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平成17年仙審第33号
件名

漁船第七大明丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成17年9月8日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹,原 清澄,半間俊士)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第七大明丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
操舵室,船員室及び機関室後部等の焼損,廃船処分

原因
ケーブル端子と蓄電池極端子との接触による短絡の防止措置不十分

主文

 本件火災は,ケーブル端子と蓄電池極端子との接触による短絡の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月26日14時30分
 宮城県渡波港
 (北緯38度24.8分東経141度22.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第七大明丸
総トン数 9.7トン
登録長 13.66メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
(2)設備及び性能等
ア 第七大明丸
 第七大明丸(以下「大明丸」という。)は,昭和57年12月に進水した小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,セルモーター始動方式の主機を装備し,甲板下には船首から順に1番魚倉ないし4番魚倉,機関室,物置室及び操舵機室を配置し,甲板上には中央部に操舵室が設けられ,その後方に機関室囲い及び船員室が配置され,また,操舵室と船員室には両舷に引き戸が設けられ,機関室へは船員室前部壁の右舷側の引き戸から出入りするようになっていた。なお,消火器は船員室に持運び式消火器を1本備えていた。
イ 蓄電池
 蓄電池は,主機始動用蓄電池が機関室後部右舷下方に,船内負荷用蓄電池が船員室前部左舷床上に設置され,いずれも12ボルトの蓄電池を2台直列に接続して24ボルトとして使用しており,主機始動用蓄電池は主機付き充電器,船内負荷用蓄電池は主機動力取出し軸駆動の充電器によってそれぞれ充電されるようになっていた。そして,蓄電池の極端子は蝶ねじで締め付けるようになっていて,極端子付近には陽極,陰極の記号が明記されていた。

3 事実の経過
 大明丸は,平成17年3月23日夕刻,船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,宮城県渡波港魚市場岸壁に係留していた僚船に船首を北東方に向けて左舷付け係留し,その後3日間時化のため出漁しなかった。
 同月26日午後A受審人は,3日間主機始動用蓄電池の充電をしていなかったことから,翌日の出漁に備えて同蓄電池を充電することにしたものの,最近2日間充電しないと主機のかかりが悪かったので同蓄電池が放電して主機の始動が困難になっているものと判断し,船内負荷用蓄電池で主機を始動することとして,同蓄電池と主機始動用蓄電池を船内に保管していた長さ5メートル外径8ミリメートルで両端に輪型圧着端子(以下「端子」という。)付きゴム絶縁被覆のケーブル2本で接続配線することとしたが,そのケーブルは所有していた前船の集魚灯用ケーブルを再利用したもので,正規のブースターケーブルでなかった。
 ところで,A受審人は,蓄電池間をケーブルで接続配線するのが今回初めてであったうえに,同配線についても同じ極を接続すればよいという程度で知識も十分でなかったところ,14時00分大明丸に1人赴き,船内負荷用蓄電池2台のうち1台の陽極端子と,主機始動用蓄電池2台のうち1台の陽極端子とを接続し,次に他方の船内負荷用蓄電池の陰極端子を接続し,最後にケーブル他端の端子を同じ主機始動用蓄電池の陰極端子に挿入したところ,同始動用蓄電池とケーブルとの間に短絡回路が形成され,挿入中のケーブル端子と陰極端子(以下「極端子」という。)との間から火花とバチバチという異音を発生し,驚いてケーブル端子を極端子から取り外し,ケーブルを同始動用蓄電池の上に置いた。
 A受審人は,ケーブルの接続配線に問題があったかもしれないと考え,最寄りの電気店に対応策を相談することとしたが,ケーブル端子を極端子から取り外したので大丈夫と思い,ケーブルを蓄電池から十分に引き離しておくなど,ケーブル端子と極端子との接触による短絡の防止措置を十分にとることなく,14時18分離船して電気店に向かった。
 14時20分A受審人は,電気店に着いて状況を話したところ,別の電気店を紹介されただけであったことから,同時28分電気店を出て大明丸に引き返したが,この間,大明丸では取り外していたケーブルが船体の動揺により移動し,ケーブル端子が主機始動用蓄電池の極端子に接触したことから同始動用蓄電池が短絡し,ケーブルの絶縁被覆が過熱により着火炎上して周囲に燃え移り,14時30分渡波港佐須浜防波堤灯台から真方位008度1,150メートルの地点において,機関室等が火災となり,帰船した同人が船員室引き戸から炎が吹き出ているのを認めた。
 当時,天候は晴で風力4の北北西風が吹き,港内には波が少しあった。
 大明丸は,A受審人がバケツで海水をかけたが火の勢いが強いので効果がなく,岸壁にいた人が火災に気付いて消防署へ通報し,消防車が駆けつけて消火作業が行われ,15時00分鎮火した。
 その結果,大明丸は,操舵室,船員室を全焼したほか機関室後部等を焼損し,また,機関室内機器が消火水によってぬれ損したが,A受審人が高齢で漁をする予定がないことから廃船処分された。

(本件発生に至る事由)
1 ケーブルが正規のブースターケーブルでなかったこと
2 主機始動用蓄電池が3日間充電されず放電状態であったこと
3 A受審人が主機始動用蓄電池と船内負荷用蓄電池をケーブルで接続配線するにあたっての知識及び経験が十分でなかったこと
4 A受審人が主機始動用蓄電池と船内負荷用蓄電池をケーブルで接続配線する際,誤配線して短絡回路を形成させたこと
5 ケーブル端子を極端子から取り外したので大丈夫と思ったこと
6 ケーブル端子と極端子との接触による短絡の防止措置が十分でなかったこと
7 主機始動用蓄電池ケースの上に置いたケーブルが船体の動揺により移動したこと

(原因の考察)
 本件火災は,ケーブル端子と極端子の接触による短絡の防止措置を十分にとっていたなら,ケーブル端子が極端子と接触することがなく,発生は回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,ケーブル端子を極端子から取り外したので大丈夫と思い,取り外したケーブルを蓄電池から十分引き離すなど,ケーブル端子と極端子との接触による短絡の防止措置を十分にとらず,ケーブルを主機始動用蓄電池の上に置いたことは,本件発生の原因となる。
 ケーブルが正規のブースターケーブルでなかったこと,主機始動用蓄電池が3日間充電されず放電状態であったこと,主機始動用蓄電池と船内負荷用蓄電池をケーブルで接続配線するにあたっての知識及び経験が十分でなかったこと,主機始動用蓄電池と船内負荷用蓄電池をケーブルで接続配線する際,誤配線して短絡回路を形成させたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 主機始動用蓄電池ケースの上に置いたケーブルが船体の動揺により移動したことは,本件発生に関与した事実であるが,原因とならない。

(海難の原因)
 本件火災は,主機始動用蓄電池と船内負荷用蓄電池をケーブルで接続配線作業中,同始動用蓄電池の極端子に挿入中のケーブル端子から火花が発生し,ケーブル端子を極端子から取り外したのち,一時離船する際,ケーブル端子と極端子との接触による短絡の防止措置が不十分で,同始動用蓄電池の上に置いたケーブルが船体の動揺により移動してケーブル端子が極端子と接触し,同始動用蓄電池が短絡してケーブルの絶縁被覆が着火し,周囲に延焼したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機始動用蓄電池と船内負荷用蓄電池をケーブルで接続配線作業中,同始動用蓄電池の極端子に挿入中のケーブル端子から火花の発生を認め,ケーブル端子を極端子から取り外したのち,電気店に対応策を相談するため離船する場合,接続配線を間違えて短絡電流が流れているおそれがあったから,取り外したケーブルを蓄電池から十分引き離しておくなど,ケーブル端子と極端子との接触による短絡の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,ケーブル端子を極端子から取り外したので大丈夫と思い,ケーブル端子と極端子との接触による短絡の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,離船中に主機始動用蓄電池の上に置いたケーブルが船体の動揺により移動し,ケーブル端子が同始動用蓄電池の極端子と接触して同始動用蓄電池が短絡し,ケーブルの絶縁被覆が着火して火災を招き,操舵室,機関室,船員室等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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