(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月18日13時38分
伊万里湾青島水道
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船崎吉丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
23.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
769キロワット |
3 事実の経過
崎吉丸は,長崎県対馬周辺から北海道周辺までの広い海域でいか一本釣り漁業に従事する,レーダー及びGPSプロッターをそれぞれ2台備えた2機2軸のFRP製漁船で,A受審人(昭和60年7月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年4月18日13時15分伊万里湾内の長崎県調川(つきのかわ)港を発し,同県壱岐島北東方沖合の漁場に向かった。
ところで,伊万里湾北西側の湾口の一つである青島水道は,西側の青島及び伊豆島と東側の鷹島との間を南北に通る水道で,水道北部の鷹島寄りに存在する魚固島(おごのしま)によって東西両水路に分かれ,西側水路は可航幅が500メートルばかりで,暗礁等の存在箇所を示す2個の灯浮標が設置されており,東側の水路(以下「青島東側水路」という。)は,最狭部の鷹島女瀬ノ埼と魚固島戎埼間が約400メートルで,同水路の南側ほぼ中央に航路標識のない多数の暗岩からなる北曽根が存在していた。
A受審人は,水揚げや仕込みで調川港に何度も入港経験があり,青島水道の両水路とも幾度となく通航して北曽根の存在も承知しており,日中に青島東側水路を北上する際は,魚固島を船首目標に鷹島女瀬ノ埼との距離を目測しながら北曽根を右舷側にかわすようにし,同曽根近くを航過するころ,右舷前方の水面下に浅礁を認めるようであれば,その範囲を避ける方法で,これまで同曽根の西側を無難に航過していた。
調川港外に出たA受審人は,甲板員2人を休息させて単独の船橋当直に就き,13時22分調川港北防波堤灯台から317度(真方位,以下同じ。)600メートルの地点において,青島東側水路を通航することとし,針路を魚固島に向く351度に定め,機関の回転数を毎分1,600にかけ,12.0ノットの速力で自動操舵によって進行した。
13時37分A受審人は,魚固島灯台から167度1,370メートルの地点に至り,北曽根の浅礁まで370メートルに接近したが,何度も通航している水路なので確かめるまでもないと思い,使用中のレーダー及びGPSを活用するなど,船位の確認を十分に行わなかったので,針路がいつもよりわずかに右に寄り,北曽根の浅礁に向首する態勢となっていることに気付かなかった。
こうして,崎吉丸は,北曽根に接近して水面下の浅礁が視認できるようになったが,依然としてA受審人がこのことに注意を払わず,船位の確認が行われないまま同じ針路,速力で続航中,13時38分魚固島灯台から166度1,000メートルの北曽根の浅礁に乗り揚げ,擦過した。
当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,崎吉丸はキールに損傷,両舷のプロペラ及びプロペラ軸に曲損を生じ,来援した僚船によって佐世保市の造船所に曳航され,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,伊万里湾において,青島東側水路を北上するにあたり,船位の確認が不十分で,同水路南側に存在する北曽根の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,伊万里湾において,青島東側水路を北上する場合,同水路南側に北曽根の浅礁が存在することを知っていたから,同浅礁に著しく接近することのないよう,使用中のレーダー及びGPSを活用するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,何度も通航している水路なので確かめるまでもないと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同浅礁に向首接近していることに気付かないまま進行して乗り揚げる事態を招き,崎吉丸のキール,両舷のプロペラ及びプロペラ軸等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。