(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月23日19時00分
沖縄県那覇港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船光陽丸 |
総トン数 |
2.4トン |
全長 |
10.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
121キロワット |
3 事実の経過
光陽丸は,昭和61年9月に進水し,船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で,昭和62年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が,1人で乗り組み,知人1人を同乗させ,潜水器漁の目的で,船首0.5メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成16年11月23日17時00分那覇港内の那覇市沿岸漁業協同組合係留地を発し,同港儀間ノ瀬に向かった。
光陽丸は,船首部に補助操舵スタンドが,前部甲板に船首方から順に4箇所の魚倉兼用の物入れ,その後方に機関室囲壁及び操舵室がそれぞれ配置され,同スタンドの船首側甲板上には重さ10キログラムのステンレス製五爪錨を備えていた。
ところで,A受審人は,約20年前の潜水器漁中に生じた減圧症の後遺症により,下半身が一部不自由となったことから,月あたり約5回主としてたかさご漁に出たり,ときどき光陽丸を遊漁船として運航するほか,同2回程度リハビリを兼ね,1人でいせえびなどの潜水器漁を行うこととしており,平素,那覇港内外のさんご礁外縁に単錨泊し,水深約2メートルの,同船を中心として50メートルの範囲で同漁を行っていた。
17時30分A受審人は,那覇国際空港飛行場灯台(以下「飛行場灯台」という。)から343度(真方位,以下同じ。)1,480メートルで,底質が砂混じりのさんご礁で水深が2メートルのさんご礁外縁に至り,同乗者に前示錨を船首から投入させ,合成繊維製錨索を10メートル延出させて機関を中立として停泊灯を表示し,船首を南東に向けて錨泊を開始した。
A受審人は,食事を摂り,ウエットスーツ及び空気ボンベなどの潜水用具を装着して潜水の準備をしたのち,18時10分機関を中立としたまま,潜水することとしたが,付近に強い潮流を感じず,風もそれほど強くなかったので,潜水器漁中に走錨することはあるまいと思い,錨がさんご礁に十分に掛かっていることを確かめるなど,錨泊状況の確認を十分に行うことなく,同乗者を船上に残し,40分間の操業予定で,海中に入り同漁を始めた。
A受審人は,同乗者が,前部甲板で横になって帰りを待つうち,光陽丸の東方50メートルのさんご礁に至って,1人で潜水器漁をしていたところ,折からの南西へ流れる潮流の影響を受け,同船が,やがて走錨を始めたが,このことに気付かないまま,18時50分1回目の操業を終えて浮上し,周りを見回したところ,付近に光陽丸が見当たらないことを認めた。
こうして,光陽丸は,同乗者が,前部甲板で横になっていたので,走錨したことに気付かないでいたところ,19時00分飛行場灯台から266度1,760メートルの地点のさんご礁に船首を北東に向けて乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力3の東風が吹き,潮侯は下げ潮の初期で,視界は良好であった。また,付近には約1ノットの南西へ流れる潮流があり,日没は,17時38分であった。
A受審人は,光陽丸が走錨して流されたものと判断し,那覇国際空港西方の岸まで泳いだのち,海上保安庁に通報し,同船は23時ごろ同庁の船艇によって発見され,同乗者はヘリコプターで救助された。
乗揚の結果,光陽丸は,右舷船底に亀裂及び擦過傷を,プロペラ軸に曲損を,プロペラ及び舵板に損傷をそれぞれ生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,夜間,沖縄県那覇港儀間ノ瀬において,さんご礁外縁に錨泊して潜水器漁を行うため船を離れる際,錨泊状況の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,沖縄県那覇港儀間ノ瀬において,折からの南西へ流れる潮流がある状況下,さんご礁外縁に錨泊して潜水器漁を行うため,船を離れる場合,同乗者に投錨作業を行わせたのであるから,錨がさんご礁に十分に掛かっていることを確かめるなど,錨泊状況の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,付近に強い潮流を感じず,風もそれほど強くなかったので,潜水器漁中に走錨することはあるまいと思い,錨泊状況の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,潜水器漁をするうち,やがて走錨を始めたことに気付かないまま,さんご礁への乗揚を招き,光陽丸の右舷船底に亀裂及び擦過傷を,プロペラ軸に曲損を,プロペラ及び舵板に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。