(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月13日11時55分
京都府由良川
(北緯35度28.0分東経135度16.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボートファイブスター |
水上オートバイブラバス |
登録長 |
4.43メートル |
2.70メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
69キロワット |
55キロワット |
(2)設備及び性能等
ア ファイブスター
ファイブスター(以下「フ号」という。)は,米国で製造された最高速力約20ノットのFRP製モーターボートで,主として京都府の由良川において遊走目的で使用されていた。
イ ブラバス
ブラバス(以下「ブ号」という。)は,3人乗りFRP製水上オートバイで,フ号と同じく,主として由良川において遊走目的で使用されていた。
3 由良川
由良川は,その源を京都,滋賀,福井の3府県境に跨(またが)る三国ケ岳に発して京都府の福知山盆地を貫流したのち,宮津及び舞鶴両市の間を流れて若狭湾に注ぐ,丹後半島周辺では最大級の総延長146キロメートルに渡る河川であり,古来から京都への北の玄関口として舟運が盛んであった河口部は,流れが緩やかで水量も豊かであることから,現在では,モーターボートや水上オートバイなどが盛んに遊走する水域となっており,そのほとんどがウエイクボードを引いて遊走している状況であった。
4 事実の経過
フ号は,A受審人が1人で乗り組み,息子1人を含めた知人5人を乗せ,遊走目的で,船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,平成16年8月13日10時30分由良川にあるDマリーナを発し,ウエイクボーダーが乗ったウエイクボードを引いて同川の遡行を始めた。
ところで,ウエイクボードとは,モーターボートや水上オートバイに引かれて水上を滑走して遊ぶ,雪上のスノーボードと同じような形をした板状遊具の総称であり,ウエイクボーダーとは,モーターボートなどが船尾から延ばした握り棒付きの引き索を掴み,同遊具の上に立った姿勢で水上を滑走する人の呼称である。
また,ウエイクボーダーは,引かれて滑走する際,バランスを崩して転倒し,落水することが頻繁にあることから,ウエイクボードを引いているモーターボートや水上オートバイの操縦者は,後方のウエイクボーダーを注視しながら遊走するのが常であった。
A受審人は,由良川を遡り,八雲橋上流1,400ないし1,500メートルの地点で,同乗者の1人を2人目のウエイクボーダーとして交替させたのち,同橋から約2,500メートル上流の大川橋まで遡ったところでUターンを行い,再び八雲橋上流の前示地点に戻ったとき,今度は息子を3人目のウエイクボーダーとして交替させ,さらに下流へと下った。
そして,11時54分半わずか前A受審人は,舞鶴市中山地区にある標高65.6メートルの三角点(以下「中山三角点」という。)から192度(真方位,以下同じ。)300メートルの地点に達したとき,針路を333度に定め,機関を半速力前進の回転数毎分3,000にかけ,13.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって進行した。
針路を定めたとき,A受審人は,正船首方150メートルのところに,ブ号が引いていたウエイクボードから落水して,川面に浮遊していたウエイクボーダーを視認することができ,その後,同人に向首したまま続航する状況となったが,自船が引いていたウエイクボーダーに気を取られ,前方の見張りを十分に行わなかったので,正船首方で浮遊していたウエイクボーダーの存在に気付かなかった。
こうして,A受審人は,その後も,見張りを十分に行わず,正船首方のウエイクボーダーを避けることなく進行中,11時55分中山三角点から220度200メートルの地点において,フ号は,原針路,原速力のまま,同ウエイクボーダーに衝突した。
当時,天候は晴で風はなく,視界は良好であった。
また,ブ号は,B受審人が1人で乗り組み,遊走の目的で,同日11時50分Dマリーナを発し,フ号と同じく,友人Cが乗ったウエイクボードを引き,同マリーナと八雲橋間の水域で遊走を始めた。
11時53分B受審人は,前示衝突地点に至ったとき,滑走中のウエイクボーダーCが落水したことから,再び引き索を手渡すため,機関を停止した残速力のまま,同人の周りを約10メートル離してゆっくりと旋回中,同時54分半わずか前八雲橋上流約100メートルのところに,同ウエイクボーダーに向首して接近するフ号を認めて,同人に衝突する危険を感じ,操縦席に跨っていた姿勢から立ち上がって懸命に手を振って落水したウエイクボーダーの存在を知らせたものの,効なく,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,Cが,フ号のプロペラで右上肢峰部を挫折切断され,失血死した。
(本件発生に至る事由)
1 フ号
(1)A受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人が,正船首方で浮遊していたウエイクボーダーの存在に気付かなかったこと
(3)A受審人が,ウエイクボーダーを避けることなく進行したこと
2 ブ号
(1)ブ号に引かれていたウエイクボーダーが落水したこと
(2)落水したウエイクボーダーが川面に浮遊していたこと
(3)B受審人が,機関を停止して落水したウエイクボーダーに引き索を手渡そうとしていたこと
(原因の考察)
フ号は,由良川において,ウエイクボードを引いて遊走中,操縦者である船長が,前方の見張りを行うことは重要なことであり,見張りを十分に行っていたならば,ブ号が引いていたウエイクボードから落水したウエイクボーダーが,正船首方で浮遊していることに気付き,同人を避けることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,A受審人が,見張りを十分に行わず,正船首方で浮遊していたウエイクボーダーの存在に気付かないまま,同人を避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
ブ号は,由良川において,フ号と同じく,ウエイクボードを引いて遊走中,ウエイクボーダーが転倒して落水した際,操縦者である船長が,同ウエイクボーダーに再び引き索を手渡すため,機関を停止して同人の周りを残速力で旋回中であったことは,至って自然なことであり,危険な行為であったとは認められない。
したがって,B受審人が,機関を停止して落水したウエイクボーダーに引き索を手渡そうとしていたことは,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件ウエイクボーダー死亡は,京都府由良川において,遊走中のフ号が,見張り不十分で,正船首方で浮遊していたウエイクボーダーを避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,京都府由良川において,ウエイクボードを引いて遊走する場合,当該水域は,他船も同じようにウエイクボードを引いて遊走する状況であることから,他船が引くウエイクボードから落水して川面に浮遊しているウエイクボーダーを見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船が引いていたウエイクボーダーに気を取られ,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,正船首方で浮遊していたウエイクボーダーの存在に気付かず,同人を避けることなく進行して衝突を招き,その右上肢峰部を切断して失血死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
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