(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月30日05時20分
広島県倉橋島南方エビガヒレ
(北緯34度03.5分 東経132度27.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船ほうや丸 |
総トン数 |
3,623トン |
全長 |
114.813メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,912キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 運航状況等
ほうや丸は,平成2年11月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする可変ピッチプロペラを装備した船首船橋型の自動車専用船で,主に,名古屋港または衣浦港で新車及び中古車を積載し,大分港,三田尻港,広島港,松山港,水島港及び尼崎西宮芦屋港の各港でそれぞれ積揚荷を行い,1ラウンドに6日間を要していた。
イ 船体構造
(拡大画面:33KB) |
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1号レーダーはGPSと連動し,予めGPSに入力された予定変針点がレーダー画面上に表示され,GPSには同変針点に5海里以内に接近したときには警報を鳴らす到着警報機能があり,また,各予定変針点間を結ぶ針路線から,設定した範囲以上に離れたとき警報を鳴らすコースずれ警報機能があったが,本件当時コースずれ警報機能は停止されていた。
エ 速力(海上試運転成績書)
主機負荷 |
主機回転数毎分 |
翼角(度) |
対水速力(ノット) |
2/4 |
188 |
19.0 |
15.57 |
3/4 |
193 |
23.5 |
18.33 |
85/100 |
188 |
24.5 |
18.53 |
4/4 |
199 |
24.5 |
19.52 |
オ 最短停止時間及び同距離(海上試運転成績書)
後進発令前前進速力(対水) |
19.3ノット |
後進発令前主機回転数及び翼角 |
200,24.6度 |
後進発令から翼角0までの所要時間 |
43秒 |
翼角0から同−20度までの所要時間 |
59秒 |
後進発令から船体停止までの所要時間 |
2分27.18秒 |
後進発令から船体停止までの航走距離 |
774メートル |
カ 旋回性能(海上試運転成績書)
旋回方向 |
左 転 |
右 転 |
初期速力(対水) |
18.6ノット |
18.6ノット |
初期主機回転数(毎分) |
200 |
200 |
針 路 |
270 |
270 |
舵 角 |
35.0度 |
35.0度 |
回頭所要時間 |
90度 |
0分50秒 |
0分48秒 |
180度 |
1分37秒 |
1分39秒 |
270度 |
2分32秒 |
2分39秒 |
360度 |
3分36秒 |
3分46秒 |
縦 距(メートル) |
339 |
297 |
横 距(メートル) |
207 |
169 |
3 西五番之砠灯標付近の状況
西五番之砠灯標は,広島湾々奥から柱島水道を経て南方に向かう推薦航路線の東側に設置され,その東側に岩礁,浅瀬等の障害物があることを示す西方位標識で,同灯標東方600メートルばかりのところに干出岩を含む大五番之砠,さらにその南東方900メートルばかりのところに,最低水面からの高さ2.4メートルの干出岩を含むエビガヒレが存在していた。
4 事実の経過
ほうや丸は,A及びB両受審人ほか10人が乗り組み,自動車136台を載せ,船首3.8メートル船尾5.4メートルの喫水をもって,平成16年9月29日09時35分広島港を発し,折から接近中の台風21号を避けるため,10時50分西五番之砠灯標から291度(真方位,以下同じ。)5.6海里の地点に錨泊し,天候が回復した翌30日04時50分同地点を発進して,松山港に向かった。
A受審人は,船橋当直体制を,00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士に,04時から08時まで及び16時から20時までをB受審人に,08時から12時まで及び20時から24時までを三等航海士にそれぞれ受け持たせ,各直に甲板手1人を配する2人1組の4時間3直制とし,入出港時,視界制限時,狭水道通航時及び船舶輻輳時等,必要に応じて自ら昇橋して操船指揮を執り,また,毎日ナイトオーダーブックを記載し,当直中の注意事項等を各当直者に具体的に指示していた。
抜錨操船を終えたA受審人は,05時03分西五番之砠灯標から293度3.3海里の地点で,船首配置を終えて昇橋してきたB受審人に船橋当直を委ねることとし,その際,針路が110度であること,保高島を右舷正横に見る地点に達したら船位を確認して130度に変針すること,クダコ水道北口の手前5海里の地点で船長に知らせること及び右舷前方に船尾灯を見せる同航船がいることなどの引継ぎ事項を申し渡して降橋した。
B受審人は,平素,当直交代前に海図で船位及び予定針路等を,レーダー画面で周囲の状況等を確認したのち交代引き継ぎを行っていたが,このときこれらの確認を行わず,また,A受審人の予定変針地点に関する引継ぎ事項なども十分に確認しなかった。
船橋当直を交代したB受審人は,針路を引き継いだ110度に定め,主機回転数毎分180翼角24.0度として,15.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,甲板手を見張りに就け,自動操舵で進行し,このとき,右舷船首3度3.3海里のところに,西五番之砠灯標の灯光を認めたが,使用中の海図W142を見て灯質を確認しなかったので,これを広島湾第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)の灯光と誤認して続航した。
05時07分半B受審人は,西五番之砠灯標から294度2.3海里の,保高島を右舷正横に見る予定変針地点に達したが,同灯標を第1号灯浮標と誤認していたので,同灯浮標に至る予定針路線に沿って航行しているものと思い,船位を確認しなかったので,このことに気付かず,針路を130度にすることなく,同じ針路で進行した。
05時16分半B受審人は,西五番之砠灯標から019度400メートルの地点に差し掛かったとき,同灯標を第1号灯浮標と誤認していたので,クダコ水道の北口に向けるつもりで甲板手に命じて手動操舵で針路を095度に転じたが,右舷正横方の同灯標を視認して浮標ではなく灯標であることに気付いてパニックに陥り,05時17分同灯標から045度500メートルの地点で,針路を135度に転じて続航した。
05時18分B受審人は,双眼鏡で右舷船首方に第1号灯浮標の灯火を視認し,05時18分半西五番之砠灯標から104度950メートルの地点で,針路を同灯標に向く148度に転じたところ,エビガヒレの浅所に向首進行する状況となったが,依然船位の確認を十分に行っていなかったのでこのことに気付かないまま続航し,05時20分西五番之砠灯標から123度1,480メートルの地点において,ほうや丸は原針路,原速力のまま,同浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は,自室で休息中衝撃を感じ,昇橋して乗揚を知り,事後の処置にあたった。
乗揚の結果,船首部船底外板,バルバスバウなどに破口を伴う損傷を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 コースずれ警報機能が停止されていたこと
2 B受審人が,当直交代前に船位及び予定変針地点等の確認を行わなかったこと
3 B受審人が,A受審人からの引継ぎ事項を十分に確認していなかったこと
4 B受審人が,西五番之砠灯標灯を第1号灯浮標と誤認したこと
5 B受審人が,船位を確認しなかったこと
6 B受審人が,針路を転じなかったこと
7 B受審人が,パニックに陥ったこと
8 B受審人が,針路を転じてエビガヒレの浅所に向いたこと
(原因の考察)
本件は,当直交代後船位の確認を行っていれば,予定変針地点で針路を転じることができ,発生を回避できたものと認められる。
したがって,B受審人が,西五番之砠灯標を第1号灯浮標と誤認し,船位の確認を十分に行わず,予定変針地点で針路を転じないまま進行し,同灯標の誤認に気付いたのち,パニックに陥って針路を転じ,エビガヒレの浅所に向いたことは,本件発生の原因となる。
コースずれ警報機能が停止されていたこと,B受審人が当直交代前に船位,予定変針地点等の確認を行わなかったこと,及び当直交代時A受審人からの引継ぎ事項を十分に確認しなかったことは,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,広島県倉橋島西方において,船位の確認が不十分で,予定の変針が行われず,エビガヒレの浅所に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は,夜間,広島県倉橋島西方において,柱島水道に向けて東行する場合,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,右舷船首方に視認した西五番之砠灯標の灯光を第1号灯浮標の灯光と誤認し,同灯浮標に至る予定針路線に沿って航行しているものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,予定変針地点で針路を転じないまま進行し,同灯標至近で誤認に気付き,パニックに陥って針路を転じ,エビガヒレの浅所に向けて進行し,同浅所への乗揚を招き,船首船底外板,バルバスバウなどに破口を伴う損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
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