日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年横審第44号
件名

漁船第十大師丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年9月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(田邉行夫,岩渕三穂,小寺俊秋)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:第十大師丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船底外板全般にわたり凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月14日11時19分
 静岡県戸田港
 (北緯34度58.8分 東経138度46.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十大師丸
総トン数 327トン
全長 60.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,220キロワット
(2)設備及び性能等
 第十大師丸(以下「大師丸」という。)は,平成11年2月に進水した鋼製漁船で,まき網漁業の運搬船として使われていた。

3 駿河湾における操業形態等
 大師丸は,金曜日が休養日で,その他の日は正午ごろ出漁し,夕刻から夜中まで操業し,朝方に入港,午前中水揚げ,しばらく休養ののち出漁とするのが一般的な形態であるが,平成16年12月13日夕刻千葉県銚子港を出航後は操業することなく,静岡県焼津港小川地区に直航し,14日朝同地区に入港して僚船の水揚げを手伝った。

4 事実の経過
 大師丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,平成16年12月14日09時35分船首2.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,焼津港小川地区を発し,回航の目的で,静岡県戸田港に向かった。
 A受審人は,発航操船に引き続き単独で船橋当直に当たり,10時51分少し過ぎ戸田灯台から251度(真方位,以下同じ。)6.0海里の地点で,針路を同灯台のやや北側に向かう,070度に定め,14.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
 その後,A受審人は,前日に操業がなく,銚子港から小川地区への航海中,自室のベットでゆっくりと睡眠をとることができ,特に疲れてはいなかったが,椅子に座って船橋当直に当たっていたところ,眠気を催してきたものの,あと2海里ほどで入港の準備作業に入るので,まさか居眠りすることはないだろうと思い,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航したところ,いつしか居眠りに陥った。
 こうして,A受審人は,居眠りを続け,戸田灯台沖を通過したことに気付かないまま直進し,11時19分大師丸は戸田灯台から052度860メートルの地点の戸田港内の海岸に原針路,原速力のまま,乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果,大師丸は,船底外板全般にわたり凹損を生じたが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,単独で船橋当直中,椅子に座って同当直に当たっていたところ,眠気を催してきたがまさか居眠りすることはないだろうと思い,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
2 A受審人が,居眠りに陥り,海岸に向かって進行したこと

(原因の考察)
 A受審人が,単独で船橋当直中,眠気を感じるようになったとき,まさか居眠りすることはないだろうと思い,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとらないで居眠りに陥り,海岸に向かって進行したことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,駿河湾を東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,船橋当直者が,居眠りに陥り,海岸に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,駿河湾において,単独で船橋当直に当たって東行中,眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはないだろうと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,海岸に向けて進行して乗揚を招き,大師丸の船底外板全般にわたり凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION