(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月30日23時20分
広島県西能美島北西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三大共丸 |
総トン数 |
299トン |
全長 |
53.48メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第三大共丸は,大分県津久見港で積載した石灰石を主として広島港に運搬する船尾船橋型鋼製貨物船で,船舶所有会社の代表取締役でもあるA受審人が甲板員として,同人の長男にあたる船長ほか2人と乗り組み,石灰石1,000トンを積載し,船首3.2メートル船尾4.8メートルの喫水をもって,平成16年7月30日16時00分津久見港を発し,広島港に向かった。
A受審人は,21時30分山口県大畠瀬戸東口で船長と当直を交替して広島湾を北上し,22時27分甲島102メートル頂から278度(真方位,以下同じ。)1,000メートルの地点で針路を023度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は,22時54分阿多田島東方1,800メートルに達したころから,台風10号の影響による断続的な豪雨に見舞われるようになり,23時10分小黒神島東方500メートルの地点で,豪雨のため視界が狭められたうえレーダースコープ上で濃い雨雲の映像により周囲の島や海岸線の判別ができなくなり,このまま進行すると船位の確認が困難なことから,付近の島などに乗り揚げるおそれがあったが,豪雨は断続的に降っているのでそのうち止むと思い,停船して視界が回復するまで待つことなく続航した。
こうしてA受審人は,豪雨により船位の確認ができないまま進行し,23時13分安芸俎礁灯標から134度1,000メートルの,奈佐美瀬戸に向かう予定転針地点に達したが,まだそこまで到達していないものと思い,転針しないで同じ針路及び速力で続航するうち,23時20分少し前,船首方至近距離に陸の明かりを認めて急ぎ機関を後進にかけたが及ばず,23時20分安芸俎礁灯標から067度0.8海里の西能美島北西岸の砂浜に乗り揚げた。
当時,天候は豪雨で風力4の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視界は200メートルであった。
乗揚の結果,船首部船底を擦過したが,のち積荷の一部を海上投棄したうえ自力離礁した。
(原因)
本件乗揚は,夜間,広島県西能美島西方沖合を北上中,断続的な豪雨のため視界が制限された際,停船して視界の回復を待つことなく,同島北西岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,広島県西能美島西方沖合を北上中,断続的な豪雨のため視界が制限された場合,このまま進行すると船位の確認ができず周囲の島などに乗り揚げるおそれがあったから,停船して視界の回復を待つべき注意義務があった。しかるに,同人は,豪雨は断続的に降っているのでそのうち止むものと思い,停船して視界の回復を待たなかった職務上の過失により,船位の確認ができないまま進行して西能美島北西の砂浜に乗り揚げる事態を招き,船首部船底を擦過させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。