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平成17年長審第22号(第1)
平成17年長審第23号(第2)

件名

(第1)貨物船第十八日広丸機関損傷事件
(第2)貨物船第十八日広丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年7月27日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也,藤江哲三,稲木秀邦)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第十八日広丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)

損害
(第1)過給機排気入口囲いの冷却水壁に破孔
(第2)主機2番シリンダヘッド冷却水壁に破孔

原因
(第1)主機過給機の排気入口囲いが新替えされなかったこと
(第2)主機のシリンダヘッドが経年の海水腐食によって衰耗したこと

主文

(第1)
 本件機関損傷は,主機過給機の排気入口囲いが新替えされなかったことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は,主機のシリンダヘッドが経年の海水腐食によって衰耗したことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成16年2月12日23時55分
 東シナ海
 (北緯31度09分 東経128度16分)
(第2)
 平成16年5月18日05時56分
 東シナ海
 (北緯31度07分 東経128度16分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十八日広丸
総トン数 499.63トン
全長 61.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
回転数 毎分680
(2)第十八日広丸
 第十八日広丸(以下「日広丸」という。)は,昭和48年2月に進水した一層甲板船尾船橋機関室型の鋼製し尿運搬船で,平成6年11月から係船されていたところ,翌7年3月に現所有者が買船し,4月からB組合が裸用船し,船体及び機関を整備して定期検査を受検したうえ運航していたもので,主機として,C社が昭和47年12月に製造した6Z-ST型と称するディーゼル機関を装備し,船橋に主機の回転計と警報盤を備え,同所から主機の遠隔操作ができるようになっていた。
(3)主機
 主機は,A重油を燃料油とする海水直接冷却機関で,各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付してあり,1番シリンダの船首側上部に過給機を備え,1番から3番シリンダまでの排気が共通の排気集合管を経て過給機排気入口囲いの下側入口に,4番から6番シリンダまでの排気集合管が上側入口にそれぞれ接続されていた。
 主機の冷却水系統は,シリンダジャケット系統と熱交換器系統の2系統に分かれ,シリンダジャケット系統は,直結冷却海水ポンプで吸引された海水が主機入口主管に至って各シリンダ毎に分岐し,シリンダジャケットからシリンダヘッドを順に冷却したのち出口集合管で合流し,自動温度調整弁を経て一部がポンプ入口に戻され,残りが船外に排出されるようになっており,一方,熱交換器系統は,電動の主機冷却海水ポンプから吐出された海水が空気冷却器を通って2系統に分岐し,片方が主機及び逆転減速機用の各潤滑油冷却器を順に冷却し,他方が過給機を冷却したのち,それぞれ船外に排出されるようになっていた。

3 事実の経過
 日広丸は,長崎県佐世保港を基地として周辺諸港で積み込んだし尿を同県女島南方約60海里の許可海域まで運搬し,船内で薬物処理したうえ,同海域内をゆっくり移動しながら約1時間かけて投棄する業務に従事しており,主機回転数を航行中は約500(毎分回転数,以下同じ。)投棄作業中は微速力前進の約180にかけ,1航海が約25時間の航海を1箇月に2ないし3回行うだけで,ほとんど佐世保港で停泊しており,主機の年間使用時間が700ないし800時間であった。
 なお,日広丸は,近年,し尿処理が環境保護の観点から制約を受けて海上投棄から陸上の処理施設に移行しており,全国的に同施設の建設が進むのに伴って運航稼働率が徐々に減少し,海上投棄が全面禁止となる2ないし3年のうちに廃船が予想される状況であった。
 A受審人は,機関の運転及び保守管理に当たり,停泊中の週日は自宅から本船に通い,他の乗組員とともに船体や機関室の清掃及び機関整備などの船内作業に従事し,航海中は機関室当直を自らと一等機関士及び機関員の3人で4時間ごとの輪番で行い,主機排気温度の上限を摂氏375度と定め,主機の始動前及び停止後にはエアランニングを励行して異状がないことを確認していた。
 また,A受審人は,主機の保守整備について,主として停泊中,適宜,燃料油,冷却海水等の各こし器を掃除し,各部潤滑油を新替えするほか,半年ごとに,燃料噴射弁を抜き出して噴射圧力の点検を行い,入渠時には造船所に依頼して,毎回,ピストンは全筒,シリンダライナは順に2本ずつ抜き出し,過給機を開放して軸受けを新替えするなどの整備を実施していた。
 ところで,日広丸は,進水以来,ほぼ2年ごとに入渠して船体及び機関の整備が行われており,平成7年にB組合が運航するようになってからも,同間隔で造船所に入渠して整備を行っていたが,現所有者が買船したとき,それまでの整備記録が引き継がれなかったので,同6年以前の主機の整備来歴は不明であった。
(第1)
 主機の過給機は,D社製のVTR-320型と呼称する自己潤滑式の排気タービン過給機で,排気入口囲い,タービン車室及びブロワ囲いからなるケーシングの内部に,タービン翼車,ブロワ翼車,軸受,ポンプ円板などを取り付けたロータ軸及びノズルリング等が組み込まれていて,排気の通路となる排気入口囲い及びタービン車室には冷却水室を設けて海水を通すようになっており,各冷却水室には壁面(以下「冷却水壁」という。)の電気腐食を防ぐ目的で,それぞれ防食亜鉛が取り付けられていた。
 ところで,排気入口囲い及びタービン車室は,運転中に冷却水壁が排気側の硫酸腐食と冷却水側の電気腐食により衰耗し,海水冷却機関では一般に4,5年の使用で腐食破孔を生じるおそれがあることから,機関メーカーは,取扱説明書に2年以上使用したものについては,6箇月ごとに肉厚を計測して3ミリメートル(mm)以下の箇所を発見したときは新替えすること,また,防食亜鉛を定期的に点検して消耗状態に合わせて早めに取り替えることなどを記載し,取扱者の注意を促していた。
 しかし,同肉厚計測は,定期的に計測して衰耗傾向を把握する意味合いも大きく,一般的に,整備専門業者が専用の計測器具を使用し,計測可能な範囲内の腐食が進行しやすいとされる数箇所に対して行われ,局部的に生じた腐食は見過ごされる可能性もあり,計測値を参考に継続使用の可否を判断するときは,過給機の使用時間なども合わせて勘案し,早めに取り替える必要があった。
 A受審人は,機関の運転管理に当たり,過給機については,適宜潤滑油を新替えするほか,長期間使用された海水冷却機関であることから冷却水壁の電気腐食に留意して各冷却水室の防食亜鉛をほぼ半年ごとに新替えし,入渠の際は開放して各部掃除,軸受け新替え,肉厚計測等の整備を実施していた。
 日広丸は,平成13年8月に入渠し,過給機各冷却水壁の肉厚が計測され,平成9年に新替えされたタービン車室はわずかに減少していただけであったのに対し,排気入口囲いの肉厚が新品で約15mmのところ,5.5ないし12.0mmまで減少していることが判明した。
 A受審人は,過給機が整備来歴は不明ながら少なくとも平成7年4月から6年以上使用されており,次回入渠予定は早くても2年後であったが,計測結果から,排気入口囲いの衰耗がかなり進行していることを認めたとき,取扱説明書に記載されている新替え限度には達していなかったので次回の入渠時までは大丈夫と思い,新替えの措置をとることなく,同囲いの下側排気入口付近の冷却水壁に局部腐食が発生していることに気付かないまま,継続使用することとしてそのまま復旧するよう指示した。
 出渠した日広丸は,従来どおりの運航を繰り返していたところ,出渠後2年経過したものの,入渠時期が延期されるうち,いつしか排気入口囲いの局部腐食箇所に微少亀裂が発生して破孔するおそれがある状態となった。
 こうして,日広丸は,A受審人ほか6人が乗り組み,し尿990トンを積載し,海洋投棄の目的で,平成16年2月12日09時40分佐世保港を発し,22時30分ごろ許可海域に至って直ちに投棄作業を開始し,船長が船橋で単独操船に,他の乗組員全員が甲板配置にそれぞれ就き,主機を微速力前進にかけて作業を続けるうち,排気入口囲いに破孔が生じて冷却海水が排気側に漏洩し,作業を終えて主機回転数を180から450に増速しようとしたところ,23時55分北緯31度09分東経128度16分の地点において,排気中の燃焼生成物と漏洩海水によってロータ軸が汚損し,過給機の回転が低下して主機が燃焼不良となり,煙突から黒煙を発した。
 当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,投棄作業終了後,機関室に降りて貨物ポンプを停止し,並列運転中の発電機を単独運転に切り替えるなどの手仕舞い作業を行っていたところ,船長から,主機の回転が上がらず,煙突から黒煙が出ている旨の連絡を受け,主機を点検して過給機の異状に気付き,開放して排気入口囲いの破孔やロータ軸の固着を認めたが,折から時化が予想されて帰途が急がれたことから,主機を減速して運転を続けることとした。
 日広丸は,主機を極微速力前進にかけて航行を再開したが,逆転減速機から原因不明の異音が発生し始めたので,主機の運転を断念して救助を要請し,翌13日08時ごろ付近を航行中の貨物船により曳航が開始され,その後来援した引船に引き継がれて14日08時10分島原港に引き付けられた。
 日広丸は,同港において,造船所の手により,主機,逆転減速機及び過給機を精査し,前二者には異状がないことが確認され,過給機が軸受け,排気入口囲いなどを新替えして修理された。
(第2)
 主機のシリンダヘッドは,吸・排気弁をそれぞれ2本備えた4弁式の鋳鉄製で,中央に燃料噴射弁を装着する弁孔が設けられ,その周囲に吸・排気弁,始動空気弁及び指圧器弁の各弁孔が開けられていたほか,過給機から供給される吸気の通路が左舷側に,過給機に導かれる排気の通路が右舷側にそれぞれ設けられていて,燃焼ガスにより各部が過熱されることのないよう,内部に冷却水室を設けて海水側壁面の電気腐食を防ぐ目的で防食亜鉛が取り付けられていた。
 ところで,シリンダヘッドは,運転中に高温の燃焼ガスに触れる触火面に亀裂が生じたり,冷却水室壁面(以下「冷却水壁」という。)が排気側の硫酸腐食と冷却水側の電気腐食により,衰耗して腐食破孔を生じるおそれがあるので,長期間使用された,とくに海水冷却機関のシリンダヘッドを開放整備する際は,触火面だけでなく冷却水壁両面の衰耗状況に注意する必要があったが,同室内部は複雑な形状をしていて目視点検不可能な箇所もあり,主機取扱説明書には,防食亜鉛の取扱いとともに,同亜鉛取替えの際等に取付け口から冷却水室内部を点検し,腐食が著しいようであれば早目に新替えするよう記載されていた。
 A受審人は,機関の運転管理に当たり,シリンダヘッドについては,来歴不明ながら船舶検査手帳の記録から昭和63年の定期検査の際に1ないし5番シリンダのシリンダヘッド触火面に亀裂が発見されて溶接補修されていること,また,B組合から同型機関はかなり以前に製造中止となって中古部品の入手も困難なことから,損傷しても補修して使用する必要があることなどを知り,冷却水壁の電気腐食に注意し,各冷却水室の防食亜鉛をほぼ半年ごとに新替えし,入渠の際は,毎回ピストン抜きに先立って全筒開放し,各部掃除,触火面のカラーチェック等の整備を実施していた。
 日広丸は,平成16年4月に定期検査工事を実施し,造船所によって主機の全シリンダヘッドの開放整備が行われ,カラーチェックによっていずれも指圧器弁の弁孔周辺に微小亀裂が発見された。
 A受審人は,造船所の技師から同亀裂の報告を受け,軽微なので次回の開放時に亀裂が進行していれば補修することとし,全シリンダヘッドをそのまま使用して主機を復旧させ,2番シリンダのシリンダヘッドについて,排気口付近の目視困難な冷却水壁海水側が,経年の海水腐食により,肉厚が著しく減少していることを知る由もなかった。
 出渠した日広丸は,従来どおりの運航を繰り返していたところ,いつしか主機2番シリンダのシリンダヘッド冷却水壁腐食箇所に微少亀裂が発生して破孔するおそれがある状態となった。
 こうして,日広丸は,A受審人ほか6人が乗り組み,し尿990トンを積載し,海洋投棄の目的で,平成16年5月17日13時15分佐賀県呼子港を発し,翌18日04時40分ごろ許可海域に至って直ちに投棄作業を開始し,船長が船橋で単独操船に,他の乗組員全員が甲板配置にそれぞれ就き,主機を微速力前進にかけて作業を続けるうち,主機2番シリンダのシリンダヘッドに破孔が生じ,冷却海水が漏洩して排気ガスとともに過給機に流入したことから,ノズルリングが海水の塩分によって閉塞し,作業を終えて帰途に就くため主機の回転数を増速しようとしたところ,05時56分北緯31度07分東経128度16分の地点において,過給機の回転数が上昇せず,主機が燃焼不良となって煙突から黒煙を発した。
 当時,天候は曇で風力2の南東風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,投棄作業を終えて単独で機関室当直に就いていたところ,主機の異状に気付いて停止し,各部を点検したのちエアランニングを実施したところ,2番シリンダのシリンダヘッドからわずかな漏水を認め,同ヘッドを予備品と交換して19時40分ごろ運転を再開したものの,過給機の作動不良で主機回転数を上げることができず,B組合と連絡を取って引船を手配したうえ,折から時化が予想され,帰途を急いでいたことから,再び低速で運転を続け,翌19日07時30分ごろ来援した引船と合流し,15時ごろ島原港に引き付けられた。
 日広丸は,同港において,造船所の手により,主機及び過給機を精査し,過給機が開放掃除されて修理され,破孔を生じた2番シリンダのシリンダヘッドが溶接補修されて予備品とされた。

(本件発生に至る事由)
1 主機が製造後30年以上使用されてきた海水冷却機関であったこと
2 主機の使用時間が年間700ないし800時間ばかりと極めて少なくさらに減少すると予想されたこと
(第1)
1 入渠時の過給機冷却水壁の肉厚計測値が新替え基準値まで減少していなかったこと
2 次回入渠時に判断するつもりで過給機排気入口囲いを新替えしなかったこと
3 運航中,過給機排気入口囲いの冷却水壁に破孔が生じたこと
(第2)
1 主機2番シリンダのシリンダヘッド冷却水壁が経年の海水腐食によって著しく衰耗したこと
2 入渠工事の際,主機2番シリンダのシリンダヘッド衰耗箇所が発見されなかったこと
3 運航中,主機2番シリンダのシリンダヘッドの冷却水壁に破孔が生じたこと

(原因の考察)
 主機が製造後30年以上使用されてきた海水冷却機関であったこと及び主機の使用時間が年間700ないし800時間ばかりと極めて少なくさらに減少すると予想されたことは,それぞれ主機の整備及び主機の各部冷却水壁の衰耗に深く関与した事実であるが,本件事故と相当な因果関係があるとは認めない。
(第1)
 過給機メーカーは冷却水壁の亀裂発生防止のため,稼働後2年以上経過したものは6箇月毎に開放して肉厚を測定することを推奨しているが,本船の運航状況を勘案すると現実的な対処方法とは認められず,また,肉厚計測で局部的な衰耗部分を全て発見できるとは限らないことから,本件を確実に防止するには,開放整備で排気入口囲い冷却水壁の衰耗傾向が明らかになった際,来歴不明ながら少なくとも6年間以上使用されていたことや次回の開放予定等を考慮して新替えされるべきであったと認められる。
 したがって,A受審人が事故発生前の開放整備の際,過給機入口囲いを新替えしなかったこと,そのため運航中,同囲いの冷却水壁に破孔が生じたことは原因となる。
(第2)
 本件は,30年以上使用されたと推定されるシリンダヘッドの冷却水壁が経年の海水腐食によって衰耗し,衰耗箇所が目視困難な箇所であったことから入渠工事の際に発見されず,運航中,破孔が生じたことが原因である。

(海難の原因)
(第1)
 本件機関損傷は,入渠整備の際,長期間使用して冷却水壁の肉厚が減少した主機過給機の排気入口囲いが新替えされず,同壁面の衰耗が進行するまま運転が続けられ,東シナ海において,し尿の投棄作業中,同壁面に破孔が生じて冷却海水が過給機内部に漏洩したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は,主機のシリンダヘッド冷却水壁が経年の海水腐食によって著しく衰耗し,このことが発見されないまま運転が続けられ,東シナ海において,し尿の投棄作業中,同壁面に破孔が生じて冷却海水が排気通路に漏洩したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
(第1)
 A受審人が長期間使用して冷却水壁が衰耗した過給機排気入口囲いを入渠時に新替えしなかったことは,本件発生の原因となる。しかしながら,このことは,同人が海水冷却方式の場合は同衰耗に注意すべきことを承知していて防食亜鉛を定期的に取替えるなど日常の整備を心がけていた点及び入渠時の同冷却水壁の計測値が新替え限度に達していなかった点に徴し,職務上の過失とするまでもない。
(第2)
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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