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平成17年神審第48号
件名

作業船ナビ2号転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年8月18日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:ナビ2号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船外機に濡れ損

原因
強潮流時の圧流防止措置不適切

裁決主文

 本件転覆は,強潮流時の圧流防止措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月7日08時30分
 鳴門海峡
 (北緯34度14.4分東経134度39.7分)

2 船舶の要目
船種船名 作業船ナビ2号
全長 7.10メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 29キロワット

3 事実の経過
 ナビ2号は,限定沿海区域を航行区域とする和船型のFRP製作業船兼交通船で,周囲が高さ40ないし49センチメートルのブルワークで囲われ,船尾部にかぶせ蓋を設けた物入れ2個を備え,船尾端中央に船外機が取り付けられており,専ら港湾土木工事における作業船や交通船として使用されていた。
 A受審人は,平成10年6月一級小型船舶操縦士免状を取得した後,作業船の船長としてナビ2号などに乗り組んで,工事に従事する作業員や資材の輸送に当たる一方,平成16年9月22日から翌年3月16日までの工期で行われていた,B公団から受注した大鳴門橋橋脚基礎部の防食工事の監督責任者として同工事に携わっていた。
 大鳴門橋の3Pと称する淡路島側橋脚基礎部は,9個の基礎杭が方形状の橋脚土台外枠で囲われたもので,約10.5メートルの間隔をもって南北にそれぞれ1基設置されていた。
 ナビ2号は,A受審人が1人で乗り組み,作業員5人を乗せ,橋脚保守整備の目的で,船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって,平成16年12月7日08時15分徳島県大毛島東端,大鳴門橋四国側付近の,鳴門飛島灯台から300度(真方位,以下同じ。)650メートルの地点を発し,3Pに向かった。
 ところで,鳴門海峡では,同海峡の南北両側における高潮と低潮とがほぼ逆となっているため海面に大きな水位差を生じ,極めて速い流れや渦を形成しており,南流時は,淡路島側の門埼と四国側の孫埼とを結ぶ線を通過すると急に流速を増し,3P付近においても複雑な潮流を呈するところとなっていた。
 発進時,A受審人は,各作業員に救命胴衣を着用させたうえ自らもこれを着用し,船尾部の物入れの上に腰を掛け,船外機のスロットルレバーの操作に当たって,08時25分ごろ3Pに到着したところで,船首を北北西方に向けて南側橋脚土台外枠西端に右舷付け係留し,作業員1人を残して4人の作業員を上陸させ,更に工事用資材の陸揚げを終えた。
 08時27分ごろA受審人は,北側橋脚土台の北西角付近外枠に船体を右舷付け係留するため,船外機を操作し,約2.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で前進した。
 A受審人は,目的の場所付近に接近したとき速力を1.0ノットに減じ,土台外枠に係留することにしたが,当時,南流最強時の直後で船首から強潮流を受けており,船首係留索を係止する前に船尾から錨を投入すると船首が圧流されるおそれがあったものの,注意して係留すれば大丈夫と思い,先に船首索を外枠に係止するなど,潮流に対する圧流防止措置を適切に行うことなく,左舷船尾から重さ5キログラムの錨を投入して錨索を約25メートル伸ばし,次いで作業員に船首索を外枠にとらせようとしたとき,折からの強潮流を右舷船首に受け,船首が急激に左方に振られ,船体が旋回して反転し,更に錨索が緊張し,高まった潮波を船尾に受け海水が船内に入り,08時30分鳴門飛島灯台から032度1,030メートルの地点において,ナビ2号は,左舷側に大傾斜して復原力を喪失し,船首を南方に向けて左舷側に転覆した。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は上げ潮の初期にあたり,付近には約6.5ノットの南流があった。
 転覆の結果,船外機に濡れ損を生じ,A受審人及び作業員は海中に投げ出されたが,のち付近にいた漁船に救助された。

(原因)
 本件転覆は,強潮流時の鳴門海峡において,橋脚保守整備のため大鳴門橋淡路島側橋脚土台外枠に係留する際,潮流に対する圧流防止措置が不適切で,船尾から錨を投じ,潮流により船首が左方に振られ,反転して錨索が緊張し,高まった潮波を船尾に受け海水が船内に入り,大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,強潮流時の鳴門海峡において,橋脚保守整備のため大鳴門橋橋脚基礎部土台外枠に右舷付け係留する場合,南流最強時の直後にあたり,船首係留索を係止する前に船尾から錨を投入すると船首が強潮流に圧流されるおそれがあったから,先に船首索を土台外枠に係止するなど,潮流に対する圧流防止措置を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,注意して係留すれば大丈夫と思い,先に船首索を土台外枠に係止するなど,潮流に対する圧流防止措置を適切に行わなかった職務上の過失により,船尾から錨を投じ,潮流により船首が左方に振られ,反転して錨索が緊張し,高まった潮波を船尾に受け海水が船内に入り,大傾斜して復原力を喪失し,転覆する事態を招き,船外機に濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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