(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月6日13時00分
和歌山県加太瀬戸地ノ島北東岸
(北緯34度17.9分東経135度03.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートシャイニー10 |
総トン数 |
1.1トン |
登録長 |
5.76メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
51キロワット |
3 事実の経過
シャイニー10(以下「シ号」という。)は,FRP製プレジャーボートで,A受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,大阪湾内から鳴門海峡にかけて遊走する目的で,船首尾とも0.6メートルの喫水をもって,平成17年2月6日10時20分兵庫県尼崎西宮芦屋港内の,西宮内防波堤灯台から310度(真方位,以下同じ。)1,000メートルばかりにあるBヨットハーバーを出航した。
ところで,A受審人は,前年11月に一級小型船舶操縦士免許を取得して以来,モーターボートを操船するのは今回が2度目で,当日はC社のレンタル用のモーターボート,シ号を借りて発航したものであった。
12時20分A受審人は,大阪湾南部深日港内のDマリーナに寄せてガソリンを補給し,このとき同マリーナの担当者から,気象模様を考えると,シ号の船型では大阪湾外に出て鳴門海峡付近を航行するには無理があるので止めた方が良いと忠告され,急遽予定を変更し,友ケ島水道東側にある地ノ島北側の大阪湾内において錨泊して昼食をとることにした。
こうして,12時40分A受審人は,操縦席で操船に当たり,隣席に知人を座らせ,Dマリーナを発し,約15.0ノットの対地速力(以下,速力という。)で南下し,同時58分半,地ノ島灯台から340度120メートルの,地ノ島海岸から約40メートル沖合に達したとき,錨泊準備のため機関を操作して行きあしを止め,中立運転として船首を180度に向け漂泊を開始した。
A受審人は,当時,やや強い北の風が吹いており,船体が地ノ島の海岸に向けて圧流されるおそれがあったが,風や潮流による圧流を考慮しないまま,操縦席前部甲板下に収納されていたダンホース型アンカーを投錨するため,固縛されていたアンカーロープを解く作業にかかった。
シ号は,折からの風潮流により約1ノットの速力で,ほぼ180度方向に地ノ島北東岸に向けて圧流され始めたが,A受審人は,堅く結ばれているアンカーロープの固縛を解くことに気をとられ,海岸への接近状況を目測するなど,船位の確認を十分に行わなかったので,圧流されていることに気付かず,機関を使用して沖出しするなどの措置をとらずに作業を続けるうち,13時00分,船首を180度に向けた状態で,地ノ島灯台から330度70メートルの海岸に船首から乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力4の北風が吹き,潮侯は上げ潮の中央期で,付近には微弱な南流があった。
A受審人は,機関を後進にかけたり,波打ち際に降りて船首を沖合に押し出そうとしたりしたものの効なく,やがて,船体が風に対して横倒しとなり,海上保安部及びC社に携帯電話で救助を求めた。
乗揚の結果,来援した救助艇により引き下ろされたが,船底外板及びキールに損傷を,推進機翼に曲損をそれぞれ生じ,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,加太瀬戸地ノ島北東岸沖合において,錨泊準備のため漂泊中,海岸への接近状況を知るための船位確認が不十分で,風潮流により海岸に向けて圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,加太瀬戸地ノ島北東岸沖合において,錨泊準備の目的で海岸に近づいて漂泊する場合,当時の北風などで海岸に圧流されることのないよう,海岸への接近状況を目測するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,アンカーロープの固縛を解くことに気をとられ,目視による船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,折からの北風と潮流により海岸に向け圧流されていることに気付かないで乗揚を招き,船底外板及びキールに損傷を生じさせ,推進機翼を曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。