(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月9日11時30分
沖縄県伊江島北方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船マギマヤーII |
総トン数 |
3.6トン |
全長 |
11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
マギマヤーIIは,平成3年11月に進水した最大とう載人員21人の一層甲板型FRP製旅客船で,平成16年6月に一級小型船舶操縦士(5トン未満)の免許を取得したA受審人が船長として1人で乗り組み,潜水客3人を乗せ,ダイビングを行う目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年7月9日10時10分沖縄県伊江島の具志漁港を発し,同島北方沖のカナン崎ドームと称するダイビングポイントに向かった。
ところで,マギマヤーIIは,船体中央やや船尾寄りに船室及び操舵室を配し,前部及び後部甲板上に構造物はなく,上甲板の周囲に高さ約50センチメートルのブルワークを巡らせており,船尾端には,エントリー用デッキを張り出して設置し,同デッキ左舷側に,固定式のエントリー用はしご(以下「固定式はしご」という。)を装備していた。そして,潜水客が多いときに,ガンネルに掛けて使用する取り外し式エントリー用はしご(以下「取り外し式はしご」という。)を,操舵室左舷側の通路に備えていた。
また,A受審人は,昭和58年12月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したのち,ダイビングショップを営むかたわら,小型船を所有し,伊江島周辺のダイビングポイントで潜水客を案内するダイビングサービス業に従事し,平成16年6月に取得した一級小型船舶操縦士免許(5トン未満)に合わせて,特殊小型船舶操縦士の免許を更新していた。
10時35分A受審人は,伊江島の城山172.2メートル頂三角点から真方位012度2,200メートルの地点に設けられたダイビング用ブイに係留し,潜水客からの要望により,日ごろほとんど使用することのなかった,取り外し式はしごを操舵室左舷側ガンネルに掛けたのち,潜水客3人を先導して船尾の固定式はしごからエントリーし,11時25分,ダイビングを終え,潜水客とともに固定式はしごを使用して船上に上がった。
11時30分少し前A受審人は,ブイにとった係留索を放して帰航することとし,このとき,潜水客の1人が船尾甲板左舷側に腰を下ろして着替えをしており,発進すると,操舵室左舷側のガンネルに掛けたままとなっている取り外し式はしごが,水流によって船尾方に移動し,同潜水客に接触する危険があったが,船尾甲板を一瞥しただけで,潜水客全員が船上に上がって甲板に腰を下ろしているので,そのまま発進しても問題ないものと思い,甲板上の移動物の有無を確認するなど,潜水客に対する安全確認を十分に行わなかったので,取り外し式はしごをガンネルに掛けたままとなっていることに気付かず,同はしごを揚収することなく機関を始動して発進した。
こうして,マギマヤーIIは進行を始めたところ,11時30分前示係留地点付近において,取り外し式はしごが,水流により圧流されて船尾方に移動し,船尾甲板左舷側で,船首方を向く態勢となって下を向いていた潜水客の前頭部に接触した。
当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,海上は穏やかで,潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は,潜水客の発した声で事故の発生を知り,ただちに具志漁港に向かい,負傷者を島内の診療所に搬送するなど,事後の措置に当たった。
その結果,負傷した潜水客は,全治1週間の前頭部裂創と診断された。
(原因)
本件潜水客負傷は,沖縄県伊江島北方沖において,ダイビングを終えた潜水客を乗せて発進する際,船上の潜水客に対する安全確認が不十分で,ガンネルに掛けた取り外し式はしごを揚収することなく発進し,同はしごが水流により移動して同潜水客に接触したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県伊江島北方沖において,ダイビングを終えた潜水客を乗せて発進する場合,ガンネルに掛けた取り外し式はしごが,水流により移動して船上の潜水客に接触することのないよう,甲板上の移動物の有無を確認するなど,潜水客に対する安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,船尾甲板を一瞥しただけで,潜水客全員が船上に上がって甲板に腰を下ろしているので,そのまま発進しても問題ないものと思い,潜水客に対する安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により,取り外し式はしごをガンネルに掛けたままとなっていることに気付かず,同はしごを揚収することなく発進し,水流により移動した同はしごを潜水客に接触させ,全治1週間の前頭部裂創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。