(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月14日15時30分
島原湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船福盛丸 |
総トン数 |
3.0トン |
全長 |
11.23メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
201キロワット |
3 事実の経過
福盛丸は,主としてはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和49年10月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年8月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)ほか甲板員1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年11月14日04時20分係船地の長崎県貝崎漁港を発し,05時50分佐賀県竹崎島南東岸沖合約1海里の漁場に到着してふぐはえ縄漁を始めた。そして,とらふぐ約40キログラムを獲て操業を終え,14時40分島原灯台から323度(真方位,以下同じ。)12.2海里の地点を発進し,係船地に向けて帰途に就いた。
発航後,A受審人は,甲板員を前部甲板ではえ縄の整理に当たらせ,自らは操舵室右舷側に置いたいすに腰を掛け,操舵操船に当たって島原湾を南下し,15時15分島原灯台から344度5.0海里の地点に達したとき,平素のように島原港沖合に設置された島原三会沖灯浮標(以下「三会沖灯浮標」という。)付近の海域を航行するよう針路を155度に定め,機関を全速力前進にかけ,14.0ノットの速力で,自動操舵として進行した。
定針したとき,A受審人は,前路に他船が見当たらなかったこともあって,操業で傷んだ漁具の修理をすることを思い立ち,いすに腰を掛けたまま修理作業を始め,その後,時折前方を見ながら続航した。
15時26分少し前A受審人は,島原灯台から353.5度2.6海里の地点に達したとき,ほぼ正船首方約1海里のところに三会沖灯浮標を視認して平素のようにこれを右舷側に替わすことにし,手動操舵としたものの,同灯浮標に接近するまで間があるので修理作業を続けても大丈夫と思い,その後,前方の見張りを十分に行うことなく,舵輪から手を離したまま同作業に当たって進行した。
やがて,A受審人は,漁具の修理をすることに気を奪われて前路に三会沖灯浮標が存在することを失念し,同灯浮標に向首したままこれを避けないで続航中,突然,衝撃を感じ,15時30分福盛丸は,原針路,原速力のまま,その船首部が,島原灯台から005度1.7海里の地点に設置された三会沖灯浮標に衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果,福盛丸は,船首部に破口を伴う損傷を生じ,三会沖灯浮標は浮体部,昇降はしご及び同手すりに損傷を生じたが,のち,損傷部はそれぞれ修理され,甲板員が頚椎捻挫及び前額部挫創を負った。
(原因)
本件灯浮標衝突は,島原湾において,操業を終えて係船地に向け航行中,前方の見張りが不十分で,長崎県島原港沖合に設置された三会沖灯浮標に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,島原湾において,操業を終えて係船地に向け航行中,ほぼ正船首方に三会沖灯浮標を視認した場合,同灯浮標に向首したまま進行することのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,三会沖灯浮標に接近するまで間があるので大丈夫と思い,漁具の修理をすることに気を奪われ,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,同灯浮標に向首したまま,これを避けないで進行して衝突を招き,福盛丸の船首部に破口を伴う損傷を,三会沖灯浮標の浮体部,昇降はしご及び同手すりに損傷をそれぞれ生じさせ,甲板員に頚椎捻挫及び前額部挫創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。