(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月25日16時30分
和歌山県荒埼海岸
(北緯34度08.0分東経135度07.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート第三久丸 |
登録長 |
9.12メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
180キロワット |
3 事実の経過
第三久丸(以下「久丸」という。)は,平成14年7月に新規登録された,右回り1軸のFRP製モーターボートで,同月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み,大人2人子供4人を乗せ,和歌山県海南市下津町の荒埼海岸で海水浴をする目的で,船首0.25メートル船尾0.50メートルの喫水をもって,同16年7月25日12時00分和歌山下津港和歌山区の定係地を発し,同海岸沖へ向かった。
12時30分A受審人は,目的地に至り,波打ち際から西方へ約15メートル離れた水深2メートルばかりの地点で,重さ10キログラムの唐人錨を投下し,化学繊維製の錨索を約10メートル延出したのち,機関を停止して錨泊を開始した。
投錨後,A受審人は,付近で遊走していた水上オートバイの人達に頼み,同乗者を海岸まで運んでもらって海水浴をさせたが,自らは体調が万全でなかったことから,その後も船内に留まったのち,4時間近く経過して帰航予定時刻となったとき,上陸中の同乗者を収容しようとしたところ,既に水上オートバイの人達がいなくなっていたことから,やむなく,自らが収容することとして錨を揚げ,16時25分波打ち際至近に船首部を寄せて,海岸線に船首尾線と約45度の角度で左舷側を対峙させ,機関を中立運転として上陸者の収容作業に取り掛かった。
ところで,荒埼海岸は,ゴルフボール大の玉砂利で成り立っている海岸であり,水深が急に深くなっているものの,波打ち際至近に接近すると底触するおそれがあると容易に推認できる状況であったことから,A受審人は,プロペラやラダーが玉砂利に接触しないよう,機関を小刻みに使用するなどして慎重に操船を行い,船尾部を波打ち際から十分に離した安全な船体姿勢を維持する必要があった。
そして,A受審人は,上陸者の収容作業に当たっていたところ,付近を通過した釣り船の航走波などの影響を受け,徐々に,船体が岸辺と左舷側を対して平行するようになり,やがて,船尾部が波打ち際至近に接近してプロペラやラダーが底触するおそれがある状況となったが,収容作業に気を取られていたので,このことに気付かず,安全な船体姿勢を維持することなく作業を続けた。
こうして,A受審人は,16時30分少し前上陸者の収容を終え,再び沖に出ようとして,船尾部が波打ち際至近に接近した状態のまま,機関を後進に掛けたところ,左回転したプロペラの放出流の影響を受けて船尾が更に左方へ振れ,16時30分ツブネ鼻灯台から真方位039度500メートルの地点において,プロペラが海岸の玉砂利に接触し,船首を南方に向けた態勢で,船尾部が海岸に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,プロペラに曲損を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,和歌山県荒埼海岸において,海岸に上陸した同乗者を収容する際,船体姿勢の維持が不十分であったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,和歌山県荒埼海岸において,海岸に上陸した同乗者を収容する場合,波打ち際至近に接近すると底触するおそれがある状況であったから,プロペラやラダーが底触しないよう,機関を小刻みに使用するなどして慎重に操船を行い,船尾を波打ち際から十分に離した安全な船体姿勢を維持すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,上陸者の収容作業に気を取られ,安全な船体姿勢を維持しなかった職務上の過失により,収容作業を終え,再び沖に出ようとして機関を後進にかけたところ,プロペラが海岸の玉砂利に接触して乗揚を招き,これを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。