(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月30日14時24分
沖縄県竹富島南西方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第五十八あんえい号 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
18.16メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,182キロワット |
3 事実の経過
第五十八あんえい号(以下「あんえい号」という。)は,平成3年3月に進水し,船体のほぼ中央部に操舵室が設けられた,主機3機及び2舵を有する最大とう載人員69人の軽合金製旅客船で,A受審人ほか1人が乗り組み,旅客40人を乗せ,船首0.8メートル船尾1.6メートルの喫水で,平成16年10月30日14時00分沖縄県西表島仲間港を発し,同県竹富島竹富東港に向かった。
あんえい号は,左右各舷主機にハイスキュードプロペラを,中央の主機にウォータージエット推進装置を装備し,操舵室には,中央部の舵輪の右舷側前方に,就航海域の航路標識及び浅礁の位置並びに基準航路線等を入力したGPSプロッターが設置されていた。
ところで,仲間港から竹富東港に至るには,多数のさんご礁が散在する海域内を,全長約11海里の大原航路と称する狭い水道(以下「大原航路」という。)を東行し,竹富島南西方に敷設された大原航路第8号立標(以下,立標については「大原航路」を省略する。)南西方に達したのち,周囲の島及び立標等を利用して船位を確認する一方,海面の変色状況によって,同立標南方約400メートル付近から南側に拡延する浅礁の所在を確認し,同浅礁を避けて第5号立標付近に向けて転針したのち,竹富島南岸沖を経て竹富東港に向かうものであった。
A受審人は,昭和53年に甲板員としてB社に採用され,同年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したのち,翌54年から,同社が運航する旅客船に船長として乗り組むようになり,あんえい号の操縦性能及び就航海域の浅礁等の状況について十分承知していた。
A受審人は,日ごろ,視界が良好なときに竹富島南西方沖を航行する際には,第5号立標に向かう安全な水域を示す第4号立標と第5号立標の重視線やGPSプロッター画面などで船位を確認することなく,前示第8号立標南方の浅礁を,その手前約200メートルのところで,海面の変色状況によって確認したのち,同浅礁を避けて転針し,無難に航行していたものの,天候や海面状態によっては,さらに接近してから同浅礁を視認することがあった。
発航後,A受審人は,機関を全速力前進にかけ,30.0ノットの対地速力として手動操舵により適宜針路を調整しながら大原航路に沿って進行し,14時20分半第10号立標から163度(真方位,以下同じ。)100メートルの地点で,針路を064度に定めて同一速力で進行した。
14時23分半わずか過ぎA受審人は,第8号立標から218度750メートルの地点に至り,第4号立標と第5号立標の重視線上となり,前示浅礁までの距離が400メートルとなっていることを認めることのできる状況であったが,いつものように,同浅礁を視認してから転針すれば問題ないものと思い,同重視線やGPSプロッター画面などにより船位の確認を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,前方の浅礁を探しながら続航した。
14時24分少し前A受審人は,第8号立標から209度570メートルの地点に達し,前示浅礁まで200メートルとなったが,依然,前方の浅礁を探しながら進行し,14時24分わずか前正船首100メートルのところで海面が変色しているのを視認したものの,船位の確認を十分に行っていなかったので,同変色海面が浅礁であることに気付かず,その様子から,ときどき見かけることのある漂流している海藻と思って続航中,同変色海面が船首直前となったとき,これが浅礁であることに気付き,左右各舷主機を全速力後進,中央の主機を最低回転としたものの,ときすでに遅く,14時24分第8号立標から196度420メートルの地点において,原針路,原速力のまま浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期で,視界は良好であった。
乗揚の結果,右舷推進器翼に曲損を生じたが,自力で竹富東港に至って旅客を下船させた後,石垣港に回航し,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,周囲にさんご礁が散在する沖縄県竹富島南西方沖において,転針する際,船位の確認が不十分で,浅礁に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,周囲にさんご礁が散在する沖縄県竹富島南西方沖において,転針する場合,浅礁に著しく接近することのないよう,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,日ごろ,視界が良好なときは,海面の変色状況によって浅礁を確認したのち,これを避けて転針し,無難に航行していたことから,浅礁を視認してから転針すれば問題ないものと思い,安全な水域を示す重視線やGPSプロッター画面などにより船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,浅礁に著しく接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き,右舷推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。