(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月15日08時40分
山口県特牛港沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船鶯丸 |
総トン数 |
16.98トン |
登録長 |
14.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
360キロワット |
3 事実の経過
鶯丸は,いか一本つり漁に従事するFRP製漁船で,昭和53年1月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.55メートル船尾1.80メートルの喫水をもって,平成16年12月14日12時00分山口県特牛港を発し,17時20分ごろ福岡県沖ノ島北北東沖合の漁場に至って操業を開始した。そして,翌15日05時ごろいか約500キログラムを獲って操業を終え,同時15分ごろ沖ノ島灯台の北北東方22海里ばかりの地点を発進し,同港に向けて帰途に就いた。
ところで,A受審人は,特牛港を基地とすることが多く,同港入口付近には,平瀬や地ノ瀬の険礁があり,地ノ瀬が同港入口を塞ぐかたちで存在することを知っていた。しかし,入出港時には地ノ瀬東部に設置された標柱(以下「地ノ瀬標柱」という。)を十分に離して北側を通航すれば大丈夫と思い,海図に当たるなり,漁協で特牛港平面図を閲覧するなりして,地ノ瀬の浅礁域の拡延状況や同標柱の浅礁域上の位置を調べるなど,水路状況の調査を十分に行っていなかった。
発進後,A受審人は,単独で船橋当直に就き,針路を東南東にとり,機関を全速力前進に掛けて10.5ノットの対地速力で進行し,角島南方1.0海里ばかりの地点で,針路を特牛灯台に向く100度(真方位,以下同じ。)に転じていすから立ち上がって見張りに当たり,自動操舵で続航した。
A受審人は,08時27分特牛灯台から280度2.3海里の地点で,針路を102度に定め,引き続き10.5ノットの対地速力で進行し,同時39分少し過ぎ同灯台から282度340メートルの地点に達し,地ノ瀬標柱に向けて針路を116度に転じたところ,地ノ瀬北部の浅礁に向首する状況であったが,水路調査を十分に行っていなかったので,この状況に気付かず,左転するなどして同浅礁を避ける措置をとらなかった。
鶯丸は,同じ針路及び速力で続航中,08時40分特牛灯台から255度130メートルの地点において,地ノ瀬北部の浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果,船首部船底に破口を生じたが,自力離礁し,のち,修理された。
(原因)
本件乗揚は,漁場から特牛港に帰港中,水路調査が不十分で,同港入口付近にある地ノ瀬北部の浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,特牛港を操業の基地とする場合,同港入口付近には平瀬や地ノ瀬の険礁があり,地ノ瀬が同港入口を塞ぐかたちで存在することを知っていたのであるから,同瀬の浅礁域に著しく接近することのないよう,海図や特牛港平面図に当たるなどして同浅礁域の拡延状況や地ノ瀬標柱の浅礁域上の位置を調べるなど,水路状況の調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,地ノ瀬標柱を十分に離して北側を通航すれば大丈夫と思い,同港入口付近の水路状況の調査を十分に行わなかった職務上の過失により,地ノ瀬北部に拡延する浅礁の存在に気付かず,同浅礁に向首進行して乗揚を招き,船首部船底に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。