(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月14日11時19分
静岡県戸田港
(北緯34度58.8分 東経138度46.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第十大師丸 |
総トン数 |
327トン |
全長 |
60.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,220キロワット |
(2)設備及び性能等
第十大師丸(以下「大師丸」という。)は,平成11年2月に進水した鋼製漁船で,まき網漁業の運搬船として使われていた。
3 駿河湾における操業形態等
大師丸は,金曜日が休養日で,その他の日は正午ごろ出漁し,夕刻から夜中まで操業し,朝方に入港,午前中水揚げ,しばらく休養ののち出漁とするのが一般的な形態であるが,平成16年12月13日夕刻千葉県銚子港を出航後は操業することなく,静岡県焼津港小川地区に直航し,14日朝同地区に入港して僚船の水揚げを手伝った。
4 事実の経過
大師丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,平成16年12月14日09時35分船首2.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,焼津港小川地区を発し,回航の目的で,静岡県戸田港に向かった。
A受審人は,発航操船に引き続き単独で船橋当直に当たり,10時51分少し過ぎ戸田灯台から251度(真方位,以下同じ。)6.0海里の地点で,針路を同灯台のやや北側に向かう,070度に定め,14.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
その後,A受審人は,前日に操業がなく,銚子港から小川地区への航海中,自室のベットでゆっくりと睡眠をとることができ,特に疲れてはいなかったが,椅子に座って船橋当直に当たっていたところ,眠気を催してきたものの,あと2海里ほどで入港の準備作業に入るので,まさか居眠りすることはないだろうと思い,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航したところ,いつしか居眠りに陥った。
こうして,A受審人は,居眠りを続け,戸田灯台沖を通過したことに気付かないまま直進し,11時19分大師丸は戸田灯台から052度860メートルの地点の戸田港内の海岸に原針路,原速力のまま,乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,大師丸は,船底外板全般にわたり凹損を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,単独で船橋当直中,椅子に座って同当直に当たっていたところ,眠気を催してきたがまさか居眠りすることはないだろうと思い,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
2 A受審人が,居眠りに陥り,海岸に向かって進行したこと
(原因の考察)
A受審人が,単独で船橋当直中,眠気を感じるようになったとき,まさか居眠りすることはないだろうと思い,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとらないで居眠りに陥り,海岸に向かって進行したことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件乗揚は,駿河湾を東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,船橋当直者が,居眠りに陥り,海岸に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,駿河湾において,単独で船橋当直に当たって東行中,眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,いつものように椅子から立ち上がってコーヒーを飲むなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはないだろうと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,海岸に向けて進行して乗揚を招き,大師丸の船底外板全般にわたり凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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