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平成16年長審第69号
件名

遊漁船海盛丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三,山本哲也,稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:海盛丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
船首船底に亀裂を伴う擦過傷,遊漁客4人が打撲傷及び頚椎捻挫などの負傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月15日23時00分
 熊本県羽干島北東岸
 (北緯32度36.6分 東経130度23.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船海盛丸
総トン数 2.2トン
登録長 8.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 128キロワット
(2)設備及び性能等
 海盛丸は,平成4年2月に進水した限定沿海区域を航行区域とするFRP製遊漁船で,船体ほぼ中央から後方の甲板上に船室と操舵室を設け,船室の前部から船首楼までが前部甲板,操舵室の後方が船尾甲板で,同甲板上部にオーニングを取り付け,船尾端にマストを設けてスパンカを展帆するようになっていた。
 操舵室は,前部及び左右両舷がガラス窓となっており,窓枠によって左右に2分割された前部窓の手前の棚には,右舷側に舵輪と機関操縦装置が,左舷側にGPSプロッターと魚群探知機がそれぞれ設けられ,前部ガラス窓の右舷側には旋回窓が取り付けられていた。
 速力は,機関回転数毎分500(以下,回転数については毎分のものを示す。)が微速力の約3ノット,同回転数1,200及び1,750がそれぞれ半速力の約7.5ノット及び全速力の約11.5ノットであった。

3 事実の経過
 海盛丸は,A受審人が1人で乗り組み,大人5人と子供1人を乗せ,かにすくいの遊漁を行う目的で,船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年7月15日20時10分熊本県鳩之釜漁港を発して沖合に向かった。そして,20時50分三角ノ瀬戸北口北西方沖合約2海里の海域に到着して照明灯で海面を照らし,かにすくいを始めた。
 やがて,A受審人は,かに約10匹を獲て帰航することにし,平素のように,熊本県大矢野島とその西方対岸の野釜島との間に架かる野釜大橋の下を航行するつもりで,22時45分針路を照明灯で照らされた野釜大橋に向首するよう202度(真方位,以下同じ。)に定め,機関を全速力前進にかけて三角灯台から325.5度1.9海里の地点を発進し,11.6ノットの速力で,係船地に向けて帰途に就いた。
 発航後,A受審人は,遊漁客を前部及び船尾甲板で休息させ,自らは操舵室で操舵操船に当たって島原湾を大矢野島西岸沖合に向けて南下したのち,22時56分三角灯台から257度1.9海里の地点に達したとき,針路を226度に転じ,大矢野島北西岸沖合に存在する無人の羽干島を右舷側に約150メートル離す態勢で,折から,照明灯を点灯してかにすくい中の小型船が左舷前方から右舷方の羽干島北岸沖合にまで散在する海域を進行した。
 転針して間もなく,A受審人は,前路でかにすくい中の小型船群を左舷側に替わすよう針路を右に転じ,これを替わし終えたのち原針路に戻すよう左転し,その後,小型船群に近付くたびに針路を右に転じて替わしたのち,都度,左転しながら続航した。
 やがて,A受審人は,転針を繰り返すうちに235度の進路で羽干島に向けて進行する状況となったが,右転したのち,都度,左転して原針路に戻すようにしているので,ほぼ予定の針路線上を航行しているものと思い,野釜大橋の照明灯の方位と,作動中のGPSプロッターの表示を照合するなど,船位の確認を十分に行うことなく,羽干島に向けて進行していることに気付かず,前部甲板の遊漁客が立ち上がって空を見上げ,流れ星を見付けて楽しんでいる様子を見ながら続航した。
 こうして,A受審人は,その後も右転と左転を繰り返して小型船を替わしながら進行し,23時00分わずか前,羽干島の島影を船首方約60メートルのところに視認できる状況となったが,甲板上の遊漁客の様子を見たままこのことに気付かないで続航中,突然衝撃を感じ,海盛丸は,23時00分三角灯台から250度2.7海里の地点に当たる羽干島北東岸に,原速力のまま,船首が231度を向いて乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,海盛丸は,船首船底に亀裂を伴う擦過傷を生じたが,自力で離礁して鳩之釜漁港に帰港し,遊漁客4人が打撲傷及び頚椎捻挫などを負った。

(本件発生に至る事由)
1 本件発生地点付近の海域にかにすくい中の小型船が多数存在したこと
2 小型船群を替わすため右転を繰り返しながら航行していたこと
3 予定針路線上を航行していると思って,船位の確認を十分に行わなかったこと
4 前部甲板の遊漁客の様子を見たまま羽干島の島影に気付かなかったこと
5 当時,夜間で,無人島である羽干島を遠方から視認できない状況であったこと

(原因の考察)
 海盛丸の船長は,羽干島が存在することも,同島が無人島で,夜間遠方から視認できない状況であることもよく知っていたと認められることから,海盛丸が,進路目標としていた野釜大橋の照明灯の方位と,作動中のGPSプロッターの表示を参照するなど,船位の確認を十分に行っていれば,乗揚を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が予定針路線上を航行していると思って,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,前部甲板の遊漁客の様子を見たまま羽干島の島影に気付かなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件結果と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 付近の海域にかにすくい中の小型船が多数存在したこと,小型船群を替わすためA受審人が右転を繰り返しながら航行していたこと,当時,夜間で,無人島である羽干島を遠方から視認できない状況であったことは,いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが,原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,島原湾において,沖合から係船地に向けて帰航中,船位の確認が不十分で,熊本県羽干島に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,島原湾において,沖合から係船地に向けて帰航中,散在するかにすくい中の小型船群を替わしながら航行する場合,熊本県羽干島に向首進行することのないよう,進路目標としていた野釜大橋の照明灯の方位と,作動中のGPSプロッターの表示を参照するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,右転して小型船群を替わしたのち,都度,原針路に戻すよう左転しているので予定針路線上を航行しているものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,羽干島に向首進行して同島北東岸に乗揚を招き,海盛丸の船首船底に亀裂を伴う擦過傷を生じさせ,遊漁客4人に打撲傷及び頚椎捻挫などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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