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平成17年仙審第23号
件名

漁船和喜丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年8月12日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹,原 清澄,半間俊士)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:和喜丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
右舷中央部船底に破口,バルバスバウに亀裂,全損処理

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月28日22時00分
 宮城県気仙沼西湾
 (北緯38度50.26分東経141度36.12分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船和喜丸
総トン数 4.9トン
登録長 10.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90
(2)設備及び性能等
 和喜丸は,昭和53年9月に進水し,いか一本釣り,刺し網漁業,雑漁業などに従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室を有し,同室にはレーダー,操縦レバー,GPSプロッター,マグネットコンパス等が設けられ,同コンパスは,このほかに同室右舷側の甲板上と船首部の2箇所に設置され,また,操舵室頂部の右舷側に探照灯が取り付けられており,手動操舵方法はリモコンコードによるダイヤル式のものであった。

3 事実の経過
 和喜丸は,A受審人のほか知人1人が同乗し,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年7月28日10時00分宮城県波路上漁港を発して漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,波路上漁港の東方700メートルばかりの海域に,多数の干出岩や暗岩が点在する姥ケ磯と称する岩場が拡延していたことから,同漁港と漁場間の往復に際しては,姥ケ磯東方の気仙沼西湾第3号灯浮標(以下,灯浮標名は「気仙沼西湾第」を省略する。)の東側を替わすようにしており,また,入航にあたっては,視界の良好なときには1号灯浮標付近から3号灯浮標が視認可能であったことから同灯浮標を目標にして航行し,視界の悪いときにはGPSプロッターの過去の航跡映像を見たり,探照灯を点灯したりするなどして手動操舵で養殖施設沿いに航行していた。
 A受審人は,発航後視程が200ないし300メートルと視界が良好でないなか操業に当たり,まんぼう1匹を漁獲してこれを船上で解体したのち,更にまんぼうの探索に当たったが,視界が次第に悪化するようになり,20時30分ごろ帰途につくこととして御崎岬沖合2海里ばかりの地点を発進した。
 A受審人は,視界が次第に悪化して視程が約20メートルとなる状況下,航行中の動力船の灯火を表示し,操舵室で見張りに当たるとともに,知人を船首で見張りに当たらせ,GPSプロッターの過去の航跡映像を頼りに航行し,21時44分半岩井埼灯台から128度(真方位,以下同じ。)2,620メートルの,1号灯浮標の東方300メートルの地点に達したので,針路を左舷前方の養殖施設北端少し東方に向く317度に定め,機関を7.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)にかけ手動操舵で進行した。
 21時53分A受審人は,岩井埼灯台から103度690メートルの地点に達して養殖施設北端の灯火を視認したとき,針路を000度に転じて北上したが,この先,養殖施設や姥ケ磯近くを航行することから,これらを発見して避航できるよう操舵室右舷側甲板上に出て,探照灯を手で左右に振って船首方を照らし,養殖施設などの物標や障害物を探しながら進行した。
 21時56分わずか過ぎA受審人は,何ら物標等を認め得ない状況下,岩井埼灯台から049度880メートルの地点で,転針予定地点に達したものと判断して,波路上漁港に入航のため3号灯浮標に向けて転針することとしたが,探照灯で船首方の状況を確認するのに気を奪われて,GPSプロッターの航跡映像とマグネットコンパスを照合したりして船位の確認を十分に行わず,勘を頼りに針路をいつもの通りの301度に転じ,この針路を操舵室右舷側甲板上のマグネットコンパスで確認して続航した。
 こうして,A受審人は,波路上漁港東方の姥ケ磯北端に位置する暗岩に向首する状況となったが,引き続き探照灯を照らすのみで船位の確認を行わなかったので,この状況に気付かないまま,同一針路及び速力で進行中,22時00分岩井埼灯台から354度1,050メートルの姥ケ磯北端付近の暗岩に乗り揚げた。
 当時,天候は霧で風はほとんど無く,視程は約20メートルで,潮候は高潮時であった。
 乗揚の結果,和喜丸は右舷中央部船底に破口,バルバスバウに亀裂などの損傷を生じて機関室が浸水し,自力で離礁したのち僚船によって波路上漁港へ曳航されたが,損傷が大きく全損処理された。

(本件発生に至る事由)
1 霧のため視程が約20メートルであったこと
2 養殖施設沿いに航行したこと
3 探照灯で船首方の状況を確認するのに気を奪われていたこと
4 GPSプロッターの航跡映像とマグネットコンパスを照合したりして船位の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,船位を十分に確認していたなら発生を回避できたと認められる。
 したがって,探照灯で船首方の状況を確認することに気を奪われ,GPSプロッターの航跡映像とコンパスを照合したりするなどの船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 霧のため視程が約20メートルであったこと及び養殖施設沿いに航行したことは,本件発生に関与したものの,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間霧で視界が制限された状況下,宮城県気仙沼西湾口海域を波路上漁港に向けて帰航中,目標とした灯浮標に向けて転針する際,船位の確認が不十分で,同港東方の姥ケ磯北端の暗岩に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間霧で視界が制限された状況下,宮城県気仙沼西湾口海域を波路上漁港に向けて帰航中,目標とした灯浮標に向けて転針する場合,同灯浮標西方に干出岩や暗岩からなる姥ケ磯が存在していたから,同磯を無難に航過できるようよう,GPSプロッターの航跡映像とマグネットコンパスを照合したりして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,探照灯で船首方の状況を確認することに気を奪われて,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,姥ケ磯北端の暗岩に向首したまま進行して乗揚を招き,右舷中央船底に破口,バルバスバウに亀裂などの損傷を生じて機関室が浸水し,自力で離礁したのち僚船によって波路上漁港へ曳航されたが,損傷が大きく全損処理されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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