(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月15日00時45分
鹿児島県奄美大島大熊漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八宝勢丸 |
総トン数 |
94トン |
全長 |
34.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第十八宝勢丸(以下「宝勢丸」という。)は,昭和59年1月に進水した,一層甲板型のFRP製漁船で,平成16年1月に五級海技士(航海)(履歴限定)の免許を取得したA受審人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み,かつお一本釣りの目的をもって,船首2.6メートル船尾3.2メートルの喫水で,平成16年10月12日22時ごろ鹿児島県奄美大島大熊漁港を発し,同県徳之島東方30海里ばかり沖合の漁場で操業したのち,翌々14日15時ごろ帰航の途についた。
宝勢丸は,船体中央部やや後方から船尾にかけて機関室及び船員居住区を配し,その上方に操舵室を設け,さらに,同室上方の甲板前部に,同所から操船可能なように,中央に操舵スタンド,その右舷側にレーダー及び機関制御監視盤を,同左舷側にレーダー及びGPSプロッターを装備し,入出港,航行中及び操業時等の操船は同所(以下「上部船橋」という。)で行われていた。
ところで,大熊漁港は,奄美大島北西岸で南方に湾入した名瀬港東岸から東方へ湾入した支湾の湾奥に注ぐ,有屋川河口の,名瀬港立神灯台から111度(真方位,以下同じ。)2,500メートルの地点を基点として,西北西に延びる長さ560メートルの導流堤と,同導流堤の北側にほぼ東西方向に築造された岸壁とによって構成される,幅約200メートル奥行き約550メートルの,西方に開いた港で,港の入口は,同導流堤と,同導流堤西端の北側90メートルの地点から北方に延びて前示岸壁西端に接続する,長さ110メートルのB防波堤とによって構成されていた。そして,同漁港入口付近には,B防波堤南端から245度70メートルの地点及び277度200メートルの地点から,それぞれ,南南東方に延びる長さ70メートルのC防波堤及び北北東方に延びる長さ150メートルのD防波堤が築造され,D防波堤の南端には,4秒1閃の単閃緑光を発する大熊港D防波堤灯台(以下「D防波堤灯台」という。)が,B防波堤の南端に3秒1閃の単閃緑光を,C防波堤の北端に3秒1閃の単閃赤光をそれぞれ発する簡易標識灯(以下,それぞれ「B防波堤標識灯」及び「C防波堤標識灯」という。)が設置され,D防波堤の南側120メートルのところには,東西方向に広がる浅所が存在していた。
また,宝勢丸の大熊漁港入港方法は,同漁港入口付近に,C及びD防波堤が築造されて航行水域を狭められていることから,名瀬港立神灯台東方から,D防波堤南端に向首して接近し,同端を約5メートルの距離で航過したのち,緩やかにS字を描くようにC防波堤北端及びB防波堤南端を近距離で航過して港奥に向かうもので,夜間は,D防波堤灯台,B防波堤標識灯及びC防波堤標識灯の灯火が,港奥の陸上の明かりに紛れることがあるものの,接近すれば,各灯火とも視認できるので,これらの灯火によって船位を確認し,D防波堤南側の浅所に接近することのないよう,各防波堤と安全な距離を保ちながら進行するものであった。
A受審人は,船橋当直を,A受審人,B指定海難関係人ほか2人の計4人による各3時間の輪番で行うこととし,大熊漁港入港に当たっては,宝勢丸がほぼ毎日同漁港を入出港しており,平成12年1月から同船に乗船し,翌13年から操船を行うようになったB指定海難関係人及び各船橋当直者とも操船経験が豊富なことから,自身の当直時間が入港に当たったとき以外は,各船橋当直者に入港操船を委ね,昇橋して自ら入港操船を行うことなく,船首または船尾の配置に就いていた。
14日22時ごろB指定海難関係人は,奄美大島西岸沖で前直者と交代して船橋当直に当たり,機関を全速力にかけて9.2ノットの対地速力とし,自動操舵によって適宜針路を調整しながら,同島北西岸沖を大熊漁港に向けて北上し,名瀬港内に至ったのち,翌15日00時41分D防波堤灯台から286度610メートルの地点で,手動操舵として針路を107度に定め,徐々に減速しながら大熊漁港入口に向けて進行した。
A受審人は,00時35分ごろ目覚め,大熊漁港入港が近いことを知ったが,それまで,船橋当直者が入港操船を行って問題なく入港していたことから,大丈夫と思い,昇橋して自ら入港操船を行うことなく,船首配置に就くよう着替えを始めた。
定針後B指定海難関係人は,船首方に見え出したC防波堤標識灯を船首目標として続航し,00時43分少し前D防波堤灯台から285度200メートルの地点に達したとき,D防波堤灯台に著しく接近する状況となっていたが,同灯台の灯火が,左舷船首方の大熊漁港内に停泊中の台船の明かりに紛れて見えにくくなっているものの,接近すれば,いずれ見えてくるものと思い,作動させていたレーダーやGPSプロッターを利用してD防波堤との距離を確認するなり,目を凝らしてD防波堤灯台の灯火を確認するなどして,船位の確認を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同一針路のまま進行した。
00時44分わずか前B指定海難関係人は,C防波堤標識灯の見え具合から,ほぼD防波堤灯台に並航するころと思い,同灯台の灯火を確認しないまま左転を開始しようとしたところ,左舷船首目前に同灯台の灯火を視認し,防波堤との衝突を避けようと,あわてて右舵一杯をとり,同防波堤と衝突することなく航過したものの,その後,自船の態勢を立て直そうと舵及び機関を操作しているうちに,00時45分D防波堤灯台から153度160メートルの地点において,4.6ノットの対地速力で161度に向首して浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力3の北北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,視界は良好であった。
A受審人は,入港準備のため上甲板に出ていたところ,乗揚の衝撃で本件発生を知り,事後の処理に当たった。
乗揚の結果,ビルジキールを破損し,魚群探知器及びソナーにそれぞれ損傷を生じたが,のち,いずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は,夜間,鹿児島県大熊漁港に入港する際,船位の確認が不十分で,同漁港D防波堤に著しく接近したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が自ら入港操船を行わなかったことと,船橋当直者が,船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,大熊漁港に入港する場合,同漁港入口付近に,C及びD防波堤が築造されて航行水域を狭められ,D防波堤を航過後,C防波堤及びB防波堤端を近距離で航過するものであったから,防波堤に著しく接近することのないよう,自ら入港操船を行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,それまで,船橋当直者が入港操船を行って問題なく入港していたことから,大丈夫と思い,自ら入港操船を行わなかった職務上の過失により,D防波堤に著しく接近していることを知ることができずに乗揚を招き,ビルジキールを破損し,魚群探知器及びソナーにそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,大熊漁港に入港する際,作動させていたレーダーやGPSプロッターを利用してD防波堤との距離を確認するなり,目を凝らしてD防波堤灯台の灯火を確認するなどして,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。