(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月27日00時21分半
福島県久之浜港東方沖合
(北緯37度09.1分 東経141度04.9分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船あさか2 |
貨物船第二いよ丸 |
総トン数 |
2,719トン |
499トン |
全長 |
103.50メートル |
72.81メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,603キロワット |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
ア あさか2
あさか2は,平成4年7月に竣工した船首船橋型自動車運搬船で,4層の車両甲板を有し,最上層の車両積載区画の上部に操舵室が配置され,船首端から操舵室前面までの水平距離が約13メートルで,四日市港と千葉県浦安市経由の仙台塩釜港間,坂出港と広島港経由の博多港間の各航路に定期的に就航していた。
操舵室には,中央にジャイロコンパス付きの操舵スタンドが,その左舷側にARPA機能付きの主レーダー及び通常型の従レーダーが各1台,右舷側に主機遠隔操縦用コンソールがそれぞれ設置されており,同室上部にエアホーンを備えていた。
操縦性能は,海上公試運転成績書によれば,最大速力が約18.7ノット,初速18.6ノットにおける最短停止時間が約3分48秒で,舵角35度における左旋回時の最大縦距が約200メートル,最大横距が約265メートル,30度旋回及び360度旋回に要する時間がそれぞれ約19秒及び約2分51秒であった。
主機は,過給機付き2サイクル7シリンダの自己逆転型で,発停,順転,逆転及び増減速などの操作を頻繁に行う入出港時などには燃料としてA重油を使用し,航海状態では燃料をC重油に切り替えており,C重油使用中,回転数を減じることはできても,運転の停止はできない取扱いとなっていた。
イ 第二いよ丸
第二いよ丸(以下「いよ丸」という。)は,昭和62年2月に竣工した船尾船橋型貨物船で,船体中央部に長さ37.80メートル幅8.90メートルの貨物倉1個を有し,船首端から船橋前面までの水平距離が約57メートルで,主に仙台塩釜港を基地として国内各港間の鋼材輸送に従事していた。
操舵室には,前面中央に操船用コンソールが設置され,同コンソール中央にジャイロコンパス付きの操舵装置,左舷側にレーダー2台,右舷側に主機遠隔操縦装置などが組み込まれており,同室上部にエアホーンを備えていた。
操縦性能は,海上試運転成績書によれば,最大速力が機関回転数毎分353で約12.5ノット,初速12.4ノットにおける最短停止時間が約2分10秒,同停止距離が約470メートルで,舵角右35度における90度旋回及び360度旋回に要する時間がそれぞれ約57秒及び約3分24秒であった。
主機は,過給機付き4サイクル6シリンダで,クラッチ内蔵の逆転減速機を備えており,いつでも減速,中立及び逆転運転が可能であった。
3 事実の経過
あさか2は,A及びB両受審人ほか8人が乗り組み,乗用車246台を積載し,船首4.0メートル船尾5.2メートルの喫水をもって,平成15年8月26日10時30分千葉県浦安市千鳥の岸壁を発し,仙台塩釜港に向かった。
ところで,A受審人は,船橋当直を4時間交替の3直制とし,0時から4時の当直をB受審人,4時から8時の当直を自ら,8時から12時の当直を一等航海士として,各直に甲板手1名を配置した2人当直としており,平素から,各当直航海士に対し,視程約2海里を基準として視界制限状態となったときには報告するよう口頭で指示していたが,これまで同状態となっても報告がないことがあり,報告するかしないかは当直航海士の判断に任せていた。
こうして,A受審人は,夏季の霧の多発期に,東京湾から仙台塩釜港へ向けて本州東岸沖を北上するにあたり,視界制限状態となったときの報告については各当直航海士に一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,同状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底しなかったばかりか,霧中信号の励行や安全な速力で航行するための機関の使用などについて適切な指示をしていなかった。
23時20分ごろB受審人は,福島県塩屋埼南東方沖合で昇橋し,前直の一等航海士から当直中に霧で視界が制限されたことがあったものの今は回復したなどの引継ぎを受け,甲板手とともに当直に就き,2台装備されたレーダーのうち,ARPA機能付きの主レーダーのみを作動させ,3海里レンジで中心を2海里後方へ移動させたオフセンターとし,法定灯火を表示して同県東岸沖を北上した。
翌27日00時00分B受審人は,久之浜港沖西防波堤灯台(以下「久之浜港灯台」という。)から142度(真方位,以下同じ。)6.6海里の地点に達したとき,針路を000度に定め,機関を全速力前進にかけて15.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,もやで視程が2ないし3海里ばかりの中を自動操舵によって進行した。
00時14分B受審人は,久之浜港灯台から112度4.4海里の地点に達したとき,右舷船首1度3.0海里のところをいよ丸が南下中であったが,同船の周囲から北方に霧が広がっていてその灯火を視認できないでいたところ,右舷船首10度方向にマスト灯と右舷灯を表示した反航船(以下「第三船」という。)及び同船の左舷後方にマスト灯を表示した2ないし3隻の反航船を視認し,レーダーで自船に最も近い第三船までの距離が3.0海里であることを知ったものの,これらの距離の測定に気を奪われていたことからいよ丸の映像に気付かず,第三船をARPA機能で捕捉してその針路がほぼ180度であり,右舷を対して0.5海里の最接近距離で航過することを認め,更に航過距離を広げておけば安心であると思い,針路を350度に転じて続航した。
00時15分ごろB受審人は,霧のため視程が100メートルばかりとなり,左舷前方を先行していた同航船も右舷前方の反航船群も全て視認できない状態となったのを認めたが,左転したので接近する他船はいないものと思い,その後レーダーによる見張りを十分に行わず,また,やがて霧は晴れるだろうと思って視界制限状態となったことを船長に報告せず,機関の使用について船長から指示を受けていなかったので,機関室へ連絡して機関を直ちに操作することができるようにしなかったばかりか,安全な速力に減じることも,霧中信号の吹鳴も行わずに進行した。
自室で就寝していたA受審人は,視界制限状態となったときの報告を受けられず,自ら操船指揮をとることができなかった。
00時16分半B受審人は,いよ丸が右舷船首11度2.0海里となり,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,依然としてレーダーによる見張りを十分に行わず,ARPAのガードリング及び接近警報を設定していなかったこともあって,この状況に気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく,甲板手に右舷側で第三船を確認するよう指示するとともに,自らも目視による右舷側の見張りに主体をおいて続航した。
00時21分少し過ぎB受審人は,右舷前方至近のところに迫ったいよ丸を視認し,左舵一杯をとったが及ばず,00時21分半久之浜港灯台から086度3.7海里の地点において,あさか2は,ほぼ原速力のまま船首が330度を向いたとき,その右舷前部にいよ丸の左舷船首部が後方から60度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風はほとんどなく,視程は約100メートルであった。
A受審人は,自室で就寝中,衝撃を感じて急いで昇橋し,衝突の事実を知ったが,直ちに機関を停止できず,減速してA重油への切替を指示するとともに,事後の措置に当たった。
また,いよ丸は,C及びD両受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,船首2.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって,同月26日17時00分仙台塩釜港を発し,鹿島港に向かった。
ところで,C受審人は,船橋当直を6時間交替の2直制とし,5時から11時の当直を自ら,11時から17時の当直をD受審人とする単独当直としており,平素から,同人に対し,視界が悪くなったり不安を感じたりすれば報告するよう口頭で指示していたものの,報告するかしないかは同人の判断に任せていた。
こうして,C受審人は,夏季の霧の多発期に,仙台塩釜港から鹿島港へ向けて本州東岸沖を南下するにあたり,視界制限状態となったときの報告については一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,同状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底しなかったばかりか,霧中信号の励行や安全な速力に減じて航行することなどについて適切な指示をしていなかった。
D受審人は,23時00分ごろ福島県大熊町の小良ケ浜灯台沖で昇橋し,C受審人から,針路及び速力,視程が3海里程度であること,船首方約3海里及び左舷前方約2.5海里のところに同航船が各1隻いることなどを引継いで単独の船橋当直に就き,法定灯火を表示して同県沿岸に沿って南下したところ,23時30分ごろからもやがかかり始め,翌27日00時00分久之浜港灯台から050度5.7海里の地点で,針路を183度に定め,機関を全速力前進にかけたまま9.6ノットの速力で自動操舵によって進行した。
定針したときD受審人は,濃霧で視程が約100メートルの視界制限状態となったのを認めたが,C受審人と当直を交替したばかりであったことから,同人にこのことを報告しなかったばかりか,霧中信号を吹鳴することも,安全な速力に減じることもせず,カラーレーダーを3海里レンジ,白黒レーダーを6海里レンジとして単独で見張りを行いながら続航した。
自室で就寝していたC受審人は,視界制限状態となったときの報告を受けられず,自ら操船指揮をとることができなかった。
00時07分D受審人は,レーダーにより左舷船首1度6.0海里のところに北上するあさか2の映像を初めて探知するとともに,同船の左舷前方にも北上する船舶(以下「北上船」という。)の映像を探知し,00時10分少し前久之浜港灯台から064度4.7海里の地点に達し,あさか2の映像が左舷船首1度4.8海里となったとき,北上船とは右舷を対して約1海里の最接近距離で航過できる状況であり,あさか2の映像は船首輝線の左側に沿って接近してくるので,北上船とは右舷対右舷で,あさか2とは左舷対左舷でそれぞれ航過することとし,北上船とあさか2との間に向け,針路を193度に転じて進行した。
00時14分D受審人は,久之浜港灯台から071度4.3海里の地点に達し,あさか2の映像が左舷船首12度3.0海里に接近したとき,もう少し同船との航過距離を広げることとし,北上船の船尾方に向けて針路を198度に転じたが,その後レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わず,あさか2の真針路や真速力を確認しなかったので,同船が左転して船首を自船の右舷方に向けたことに気付かず,あさか2の映像が船首輝線の左側から接近することから,同船の船首は自船の左舷方に向いているものと誤認して続航した。
00時16分半D受審人は,あさか2の映像が左舷船首17度2.0海里となり,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めたが,依然として左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく,北上船及びあさか2の各映像をレーダーで監視しながら進行した。
その後D受審人は,あさか2の映像が予期に反して船首輝線に近づきながら接近してくるので不安を感じ,北上船の航過を待って右転することとし,00時21分少し前北上船の映像が右舷側を航過したとき,右舵一杯として回頭を始めたところ,同時21分半わずか前,あさか2を左舷前方至近に視認し,機関のクラッチを中立にしたが効なく,いよ丸は,船首が270度を向き,速力が約7ノットになったとき,前示のとおり衝突した。
C受審人は,自室で就寝中,衝撃を感じて急いで昇橋し,事後の措置に当たった。衝突の結果,あさか2は右舷前部ブルワーク及び車両積載区画の右舷前端部を圧壊し,いよ丸は左舷船首部を圧壊したが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は,福島県東方沖合において,北上中のあさか2と南下中のいよ丸が衝突したものである。先に認定したとおり,あさか2が霧で視界制限状態となったのは00時15分ごろ,いよ丸が霧で視界制限状態となったのは00時00分ごろで,両船それぞれその時刻以降,濃霧の中を航行して衝突地点に至ったものであり,衝突時刻は00時21分半である。
00時15分における両船間の距離は2.6海里であり,それから6分半経過したとき衝突したことになる。00時15分以降,両船は視界制限状態の中を航行し,衝突直前まで互いに視認することができなかった。
したがって,いよ丸にあっては00時00分以降,あさか2にあっては00時15分以降,それぞれ海上衝突予防法第19条を遵守して航行すべきであったのであり,本件には,同条を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 あさか2
(1)A受審人が,当直航海士に対し,一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,視界制限状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底していなかったこと
(2)B受審人が,右舷10度3海里のところに右舷灯を表示した船舶を視認して左転したこと
(3)B受審人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと
(4)霧中信号を行わなかったこと
(5)安全な速力に減じなかったこと
(6)機関を直ちに操作することができるようにしていなかったこと
(7)B受審人が,左転したので接近する他船はいないものと思い,霧で視界制限状態となったのち,レーダーによる見張りを行わなかったこと
(8)ARPAのガードリング及び接近警報を設定していなかったこと
(9)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
(10)衝突直前に左舵一杯をとって左転したこと
2 いよ丸
(1)C受審人が,当直航海士に対し,一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,視界制限状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底していなかったこと
(2)D受審人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと
(3)霧中信号を行わなかったこと
(4)安全な速力に減じなかったこと
(5)視界が制限された状況下,D受審人が単独で見張りを続けたこと
(6)両船間の距離が4.8海里となったとき右転したこと
(7)両船間の距離が3海里となったとき右転したこと
(8)レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったこと
(9)D受審人が,あさか2とは左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
(10)衝突前に右舵一杯をとって右転したこと
(原因の考察)
本件は,あさか2が,霧で視界制限状態となった福島県東方沖合を北上中,機関を直ちに操作することができるようにしておくとともに,レーダーによる見張りを十分に行っていれば,いよ丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認識し,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止することによって防止できたものと認められる。
したがって,B受審人が,機関を直ちに操作することができるようにしておかなかったばかりか,左転したので接近する他船はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止する措置もとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
また,こうした措置がとられなかったのは,A受審人が,当直航海士に対して視界制限時の船長報告について指示を徹底していなかったこと,及びB受審人が同報告を行わなかったことによるものである。
したがって,A受審人が,一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,同報告についての指示を徹底していなかったこと及びB受審人が同報告を行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
B受審人が,霧中信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,D受審人が衝突の1分弱前まであさか2の接近状況をレーダーで探知していたことから,本件発生の原因とならない。しかし,これは,衝突防止の観点から是正されるべきである。
B受審人が,安全な速力に減じなかったこと及びARPAのガードリングも接近警報も設定していなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
B受審人が,右舷10度3海里のところに右舷灯を表示した船舶を視認して左転したことは,同船に対する有視界時の措置であり,原因とならない。しかし,同人は,間もなく霧で視界制限状態となったのであるから,その後レーダーで周囲の状況を十分に確認すべきであった。
B受審人が,衝突直前に左舵一杯をとって左転したことは,右舷至近のところに突然霧の中から現れたいよ丸を視認し,反射的にとった措置であり,例え左舵一杯をとらなくても衝突は免れなかった状況であるから,本件発生の原因とならない。
一方,いよ丸が,霧で視界制限状態となった福島県東方沖合を南下中,あさか2と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止していれば,本件の発生を防止できたと認められ,また,霧中信号を行っていれば,あさか2に自船の接近を認識させ,両船の適切な措置によって衝突を防止できたと認められる。
したがって,D受審人が,霧中信号を行わなかったこと,及びあさか2とは左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
また,こうした措置がとられなかったのは,C受審人が,当直航海士に対して視界制限時の船長報告について指示を徹底していなかったこと,及びD受審人が同報告を行わなかったことによるものである。
したがって,C受審人が,一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,同報告についての指示を徹底していなかったこと及びD受審人が同報告を行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
D受審人が,あさか2とは左舷を対して航過できると思ったのは,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わず,あさか2の真針路を確認しなかったことから,自船の右舷方に向いていたあさか2の船首方向が自船の左舷方に向いていると判断を誤ったことによるものと認められる。
したがって,D受審人がレーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
ところで,本件において,D受審人は,あさか2の真針路を把握できなかったにせよ,同船が船首輝線の左側から方位変化のないまま著しく接近してくるのは分かっていたのであるから,船長に報告するとともに,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止し,衝突の危険がなくなるまで,十分に注意して航行すべきであった。
D受審人が,視界が制限された状況下,安全な速力に減じなかったこと及び単独で見張りを続けたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
D受審人が,両船間の距離が4.8海里及び3海里となったときそれぞれ右転したこと,並びに衝突前に右舵一杯をとって右転したことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(主張に対する判断)
B受審人は,針路000度で航行中,右舷前方に緑灯とマスト灯を表示した反航船を初めて視認するとともに,その左舷後方に2ないし3隻の反航船のマスト灯を視認し,レーダーで確認すると緑灯を表示した船までの距離が3海里で,ARPA機能で捕捉したところ同船のベクトルは本船の針路の反方位で最接近距離が0.5海里であり,そのままでも右舷対右舷で航過するがもう少し離しておけば安心だと思って350度に転針したもので,この緑灯を表示した反航船がいよ丸であって,350度への転針前も転針後もいよ丸の緑灯を確認した旨主張する。
しかし,この主張に基づいて,転針直前のあさか2からのいよ丸の方位及び距離を求めると,右舷船首10度3海里となるが,一方,00時00分の両船の各船位からそれぞれの針路と速力とにより,両船間の距離が3海里となるときの時刻及び各船位を求めると,事実で認定したとおり,時刻は00時14分,あさか2の船位は久之浜港灯台から112度4.4海里の地点,いよ丸の船位は同灯台から071度4.3海里の地点となり,転針直前のあさか2からのいよ丸の方位及び距離は右舷船首1度3海里となって,同主張とは明らかに相対位置関係が異なる。
そして,同主張のとおり,右舷船首10度3海里の地点を南下する船舶がいよ丸であるとすると,この時点以降,いよ丸が針路を変えて衝突地点に達するためには,220度以上西方に向く針路に転じなければならず,いよ丸がそのような針路にした証拠はない。
また,00時14分の時点において,いよ丸は前示灯台から071度4.3海里の地点を193度から198度に針路を転じて南下中であり,この転針の前後のいよ丸をあさか2から見ると,いよ丸のアスペクトが左舷船首12度又は17度で,あさか2の針路が000度のとき右舷船首1度3海里のところにいよ丸の左舷灯すなわち紅灯が見えることになり,同船の緑灯が見えることはあり得ない。
したがって,B受審人の主張は採用することができない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,霧で視界制限状態となった福島県東方沖合において,北上するあさか2が,機関を直ちに操作することができるようにしておかなかったばかりか,レーダーによる見張り不十分で,いよ丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことと,南下するいよ丸が,霧中信号を行わず,レーダーで前路に探知したあさか2に対し,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったばかりか,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
あさか2の運航が適切でなかったのは,船長が,当直航海士に対し,視界制限状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底していなかったことと,当直航海士が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこととによるものである。
いよ丸の運航が適切でなかったのは,船長が,当直航海士に対し,視界制限状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底していなかったことと,当直航海士が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,船橋当直を4時間交替の3直制とし,夏季の霧の多発期に東京湾から仙台塩釜港へ向けて本州東岸沖を北上する場合,各当直航海士に対し,視界制限状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに,同人は,平素,視界が悪くなれば報告するよう一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,同指示を徹底しなかった職務上の過失により,視界制限状態となったときの報告を受けられず,自ら操船指揮をとることができないまま進行していよ丸との衝突を招き,あさか2の右舷前部ブルワーク及び車両積載区画の右舷前端部に圧壊を,いよ丸の左舷船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,霧模様の福島県東方沖を北上中,右舷前方に数隻の反航船の灯火を視認し,航過距離を広げるつもりで左転したのち,霧で視界制限状態となったのを認めた場合,接近する他船を見落とさないよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左転したので接近する他船はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,右舷船首方からいよ丸が接近していることに気付かず,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく進行していよ丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は,船橋当直を6時間交替の2直制とし,夏季の霧の多発期に仙台塩釜港から鹿島港へ向けて本州東岸沖を南下する場合,当直航海士に対し,視界制限状態となったときには必ず報告するよう指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに,同人は,平素,視界が悪くなったり不安を感じたりすれば報告するよう一応口頭で指示していたので,視界が制限されて不安を感じれば報告があるものと思い,同指示を徹底しなかった職務上の過失により,視界制限状態となったときの報告を受けられず,自ら操船指揮をとることができないまま進行してあさか2との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった福島県東方沖を南下中,レーダーで前路に探知したあさか2と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めた場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,あさか2との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文 平成16年10月19日門審言渡
本件衝突は,あさか2が,視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが,第二いよ丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
参考図
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