(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月5日06時00分
北海道釧路港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートすずらん |
登録長 |
5.95メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
73キロワット |
3 事実の経過
すずらんは,昭和57年4月に竣工した,B社が平成5年ごろ製造した100ELPT型と呼称する,回転数毎分4,800(以下,回転数は毎分のものとする。)の始動電動機付き船外機を有するFRP製モーターボートで,船体前部寄りのキャビン内に同機の遠隔操縦装置を備えていた。
船外機の発電装置は,ステータアッセンブリとトリガアッセンブリで構成され,本体上部の機関端部のフライホィールに組み込まれた永久磁石が回転したとき,ステータコイルに交流電流が発生し,それが整流(以下「発電電流」という。)されるとともに,トリガコイルに発生した信号が電子スイッチを制御することにより,各シリンダの規定点火時期に同スイッチを通し,発電電流が点火プラグ用のイグニッションコイルの1次側に流れるもので,同電流の一部が同機始動及び船内電源用の蓄電池に充電されるようになっていた。
なお,船外機の取扱説明書には,機関の電気系統について,定期的な点火プラグの点検・掃除,点火時期の点検等について記載されていたが,発電装置の整備については記載されていなかった。
A受審人(平成11年6月一級小型船舶操縦士免許取得)は,同10年3月にすずらんを購入して自宅に置き,毎年6月から10月までの週末等に各港にトレーラーで運んだうえ,年に10回くらい釣りに使用しているもので,全速力を回転数4,200の約33ノットとし,船外機を年間に20ないし30時間使用していた。
そして,A受審人は,11月初めには船外機の冷却海水系統の清水による洗浄,機関外部の点検掃除等を行って保管し,5月末には本体上部のオイルタンクへの潤滑油の補給及びギヤケースの潤滑油の取替え等を行って準備し,適宜点火プラグやプラグコードを取り替えたり,キャブレタの点検等を行っていた。
ところで,A受審人は,経年により船外機のステータコイルの絶縁が次第に劣化していたが,特に発電状態に異常がないので大丈夫と思い,整備業者に依頼して絶縁抵抗の測定を行うなど,すずらんを購入以来発電装置の整備を行うことなく,これに気付かなかった。
こうして,すずらんは,A受審人が1人で乗り組み,友人2人を乗せ,釣りの目的で,同16年9月5日04時30分北海道釧路市千代ノ浦漁港を発し,同港南西方沖合の釣り場に至り,1時間ばかり船外機を停止して漂泊しながら釣りを行い,釣り場を移動するため,同機を始動してクラッチを前進に入れたとき,絶縁が著しく劣化したステータコイルが短絡などして発電不能となり,06時00分釧路白糠港南防波堤灯台から真方位137度7.7海里の地点において,点火プラグがスパークしなくなって同機が停止した。
当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹いていた。
その結果,航行不能となって救助を要請し,来援した巡視船に曳航された。
(原因)
本件運航阻害は,船外機の運転・保守に当たる際,機付の発電装置の整備が不十分で,ステータコイルが経年による絶縁劣化により短絡などして発電不能となり,点火プラグがスパークしなくなったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が,船外機の運転・保守に当たる際,整備業者に依頼して機付の発電装置の絶縁抵抗の測定を行うなど,長期間同装置の整備を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
しかしながら,以上のA受審人の所為は,船外機の取扱説明書には定期的な発電装置の整備について記載されておらず,同機が約11年半前に製造されたもので,経年によりステータコイルの絶縁が劣化したものである点に徴し,職務上の過失とするまでもない。