(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月14日07時30分
長崎県高島北東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートビーコンIII |
総トン数 |
18トン |
全長 |
14.11メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,073キロワット |
3 事実の経過
ビーコンIIIは,昭和57年に製造された2機2軸を備える最大搭載人員10人のクルーザー型キャビン付FRP製モーターボートで,A受審人が船長としてほか2人と乗り組み,家族3人を乗せ,遊走の目的で,船首1.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年8月14日06時30分長崎県佐世保市ハウステンボスのマリーナを発し,関門港下関区に向かった。
A受審人(平成12年3月一級小型船舶操縦士免許取得)は,関東でビルの経営代行業を営んでおり,昭和50年ごろからモーターボートを所有して海洋レジャーを楽しむようになり,平成12年にビーコンIIIを購入して社員のレクリエーションや接客等に利用していたもので,子供の夏休みを利用して遊走を楽しむため,8月7日に係船地の神奈川県Bマリーナを出港し,家族と沖縄で合流することにしていたところ,台風が接近したため予定を変更し,11日にハウステンボスに入港して家族と落ち合い,長崎県九十九島周辺海域を遊走しながら関門港に向かうことにしたものであった。
A受審人は,ハウステンボス出航後,針尾瀬戸から佐世保港を航行して07時09分同港港界を通過し,九十九島湾の西方沖合を北上したのち,同時24分肥前大平瀬灯標から198度(真方位,以下同じ。)2,150メートルの地点に達したとき,そのまま北上を続けてトコイ島東岸沿いを遊走することとし,針路を高島北東岸とトコイ島間を南北に通る鰹瀬戸南口の中央に向く350度に定め,機関を回転数毎分1,800の航海速力前進にかけて20.0ノットの対地速力で,操縦席に腰掛けて手動操舵で進行した。
ところで,A受審人は,以前に一度,鰹瀬戸を通航したことがあり,そのときの経験から高島北東岸付近の海域に浅所が存在することは知っていたが,正確な拡延範囲を知らないまま,高島の沿岸を離して航行すれば大丈夫と思い,事前に大縮尺の海図W1234(臼浦港,相浦港及付近)を入手するなど,予定航行海域の水路調査を十分に行うことなく,小縮尺の海図を見て大略の航海計画を立てたので,鰹瀬戸南口の中央付近まで浅所が拡延していることに気付かなかった。
こうして,ビーコンIIIは,07時27分半高島港北防波堤灯台の東方550メートルばかり沖合を航過し,浅所の東端付近に向首したまま高島東岸沿いを同じ針路及び速力で続航中,同時30分わずか前A受審人が減速してトコイ島東岸沿いの予定進路に向けて転針しようとスロットルレバーを引いた直後,07時30分肥前大平瀬灯標から319度1,900メートルの地点に当たる高島北東岸の浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は高潮時であった。
乗揚の結果,ビーコンIIIは,船底に破口を生じ,サルベージの作業船によって引き下ろされたが,のち廃船とされた。
(原因)
本件乗揚は,佐世保市西方沖合の海域を遊走中,水路調査が不十分で,高島北東岸に拡延する浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,佐世保市西方沖合の海域を遊走する場合,高島北東岸に浅所が存在することは知っていたのであるから,同浅所に乗り揚げることのないよう,事前に大縮尺の海図を入手して同浅所の正確な拡延範囲を把握するなど,予定航行海域の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,高島の沿岸を離して航行すれば大丈夫と思い,予定航行海域の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,正確な拡延範囲を知らないまま同浅所に向首進行して乗り揚げる事態を招き,ビーコンIIIの船底に破口を生じさせて廃船するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。