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平成17年門審第49号
件名

油送船第三十一周宝丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年9月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西林 眞,千手末年,上田英夫)

理事官
花原敏朗

受審人
A 職名:第三十一周宝丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機過給機の排気入口囲の底部水冷壁が破孔

原因
主機排ガス系統に装備されたスパークアレスタ付ドレン管の点検不十分

主文

 本件機関損傷は,主機排ガス系統に装備されたスパークアレスタ付ドレン管の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月31日04時45分
 北海道室蘭港
 (北緯42度21.4分東経140度55.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第三十一周宝丸
総トン数 749トン
全長 75.51メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,838キロワット
回転数 毎分720
(2)設備及び性能等
ア 第三十一周宝丸
 第三十一周宝丸(以下「周宝丸」という。)は,平成6年9月に進水した船尾船橋型の鋼製油送船で,北海道及び東北地方諸港間でガソリン,灯油及び軽油等の白油輸送に従事しており,船尾楼の端艇甲板上後部に,基部が船首尾方向に2.7メートル船横方向1.5メートルの長方形で,高さが6.5メートルの化粧煙突を設けていた。
イ 主機
 主機は,B社が製造した6N280-EN型と称するディーゼル機関で,各シリンダには船尾側を1番として6番までの順番号が付され,減速機を介して可変ピッチプロペラを駆動するほか,船首側の動力取出軸には増速機を介して補助発電機1台及び貨物油ポンプ2台を連結しており,燃料油として,出入港時及び荷役中はA重油を,航海中はA重油とC重油とを6対4の比率で混合したブレンド油が使用されていた。
 主機の冷却清水系統は,セントラルクーリング方式が採られ,高温冷却清水ポンプでシリンダライナ,シリンダヘッド及び過給機を,低温冷却清水ポンプで潤滑油冷却器及び空気冷却器などをそれぞれ冷却して還流するようになっており,高温冷却清水ポンプの吸入側に清水膨張タンクからの給水配管が接続していた。
ウ 主機の過給機及び排ガス系統
 過給機は,C社が製造したVTR254-11型と称する排気ガスタービン式で,主機の架構船尾側上部に設置され,軸流タービンと遠心ブロワを組み込んだロータ軸及び軸受装置が,いずれも鋳鉄製の排気入口囲及びタービン車室及びブロワ室に3分割されたケーシング内に納められ,排気入口囲には上側排ガス入口に1,4及び5番シリンダの,下側排ガス入口に2,3及び6番シリンダの排気集合管がそれぞれ接続しており,排気入口囲及びタービン車室には排ガス通路と水冷壁で仕切った冷却水室が設けられていた。
 排ガス系統は,過給機のタービン車室から排出された排ガスが呼び径400ミリメートル(以下「ミリ」という。)の排ガス管を経て,化粧煙突内に設けられた外径1,020ミリ高さ3,732ミリのスパークアレスタに流入したのち,同煙突頂板を貫通し開口部が船尾方へ曲げられた呼び径500ミリの排ガス管から大気に放出されるようになっていた。
 スパークアレスタは,D社が製造したSWG型コンビネーションスパレスターと称する,下部に消音器を内蔵したもので,排ガスの旋回による遠心力を利用して排ガス管開口部から火の粉が排出されるのを防止するようになっており,同開口部から浸入した雨水等を回収するため,底部に排ガス入口管上部でコーミングを形成したうえ呼び径32ミリのドレン管を配管し,同管が機関室上段後部に備えたシールポットに導かれていた。
 また,シールポットは,外径270ミリ高さ860ミリの円筒状封水装置で,主機用のほか,主発電機駆動ディーゼル機関,停泊用発電機駆動ディーゼル機関及び温水ボイラ用の各スパークアレスタから,同ポット入口付近にドレン弁を設けたドレン管が導かれ,内部に清水を溜めてその底部付近に各ドレン管を開口させることで,雨水等は回収してオーバーフロー水はビルジ溜まりに落とすものの,清水の水頭圧で排ガスを機関室内に噴出させないようになっていた。

3 事実の経過
 周宝丸は,主機の年間運転時間が航海中に約4,000時間,荷役中に約1,000時間で,航海中の主機が連続最大出力の70ないし80パーセント負荷で運転されるのに対し,荷役中には,貨物油ポンプの使用回転数の制約で主機の回転数を毎分380に下げて運転していることから軸発電機を併用できず,就航以来主機が同出力の30パーセント程度という低負荷運転を行っているため,煤などの燃焼残渣物が発生しやすい状況にあったものの,A受審人の乗船した平成14年1月以降は各スパークアレスタの開放点検が行われていなかった。
 A受審人は,各スパークアレスタ付ドレン管のドレン弁を常時開弁とし,航海中の機関当直を他の機関士と6時間交代で行い,操舵室において機関監視装置及び機関室モニターテレビによる監視を行うほか,2時間毎に機関室を見回る際には,シールポットの水量を点検のうえ適宜補給するほか,主機過給機のタービン車室底部からドレン抜きを行うようにしていた。そして,平成15年9月に定期検査工事が施工された際,一等機関士職に就いていたことから主機関係の工事には直接立ち会っていなかったものの,主機過給機の各部計測記録から,同11年3月に新替えされた排気入口囲の水冷壁肉厚に異常がないことを確認していた。
 また,A受審人は,主機のターニング装置が電動式ではなく,フライホイールにターニングバーを差し込んで行う手動式で,その操作が重いことから,主機を発停する際にはターニングを省略してエアランニングのみを行うようにしていた。
 ところで,A受審人は,主機の長時間にわたる低負荷運転の影響から,煤などの燃焼残渣物がスパークアレスタ内部に堆積し,ドレン管を閉塞させるおそれがあったが,過給機のタービン車室底部のドレン抜きを行ったとき水が排出されたことがなく,まさかドレン管が閉塞して雨水等が逆流することはあるまいと思い,定期的にシールポットの封水を抜いたうえでドレン弁を開閉して排ガスの通気の有無を確認するなどして,スパークアレスタ付ドレン管の点検を行わなかったので,いつしか同管のスパークアレスタ出口付近が煤などで閉塞していることに気付かなかった。
 周宝丸は,運航を繰り返すうち,主機のスパークアレスタ付ドレン管が閉塞したため,排ガス管開口部から吹き込んだ雨水等がスパークアレスタ底部に溜まってコーミングから溢れ,排ガス管を経て過給機のタービン車室から排気入口囲に浸入し,下側排ガス入口底部の水冷壁に滞留した湿気が残留燃焼生成物と反応して硫酸腐食が生じ,同壁の肉厚が急速に減少する状況となった。
 こうして,周宝丸は,A受審人ほか6人が乗り組み,同16年8月30日13時35分北海道苫小牧港において揚荷役を終えて同港を発し,同日17時30分室蘭港に至り,同港崎守ふ頭の沖合に錨泊していたところ,硫酸腐食が著しく進行した主機過給機の排気入口囲水冷壁に破孔を生じ,膨張タンクからの水頭圧を受けていた冷却清水が下側の排気集合管に流入し,排気弁が開弁していた2番シリンダのピストン頂部に滞留するようになった。
 翌31日早朝,周宝丸は,折からの台風接近に備えるため,主機駆動貨物油ポンプで貨物油タンクに海水バラストを張水することになり,04時20分ごろA受審人が一等機関士とともに機関室に赴いて主機の始動準備に取り掛かり,電動予備潤滑油ポンプ及び冷却清水ポンプなどを順次始動し,主機のエアランニングを行ったところ,04時45分室蘭港北防波堤灯台から真方位069度980メートルの地点において,主機2番シリンダの指圧器弁から水が噴出した。
 当時,天候は雨で風力4の南東風が吹き,港内は波立っていた。
 A受審人は,直ちにエアランニングを止めて主機関係ポンプ類を停止し,主機排気集合管と過給機排気入口囲とを接続する伸縮継手を取り外して点検を行い,同入口囲の下側排ガス入口底部水冷壁に直径2ないし3ミリの破孔を発見し,船舶所有者に状況を報告のうえ修理を依頼した。
 周宝丸は,室蘭港に着岸して修理することになり,冷却清水ポンプを始動しないで主機を始動したのち,同ポンプを運転して低速で室蘭港日石三菱ふ頭に着岸し,損傷した過給機排気入口囲のほか,タービン車室並びにタービン側及びブロワ側軸受などを新替えして修理された。

(本件発生に至る事由)
1 主機が荷役中の低負荷運転で煤などの燃焼残渣物を発生しやすい状況にあったこと
2 まさか主機用スパークアレスタ付ドレン管が閉塞して雨水等が逆流することはあるまいと思っていたこと
3 主機用スパークアレスタ付ドレン管の点検が十分に行われていなかったこと
4 主機用スパークアレスタ付ドレン管が煤などで閉塞したこと
5 主機排ガス管開口部から吹き込んだ雨水が過給機に浸入し,排気入口囲底部の水冷壁に硫酸腐食が生じたこと

(原因の考察)
 本件は,主機用スパークアレスタ付ドレン管の点検を定期的に行っていたなら,同管が煤などによって閉塞していることが発見でき,排ガス管開口部から吹き込んだ雨水等が過給機に浸入し,排気入口囲底部の水冷壁に硫酸腐食が生じることを防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,機関の運転と保守管理にあたり,まさかスパークアレスタ付ドレン管が閉塞して雨水等が逆流することはあるまいと思い,定期的に主機用スパークアレスタ付ドレン管の点検を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 主機が荷役中の低負荷運転で煤などの燃焼残渣物を発生しやすい状況にあったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,これは,海難防止上の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機用スパークアレスタ付ドレン管の点検が不十分で,同管が煤などで閉塞して排ガス管開口部から吹き込んだ雨水等がスパークアレスタを経て過給機に浸入し,排気入口囲底部水冷壁に硫酸腐食を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関の運転及び保守管理にあたる場合,主機の長時間低負荷運転の影響で煤などの燃焼残渣物がスパークアレスタ内部に堆積し,ドレン管を閉塞させるおそれがあったから,定期的にシールポットの封水を抜いたうえでドレン弁を開閉し排ガスの通気の有無を確認するなどして,スパークアレスタ付ドレン管の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,過給機のタービン車室底部のドレン抜きを行ったとき水が排出されたことがないので,まさかドレン管が閉塞して雨水等が逆流することはあるまいと思い,スパークアレスタ付ドレン管の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,いつしか同ドレン管のスパークアレスタ出口付近が煤などで閉塞し,排ガス管開口部から吹き込んだ雨水等が過給機に浸入して排気入口囲水冷壁底部に硫酸腐食が進行する事態を招き,同壁に破孔を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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