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平成17年門審第38号
件名

漁船第78龍宝丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第78龍宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関などに濡れ損

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件転覆は,針路の選定が不適切で,高波の発生しやすい水域を通航したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月17日16時45分
 長崎県対馬市櫛湾湾口

2 船舶の要目
船種船名 漁船第78龍宝丸
総トン数 8.5トン
全長 17.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 264キロワット

3 事実の経過
 第78龍宝丸(以下「龍宝丸」という。)は,平成2年12月に進水した,船体中央部やや後方に操舵室を設けたいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,同7年4月に一級及び特殊の各小型船舶操縦士の操縦免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年1月17日16時30分長崎県櫛漁港を発し,同県長崎鼻東方沖合の漁場に向かった。
 ところで,櫛漁港は,日本海に面した上対馬東岸の櫛湾奥に位置し,同湾湾口は,大漁湾と湾口をひとつにし,北側を銭島に,南側を長崎鼻により形成されていた。そして,銭島の海岸線から東方約500メートルにかけて水深5メートル以下の俎瀬(まないたせ)が,東方約1,000メートルに水深約8メートルの七尋瀬の浅所がそれぞれ存在し,東方約1,400メートルにかけて水深20メートル以下の海底が舌状に延びていた。
 このため,北東方からのうねりが湾口に打ち寄せる場合,俎瀬から七尋瀬付近にかけての浅水域では,水深の減少に伴う浅水変形の現象によって急激に波高を増した磯波と同湾口付近の崖状の海岸から反射した返し波とが時折同調し,一段と高起する地形的な高波(以下「高波」という。)が発生することがあり,特に七尋瀬付近でこの現象が顕著であり,このことは地元の漁業関係者にはよく知られていた。
 A受審人は,龍宝丸の船幅が小さく,このような高波に遭遇すると大傾斜して転覆するおそれがあることから,七尋瀬付近の浅水域を避け,より水深の深い同湾口南側の長崎鼻寄りの水域を航行するのを常としていた。
 折しも,日本付近の気圧配置は,同月15日に発達中の低気圧が本州の太平洋側沿岸沖合を北東に進んで強い冬型となっていたところ,17日には次第に緩み始め,厳原測候所から上対馬地方に対して発表されていた強風注意報は解除され,波浪警報は注意報に切り替えられたものの,対馬東方の日本海には北東方からのうねりを伴う波高約3メートルの波浪が残る状況であった。
 A受審人は,発航してまもなく自動操舵に切り替え,操舵室の右舷側に立ち,櫛湾を南東の針路で進行しながら,先に出漁した僚船と無線連絡を行ったところ,同湾口に打ち寄せる大きなうねりがあるとの情報を得た。
 16時41分半A受審人は,銭島南端から南方140メートルの,対馬長崎鼻灯台から313度(真方位,以下同じ。)1,740メートルの地点に至ったとき,左舷前方の七尋瀬付近の海面を見たところ,うねりが打ち寄せていたが,高波の発生を認めなかったことから,このうねりの状況では,同瀬付近の浅水域に接近しても高波に遭遇することはないだろうと思い,長崎鼻寄りの安全な水域に向かうなど,適切な針路の選定を行うことなく,針路を119度に定め,機関を半速力前進にかけ,11.0ノットの対地速力で進行した。
 16時43分A受審人は,対馬長崎鼻灯台から318度1,320メートルの地点に達し,針路を漁場に向けて095度に転じ,左舷前方から波高1メートルないし2メートルの波浪を受けながら続航した。
 16時45分わずか前A受審人は,同じ針路及び速力で進行中,龍宝丸は,左舷前方から突然高波を受け,船体が持ち上げられながら右舷側に大傾斜し,16時45分対馬長崎鼻灯台から348度920メートルの地点において,復原力を喪失して転覆した。
 当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 転覆の結果,機関などに濡れ損を生じたが,クレーン船及び漁船により櫛漁港に引き付けられ,のち修理された。A受審人は,転覆した操舵室から抜け出して船底に上がっていたところ,付近を通りかかった漁船に救助された。

(原因)
 本件転覆は,うねりが打ち寄せる状況下の長崎県対馬市櫛湾湾口において,漁場への往航中,針路の選定が不適切で,高波の発生しやすい水域を通航し,同波に遭遇して大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,うねりが打ち寄せる状況下の長崎県対馬市櫛湾湾口において,漁場へ向かう場合,同湾口の北側寄りは高波の発生しやすい水域であったから,同波に遭遇しないよう,同湾口南側の長崎鼻寄りの安全な水域に向かうなど,針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,七尋瀬付近の浅水域に高波を認めなかったことから,同浅水域に接近しても高波に遭遇することはないだろうと思い,針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,同浅水域に接近して通航中,高波に遭遇して大傾斜し,復原力を喪失して転覆を招き,機関などに濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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