノ間海峡の通航を勧められたが,元ノ間海峡が記載されている佐伯湾周辺海域の大尺度の海図W1245を備えておらず,同海峡を安全に通航できるか調べることができなかったものの,那覇港発航時に航海計画を立てたとおり,目的地まで安全に航行できるよう,大島北方沖を航行するなど針路の選定を適切に行うことなく,船舶の運航管理責任者であるB指定海難関係人が勧めることから,同海峡を安全に通航できるものと思い,また,G社員から同海峡を通航するころは潮流が憩流期にあたるなどの情報を受け,当初の計画を変更して同海峡を通航することとした。
 14時53分少し前A受審人は,鶴御埼灯台から090度(真方位,以下同じ。)1,050メートルの地点で,針路を012度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,作業員2人を光海号の積荷区画後方中央に,ほかの作業員1人を同区画中央左舷側に,それぞれ位置させ,見張りに当てて進行した。
 14時59分少し前A受審人は,鶴御埼灯台から049.5度1,670メートルの地点に差し掛かったとき,左舷船首方に見える元ノ間海峡に向けて徐々に左転を始めた。
 B指定海難関係人は,元ノ間海峡両岸の地蔵埼及び立花鼻付近にそれぞれ架空線用の鉄塔及びほぼ同海峡上に両鉄塔間に張られた架空線を左舷船首方に視認したが,その高さが35メートルあると聞いていたことから,同海峡を安全に通航できるものと思い,A受審人にその旨を伝えることもせず,大阪碆の所在を見定めようと専ら立花鼻沖の海面に目を向けていた。
 15時03分わずか過ぎA受審人は,鶴御埼灯台から028度1,950メートルの地点に達したとき,左転を終えて元ノ間海峡の中央部付近に向かう276度の針路とし,手動操舵に切り替えて続航した。
 15時10分少し前A受審人は,元ノ間灯標から090.5度870メートルの地点に至り,減速して5.0ノットとしたものの,B指定海難関係人,G社員及び作業員3人とともに立花鼻沖の海面及び元ノ間灯標に目を向けながら進行した。
 15時15分みつ丸押船列は,元ノ間灯標から023度95メートルの地点において,原針路,原速力のまま続航中,光海号左舷側のスパッド上端部が光ケーブルに接触した。
 当時,天候は曇で風力2の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で元ノ間海峡付近は憩流期にあたり,視界は良好であった。
 その結果,光海号左舷側のスパッド上端部付近に接触痕を生じ,光ケーブルを切断した。
 光ケーブルと接触したとき,A受審人は,船体に軽い衝撃を感じ,船体を調べたがその原因が分からないでいたところ,架空線との接触の疑いをもったB指定海難関係人が,H社に問い合わせたものの,異常ないとの回答から,そのまま目的地に向かい,同年12月初旬に海上保安庁から本件発生の事実を伝えられた。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が那覇港を発航する前に元ノ間海峡の詳細を記載してある大尺度の佐伯湾周辺海域の海図を入手できなかったこと
2 B指定海難関係人がみつ丸押船列の船長を補佐するために乗船することとしたこと
3 B指定海難関係人がみつ丸押船列に乗る前に光ケーブルの海面上の高さを調べなかったこと
4 B指定海難関係人が元ノ間海峡の通航を勧めたこと
5 A受審人がB指定海難関係人から元ノ間海峡の通航を勧められたことから,同海峡を安全に通航できるものと思い,当初に航海計画を立てたとおり,目的地まで安全に航行できるよう大島北方沖を航行するなど針路の選定を適切に行わず,元ノ間海峡を通航したこと
6 A受審人が元ノ間海峡の架空線や光ケーブルの架設を知らなかったこと
7 B指定海難関係人が元ノ間海峡を通航中,専ら立花鼻沖の海面に目を向けていたこと
8 B指定海難関係人が,光ケーブルを視認できなかったこと
9 A受審人が元ノ間海峡を通航中,浅瀬や灯標に目を向けていたこと

(原因の考察)
 本件光ケーブル損傷は,元ノ間海峡を通航中,非自航型起重機船のスパッド上端部が架空線の光ケーブルに接触したことによって発生したものであり,その原因について考察する。
 A受審人が,佐伯湾に向けて航行中,B指定海難関係人から元ノ間海峡の通航を勧められた際,大尺度の海図を備えておらず,同海峡を安全に通航できるかどうか調べることができなかったのに,同海峡を安全に通航できるものと思い,当初に航海計画を立てたとおり,目的地まで安全に航行できるよう大島北方沖を航行するなど針路の選定を適切に行わず,元ノ間海峡を通航したことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が,みつ丸押船列に乗る前に架空線の海面上の高さ及び光ケーブルの架設を知っていたが,光ケーブルの海面上の高さを調べるなど水路調査を十分に行わないで,元ノ間海峡の通航を勧めたことは本件発生の原因となる。
 A受審人が,元ノ間海峡の架空線や光ケーブルの架設を知らなかったこと及び元ノ間海峡を通航中,浅瀬や灯標に目を向けていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,いずれも元ノ間海峡を通航しないで大島北方沖を航行していれば,本件の発生がなかったことから本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 B指定海難関係人が,みつ丸押船列に船長を補佐するために乗船することとしたこと,光ケーブルを視認できなかったこと及び元ノ間海峡を通航中,専ら立花鼻沖の海面に目を向けていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同指定海難関係人が光ケーブルの海面上の高さを調べないまま,A受審人に元ノ間海峡の通航を勧めなければ,本件の発生がなかったことから本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 A受審人が,那覇港を発航する前に元ノ間海峡の詳細を記載してある佐伯湾周辺海域の大尺度の海図W1245を入手できなかったことは,B指定海難関係人に元ノ間海峡の通航を勧められないで,当初に航海計画を立てたとおり,大島北方沖を航行すれば本件の発生がなかったことから本件発生の原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件光ケーブル損傷は,沖縄県那覇港から佐伯湾に向けて航行中,針路の選定が不適切で,船体最高部よりも低い光ケーブルが存在する元ノ間海峡を通航したことによって発生したものである。
 みつ丸押船列の運航管理責任者が,水路調査不十分で,光ケーブルの海面上の高さを調べないまま元ノ間海峡の通航を勧めたことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は,沖縄県那覇港から佐伯湾に向け航行中,B指定海難関係人から元ノ間海峡の通航を勧められた場合,同海峡が記載されている佐伯湾周辺海域の大尺度海図W1245を備えておらず,同海峡を安全に通航できるか調べることができなかったのであるから,当初に航海計画を立てたとおり,目的地まで安全に航行できるよう大島北方沖を航行するなど針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,船長を補佐するために乗船してきた同指定海難関係人が同海峡の通航を勧めることから,同海峡を安全に通航できるものと思い,針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,元ノ間海峡を通航して,光ケーブルとの接触を招き,光海号左舷側のスパッド上端部付近に接触痕を生じさせ,光ケーブルを切断させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,船長を補佐するためにみつ丸押船列に乗る前,光ケーブルの架設を知っていたものの,元ノ間海峡に架かる架空線の海面上の高さを聞いていたことからみつ丸押船列が同海峡を安全に通航できるものと思い,光ケーブルの海面上の高さを調べるなど水路調査を十分に行わず,A受審人に元ノ間海峡の通航を勧めたことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。

  よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年11月16日那審言渡
 本件光ケーブル損傷は,見張り不十分で,船体最高部よりも低い架空線が存在する元ノ間海峡を航行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。


参考図
 





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