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平成17年函審第9号
件名

漁船第八十八オコツク丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成17年9月29日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(弓田邦雄,堀川康基,野村昌志)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第八十八オコツク丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第八十八オコツク丸機関長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:第八十八オコツク丸前機関長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
過給機出口伸縮継手付近の各配線が焼損,主機駆動交流発電機及び主配電盤が濡損

原因
燃料油の漏洩点検及び排気系統の防熱処置不十分

主文

 本件火災は,主機周りの燃料油の漏洩点検及び排気系統の防熱処置がいずれも十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月17日14時30分
 北海道知床岬南西方沖合
 (北緯44度15.8分 東経145度13.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八十八オコツク丸
総トン数 19トン
登録長 21.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 529キロワット
(2)設備及び性能等
ア 船体
 第八十八オコツク丸(以下「オコツク丸」という。)は,平成3年7月に進水した,定置網漁業に従事するアルミニウム合金製漁船で,船体後部に船首方から順に操舵室,機関室囲壁及び賄室兼食堂を有し,それらの下方が機関室となっていた。
 また,オコツク丸は,操業海域の関係から船舶安全法による検査を免除されていた。
イ 主機
 主機は,D社が製造した6NH160-EN型と呼称する,定格回転数毎分1,800(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で,各シリンダは船尾方から順番号で呼ばれ,操縦装置が左舷側前部に,空冷式過給機が右舷側の水冷式排気集合管中央部の上方にそれぞれ位置し,燃料油として軽油が使用され,前部の動力取出軸から直流及び交流各発電機,甲板クレーン用油圧ポンプ,操舵機用油圧ポンプ等が駆動されていた。
ウ 主機付きの燃料油配管
 燃料油は,主機直結の燃料供給ポンプに吸引・加圧され,複式燃料こし器,左舷側上部の燃料入口主管及び入口枝管(以下「燃料入口管」という。)を経て各シリンダごとに配置された燃料噴射ポンプに至っており,同油圧力が1.6キログラム毎平方センチメートルであった。
エ 燃料噴射ポンプ
 燃料噴射ポンプは,3組の呼び径10ミリメートル(以下「ミリ」という。)の植込みボルト・ナット(以下「取付けナット」という。)でシリンダブロックに据え付けられており,同ポンプ部の前面に各シリンダにわたって一体形の覆い(以下「ポンプ覆い」という。)が,ボルト締めにより同ブロックに取り付けられていた。
オ 燃料入口管
 燃料入口管は,外径10ミリ肉厚2ミリ全長約150ミリのくの字形鋼管で,燃料入口主管と各燃料噴射ポンプ間に取り付けられ,両端のニップルを袋ナットで継手に締め付けてそれぞれ接続するようになっていた。
カ 主機排気系統の防熱状況
 過給機の排気ガス出口ケーシングに接続した船首方のエルボ管から伸縮継手(以下「過給機出口伸縮継手」という。)を経て排気管が立ち上がっており,同ケーシング及び同エルボ管は防熱材で完全に覆われていたが,過給機出口伸縮継手には過給機整備の際に同継手から外して陸上げできるよう,布団状の防熱材が巻き付けられていた。

3 E組合
 E組合は,オコツク丸と平成15年5月に竣工した同じ総トン数の僚船を所有し,北海道宇登呂漁港(知床岬地区)を基地として5月から11月まで定置漁業を営み,オコツク丸または僚船を専用して1隻を予備とし,両船に船長及び機関長をそれぞれ選任していた。

4 事実の経過
 オコツク丸は,年間に約1,000時間主機を使用し,竣工以来平成5年4月,同11年4月及び同14年4月に主機のオーバーホール整備を行い,同15年は僚船が竣工したことから5月から7月初めの間のみ使用され,同16年は5月1日から継続して使用されていたが,いつしか過給機出口伸縮継手の著しく傷んだ防熱材が取り外されていた。
 C受審人は,全速力時の主機の回転数を約1,700とし,基地を朝出港して定置網の網起こしを行い,宇登呂漁港(宇登呂地区)で漁獲物を水揚げのうえ,正午ごろ基地に帰港する操業に従事していたが,同14年4月オーバーホール整備からの運転時間が少ないので大丈夫と思い,主機周りの燃料油の漏洩点検を十分に行うことなく,いつのころか5番シリンダの燃料噴射ポンプの取付けナットがすべて緩み,振動により燃料入口管のポンプ側接続部近くに応力が集中して材料が疲労し,いつしか同箇所に亀裂が発生して同油が漏洩し,シリンダブロック側面を伝い落ちなどするようになったが,これに気付かなかった。
 ところで,C受審人は,同16年5月17日操業を行って水揚げしたのち,13時30分基地に入港して主機を停止したところ,水揚げ作業中に腰を痛めたのか,腰痛が激しいので,オコツク丸により宇登呂地区の病院に連れて行ってもらうこととした。
 A受審人は,オコツク丸の船長が他の用事のため,臨時の船長として同船に乗船することとなった。
 B受審人は,臨時の機関長としてオコツク丸に乗船することとし,14時前機関室で主機を始動して回転数約600の停止回転としたが,C受審人から何も不具合箇所を聞いていないので大丈夫と思い,始動後主機周りの燃料油の漏洩点検を十分に行うことなく,すぐ同室を離れて操舵室に赴き,5番シリンダの燃料入口管の前示箇所から同油が漏洩していることに気付かなかった。
 こうして,オコツク丸は,A及びB両受審人が乗り組み,C受審人を乗せ,14時00分基地を発し,主機を回転数1,650として航行中,亀裂が進展していた5番シリンダの燃料入口管の前示箇所が折損し,飛散した燃料油が過給機出口伸縮継手の露出部に降り掛かって発火し,14時30分知床岬灯台から真方位228度6.9海里の地点において火災となった。
 当時,天候は曇で風力2の西風が吹き,海上は穏やかであった。
 A及びB両受審人は,主機の回転の低下に気付き,停止回転としたうえ機関室に向かい,同室囲壁の左舷側入口戸を開けたところ,充満した煙とともに主機排気管部に炎を認め,操舵室から電動式海水ポンプを運転し,同入口から放水消火して間もなく鎮火させた。
 C受審人は,賄室兼食堂で横になって休んでいたとき,主機の回転の低下に気付いて同室を出たところ,機関室からの煙を認めた。
 オコツク丸は,主機の運転が不能となって救助を要請し,来援した救助船等に曳航された。
 この結果,過給機出口伸縮継手付近の各配線が焼損し,放水により交流発電機及び主配電盤が濡損したが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 過給機出口伸縮継手の防熱材が取り外され,排気系統の防熱処置が不十分であったこと
2 主機5番シリンダの燃料噴射ポンプの取付けナットが緩んで燃料入口管に亀裂を生じ,燃料油が漏洩したこと
3 主機周りの燃料油の漏洩点検が不十分であったこと
4 主機5番シリンダの燃料入口管が折損して燃料油が飛散したこと

(原因の考察)
 本件は,主機周りの燃料油の漏洩点検を十分に行っていたなら,同油が漏洩していることに気付き,5番シリンダの燃料噴射ポンプ取付けナットの緩みから燃料入口管に亀裂を生じていることを発見でき,同亀裂が進展し同管が折損して同油が飛散するに至らず,発生が回避できたと認められる。
 したがって,B及びC両受審人が,主機周りの燃料油の漏洩点検が不十分で,5番シリンダの燃料噴射ポンプ取付けナットの緩みから燃料入口管に亀裂を生じ,同油が漏洩していることに気付かなかったこと及び同管が折損して同油が飛散したことは,本件発生の原因となる。
 過給機出口伸縮継手の防熱材が取り外され,防熱処置が不十分であったことは,燃料油が飛散して降り掛かったとき,その高温部で発火したものであり,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件火災は,主機の運転・保守に当たる際,主機回りの燃料油の漏洩点検が不十分で,燃料噴射ポンプの取付けナットの緩みから燃料入口管に生じた亀裂が進展して折損したことと,排気系統の防熱処置が不十分で,同折損部から飛散した同油が過給機出口伸縮継手の露出部に降り掛かったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,C受審人を病院に搬送するため,臨時に乗り組んで主機の運転管理に当たる場合,燃料油が漏洩して主機の高温部に降り掛かると大事に至るから,始動後主機周りの同油の漏洩点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,C受審人から何も不具合箇所を聞いていないので大丈夫と思い,主機の始動後すぐ機関室を離れ,主機周りの燃料油の漏洩点検を十分に行わなかった職務上の過失により,5番シリンダの燃料噴射ポンプの燃料入口管に生じた亀裂箇所から同油が漏洩していることに気付かず,同管が折損して飛散した同油が過給機出口伸縮継手の露出部に降り掛かって火災を招き,同継手付近の各配線を焼損させ,消火作業の放水により,主機駆動交流発電機及び主配電盤を濡損させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,主機の運転・保守管理に当たる場合,燃料油が漏洩して主機の高温部に降り掛かると大事に至るから,主機周りの同油の漏洩点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,オーバーホール整備からの主機の運転時間が少ないので大丈夫と思い,主機周りの燃料油の漏洩点検を十分に行わなかった職務上の過失により,5番シリンダの燃料噴射ポンプの燃料入口管に生じた亀裂箇所から同油が漏洩していることに気付かず,同管が折損して飛散した同油が過給機出口伸縮継手の露出部に降り掛かって火災を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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