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平成17年仙審第1号
件名

漁船第12宝進丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成17年7月5日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹,原 清澄,半間俊士)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第12宝進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
操舵室内全焼

原因
電気系統の遮断措置不十分

主文

 本件火災は,船内を無人とするにあたり,電気系統の遮断措置が不十分で,主機駆動発電機が運転されたとき電気コンロへ通電され,同コンロ上に落下していた雑誌等が着火したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月7日17時03分
 宮城県渡波港
 (北緯38度24.76分東経141度22.03分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第12宝進丸
総トン数 17トン
登録長 15.66メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 345キロワット
(2)設備等
ア 第12宝進丸
 第12宝進丸(以下「宝進丸」という。)は,昭和52年12月に進水した沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,上甲板下には船首から順に,氷倉,1番魚倉,2番魚倉,機関室,船員室及び舵機室が配置され,機関室囲壁前部の上方に操舵室が,同囲壁後部に賄い室がそれぞれあり,その賄い室には引き戸が両舷と機関室に通じる前部壁とに設けられていた。
イ 操舵室
 操舵室は,長さ3.0メートル幅2.8メートル高さ1.8メートルで,両舷出入口にドアがあり,天井及び内壁にベニヤ板が張られ,床にカーペットが敷かれていた。
 また,操舵室の前部には前後長さ0.6メートル幅2.8メートル高さ0.7メートルの計器台があって,同計器台の後部中央に舵輪を有し,同計器台上面の中央部にマグネットコンパスが設置され,そのコンパスを挟んで,左舷側にGPSプロッター,テレビ型レーダー等が,右舷側に主機操縦ハンドル,主機計器警報盤,魚群探知器等がそれぞれ設置されており,同室後部に寝台があり,その前の左舷側に主配電盤が,右舷側に航海灯表示盤のほか無線機,投光器及び照明灯の各分電盤が備えられていた。
 消火器は,持運び式消火器1本が操舵室左舷側ドア寄りの壁に取り付けられていた。
ウ 船内電源
 発電機は,交流電圧220ボルト容量60キロボルトアンペアの三相交流発電機と,直流電圧24ボルト容量3キロワットの充電用発電機があり,いずれも主機動力取出軸からベルト駆動され,両発電機によって発生した電力は,操舵室の主配電盤の各遮断器を経由して各負荷へ送られるようになっていた。
 なお,主配電盤の遮断器として,配線用遮断器(ノーヒューズブレーカー)が装備されていた。
 また,バッテリーは,主機のセル始動用と充電用発電機から充電される船内機器用とがあり,いずれも機関室に据え置かれ,主機の発停は機関室でのみできるようになっていた。
エ 操舵室の電熱器具
 操舵室には,1,200ワットの電気ストーブが右舷側ドア寄りの床に固定して置かれ,また,600ワットのニクロム線式電気コンロ(以下「電気コンロ」という。)が左舷側ドア寄りの床に敷かれた滑り止めマット上に置かれてあり,両器具の電源を室内の交流電圧100ボルトのコンセントからとっていた。

3 事実の経過
 宝進丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,平成16年3月7日03時00分宮城県渡波港を発し,漁場に向かったところ,時化のため操業を取りやめて同港に引き返すことにし,同時30分渡波港長浜防波堤灯台から017度(真方位,以下同じ。)1,100メートルの魚市場岸壁に右舷付け係留した。
 ところで,A受審人は,船を離れるにあたり,主機を停止して船内を無電源とする場合,電気系統の各負荷スイッチを切り,主配電盤の遮断器を断としたのち,主機を停止する必要があったが,主機を停止すると無電源になるから同系統を遮断するまでもないと思い,いつものとおり操舵室を暖房していた電気コンロ及び電気ストーブのスイッチを切らず,また,主配電盤の遮断器を断とすることなく主機を停止し,操舵室及び賄い室の出入口戸を閉めて船内を無人として帰宅した。
 11時00分A受審人は,これまで出港時に主機のかかりの悪い日が続いていたので,この機会に主機の点検整備をすることにし,機関整備会社に同整備を電話で依頼した。
 ところで,電気コンロ前部上方のレーダーの上には棚が設けられ,棚には公用航海日誌や雑誌等がはみ出して乱雑な状態で置かれ,また,船尾トリムのため棚が船尾側に傾斜していたところ,他船の航走波による船体動揺の影響を受けたものか,雑誌等が電気コンロ上に落下した。
 16時00分機関整備会社の社員は,無人の宝進丸の機関室に入り,持ち込んだ照明具を岸壁の車から電源をとって点灯し,主機のターニングによる圧縮状況の点検や噴射時期の調整等を行い,同時56分運転具合を見るため主機を始動したところ,同時に発電機が運転されて電気コンロへ通電され,落下していた雑誌等が着火して燃え上がり,17時03分前示係留地点において,操舵室が火災となった。
 当時,天候は曇で風力3の北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,石巻地域には強風波浪乾燥注意報が発表されていた。
 主機の運転状況を点検中の機関整備会社社員は,焦げた臭いとともに機関室船首方から白煙が出ているのに気付き,不審に思って急ぎ同室を出て操舵室の右舷側ドアを開けたところ,電気コンロ及びその周囲から炎が立ち上がっているのを認めたが,煙で室内に入ることができず,ドアを閉めて主機を停止し,大声で火災発生を周囲に知らせるとともに,近くの自社工場から消火器を持ち出し,また,僚船の乗組員も消火器を持って駆けつけ,連携して操舵室の消火作業に当たったところ,17時15分鎮火した。
 この結果,宝進丸は,操舵室内を全焼し,のち同室の内装,レーダー,マグネットコンパス,魚群探知器,主機操縦装置,主配電盤等の機器を新替した。

(本件発生に至る事由)
1 電気コンロを暖房器具としても使用していたこと
2 主機を停止すると船内が無電源となるから電気系統を遮断するまでもないと思っていたこと
3 船内を無人とするにあたり,電気コンロ等のスイッチを切らなかったこと
4 船内を無人とするにあたり,主配電盤の遮断器を断としなかったこと
5 棚に雑誌等を乱雑に置き,棚からはみ出して落下しやすい状態にしていたこと
6 棚が船尾トリムで船尾側に傾斜していたこと
7 棚に置かれた雑誌等が電気コンロ上に落下したこと

(原因の考察)
 本件火災は,船内を無人として岸壁に係留中,機関整備業者が乗船して主機を運転した際,発電機が駆動されて電気コンロへ通電され,同コンロ上に落下していた雑誌等が着火し,周囲に延焼して操舵室が火災となったものである。
 主機や発電機の運転は,始動時には無負荷あるいは軽負荷状態で始動し,停止時には負荷をできるだけ取り除いてから停止するのが基本である。また,電気系統は,係留中など無電源としているとき,配線や電気機器の絶縁が低下したり,本件のように可燃物が電気コンロ上に落下したりするなどのことが無いとも限らず,給電されるとそれらの箇所が着火し,人気のないところでは着火の発見が遅れて火災となることがある。以上のことから,主機駆動発電機の停止前には各負荷スイッチを切り,主配電盤の遮断器を断としておく必要がある。
 したがって,A受審人が,船内を無人とするにあたり,主機を停止すると無電源となるから電気系統を遮断するまでもないと思って,電気コンロ等のスイッチを切らず,主配電盤の遮断器を断としなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が電気コンロを暖房器具としても使用していたこと及び棚に雑誌等を乱雑に置いて落下しやすい状態にしていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは火災防止の観点から是正されるべきである。
 棚が船尾トリムで船尾側に傾斜していたことは原因とならない。また,棚に置かれた雑誌等が電気コンロ上に落下したことは,たまたま落下した所が電気コンロ上であったことから,原因とならない。

(海難の原因)
 本件火災は,岸壁係留後,主機駆動発電機を停止して船内を無人とするにあたり,電気系統の遮断措置が不十分で,同発電機が運転されたとき,スイッチが入った状態の電気コンロへ通電され,同コンロ上に落下していた雑誌等が着火し,周囲に延焼したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,岸壁係留後,主機駆動発電機を停止して船内を無人とする場合,同発電機の運転と同時に電気系統へ給電されることのないよう,電気コンロのスイッチを切るなどして,電気系統の遮断措置を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,主機を停止すると船内が無電源になるから電気系統を遮断するまでもないと思い,同系統の遮断措置を十分に行わなかった職務上の過失により,機関整備会社の社員が主機を運転したとき発電されて,スイッチが入った状態の電気コンロへ通電され,同コンロ上に落下していた雑誌等が着火して操舵室火災を招き,操舵室の内装,レーダー,マグネットコンパス,魚群探知器,主配電盤等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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