(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月9日10時30分
沖縄県石垣島御神埼西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁業調査船セピア三世 |
総トン数 |
1.5トン |
全長 |
9.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
54キロワット |
3 事実の経過
セピア三世(以下「セ号」という。)は,平成7年12月に進水し,船尾に無蓋の操舵スタンドを設け,最大搭載人員13人で,最大積載量が1.38トンの和船型FRP製漁業調査船で,昭和59年3月に四級小型船舶操縦士免許を取得し,平成13年2月海技免状の有効期間が満了したものの,その後更新手続きを行わず,海技免状を失効させたままA受審人が,1人で乗り組み,作業員4人を同乗させ,漁業調査海域にかご網を設置する目的で,船首0.4メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,平成16年8月9日09時05分沖縄県石垣島石垣市桴海(ふかい)所在の独立行政法人水産総合研究センター八重山栽培漁業センター(以下「漁業センター」という。)桟橋を発し,同島南西方の名蔵湾の同海域に向かうこととした。
ところで,A受審人は,漁業センターと沖縄県水産試験場八重山支場とが共同で行う,しろくらべらのかご網調査のため,セ号の船体中央に,海水600リットルと稚魚500匹を入れた,直径1.4メートル高さ0.81メートルで,容量1キロリットルの総重量620キログラム(以下「キロ」という。)となったポリエチレン製円筒形水槽を,同水槽の周囲に60キロの酸素ボンベを1本,約280キロのかご網,土嚢及び潜水用具など設置作業に必要な資機材をそれぞれ配置し,船首部に3人,船尾左舷側に1人を座らせ,積載量が1.2トンを超える状態となった,ほぼ満載状態で輸送することとした。そして,同人は,当日朝から気象情報を収集し,航路途次の海上模様及び発航の可否について同乗者と協議し,八重山地方(石垣島地方)には,前日から波浪注意報が発表され,御神(おがん)埼西方沖合では,北北東風が強く吹いて波高が約2メートルと予報されていることを知っていた。
また,A受審人は,平素,漁業センター周辺の海域を航行しており,同センターから御神埼沖合を経由して名蔵湾に向かう海域の航行は,空船で5回,資機材を輸送したのは1回であった。
こうして,A受審人は,資機材をほぼ満載状態に積載し,船体中央部における乾舷が,約45センチメートルと小さくなり,航路途次で大波を受けて難航し,大きく動揺すると,舷側から海水が容易に打ち込むこととなって転覆を招くおそれがある状況であったものの,漁業センター沖合の海面状態を確認したところ,波がなく静かだったので,特に航行に支障はないものと思い,発航を取りやめることなく,前示桟橋を離れ,漁業調査海域に向かった。
10時01分A受審人は,石垣御神埼灯台から040度(真方位,以下同じ。)2.8海里の地点で,針路を224度に定め,右舷船尾方から追い波を受けながら,7.4ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
定針したのち,A受審人は,右舷船尾方からの追い波が次第に高くなって2メートルに達し,同時に左舷船首方からも大波を受けて難航し,舷側から海水が打ち込むようになったので,10時20分同灯台から018度870メートルの地点に達したとき,速力を4.5ノットに減じ,10時27分少し前同灯台から289度420メートルの地点に至って,屋良部埼先端に向けてゆっくりと左転して,針路を192度として続航した。
その後,A受審人は,セ号が大きく動揺し,海水が連続して打ち込むこととなり,資機材が右舷側に移動して船体が同舷側に大きく傾いて,転覆の危険を感じたので,10時28分同乗者全員に救命胴衣を着用させ,全員を左舷側に移動させて平衡を保ちながら,速力を4.0ノットに減速して進行中,10時30分石垣御神埼灯台から246度570メートルの地点において,セ号は,左舷船尾方から大波を受け,一瞬のうちに右舷側に大傾斜して復原力を喪失し,転覆した。
当時,天候は曇で風力4の北北東風が吹き,潮侯は上げ潮の初期であった。
転覆の結果,セ号は,資機材すべてが流出し,機関及び電気系統に濡れ損を生じたが,のち修理された。また,A受審人と同乗者は,救命胴衣を着用したまま海中に飛び込み,その後全員が付近を通りかかった他船に救助された。
(原因)
本件転覆は,沖縄県石垣島御神埼西方沖合において,波浪注意報が発表され,難航が予想される状況下,資機材と作業員4人を載せ,ほぼ満載状態として漁業調査海域に向かおうとする際,発航を取りやめず,海水の打ち込みを左舷側から受けて,資機材が右舷側に移動し,同舷側に大傾斜したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県石垣島御神埼西方沖合において,波浪注意報が発表され,難航が予想される状況下,資機材と作業員4人を載せ,ほぼ満載状態として漁業調査海域に向かおうとする場合,乾舷が小さくなり,大波を受けて難航し,大きく動揺すると,舷側から海水が容易に打ち込むこととなり,転覆を招くおそれがあったのであるから,発航を取りやめるべき注意義務があった。しかるに,同人は,漁業センター沖合は,波がなく静かだったので,特に航行に支障はないものと思い,発航を取りやめなかった職務上の過失により,御神埼西方沖合で海水の打ち込みを左舷側から受けて,資機材が右舷側に移動し,同舷側に大傾斜して転覆を招き,資機材すべてを流出させ,機関及び電気系統に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。