(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月29日12時25分
隠岐諸島中ノ島南東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船二丸 |
総トン数 |
0.7トン |
登録長 |
6.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
25 |
3 事実の経過
二丸は,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,船体後部に舵柄と機関操作レバーを備え,A受審人(平成5年8月一級小型船舶操縦士免許取得,同15年10月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,同人が経営する会社の従業員10人と磯遊びの目的で,船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成16年7月29日08時00分隠岐諸島中ノ島南東岸の係船地を発し,高田鼻灯台から018度(真方位,以下同じ。)1,500メートルの海岸(以下「海岸」という。)に向かった。
ところで,A受審人は,例年通り会社の慰安旅行として来島していたもので,二丸を親戚から借用して20回以上操船した経験を有しており,同船の性能にも,高田鼻灯台から025度1,780メートルのところに北東方に延びた長さ45メートルの防波堤(以下「防波堤」という。)があることなど,付近海域の様子にも,十分に精通していた。
目的地に着いたA受審人は,海岸で海水浴などを楽しんだのち,釣りを行うこととし,Bほか1人を同乗させ,10時30分海岸を発進して防波堤に向かい,10時40分左舷船尾から重さ約20キログラムの錨を海中に投下してアンカーロープを長さ約30メートル伸出し,船体が138度に向首して防波堤と直角になるよう,船首索を防波堤に係止して係留し,釣りを楽しんだ。
12時22分A受審人は,海岸に戻るため離岸作業を開始し,自らは舵柄を持って操船に当たり,B同乗者に船尾部で揚錨作業を行わせ,他の同乗者が船首索を放したのち,機関を作動させることとしたが,発進する旨声をかけたところ,B同乗者から大丈夫という返事を聞いたことから,揚錨作業を終えたものと思い,同作業を終えているかどうか目視するなど,同乗者に対する安全確認を十分に行わず,同乗者が後方を向き,立った姿勢で作業中であることに気付かなかった。
12時25分わずか前A受審人は,機関を後進に作動させたところ,両手でアンカーロープを持って揚錨中のB同乗者が,船体の動揺で身体のバランスを失って船尾方に落水し,12時25分前示の地点において,後退してきた二丸の推進器に接触した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果,B同乗者が,左上腕骨近位端開放骨折及び左上腕多発切挫創などを負った。
(原因)
本件同乗者負傷は,隠岐諸島中ノ島南東岸において,防波堤から離岸作業中,同乗者に対する安全確認が十分でなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,隠岐諸島中ノ島南東岸において,防波堤から離岸作業中,機関を作動させる場合,同乗者が船尾部で揚錨作業をしていたから,海中に転落しないよう,同作業を終えているかどうか目視するなど,同乗者に対する安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,大丈夫という返事を聞いたことから,揚錨作業を終えたものと思い,同乗者に対する安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同乗者が後方を向き,立った姿勢で作業中であることに気付かず,機関を後進に作動させ,同乗者が船体の動揺で身体のバランスを失って落水し,推進器に接触して負傷する事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。