日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年門審第30号
件名

漁船第八住宝丸漁船日の出丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,織戸孝治,尾崎安則)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:第八住宝丸一等航海士 海技免許:六級海技士(航海)
B 職名:日の出丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
第八住宝丸・・・右舷前部ブルワークに凹損
日の出丸・・・バルバスバウの圧壊及び船首張出部の折損,甲板員が第一腰椎圧迫骨折の負傷

原因
第八住宝丸・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
日の出丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第八住宝丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している日の出丸の進路を避けなかったことによって発生したが,日の出丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月25日17時45分
 周防灘南東部
 (北緯33度44.7分東経131度31.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八住宝丸 漁船日の出丸
総トン数 199.95トン 4.77トン
全長 43.50メートル 15.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 第八住宝丸
 第八住宝丸(以下「住宝丸」という。)は,昭和54年2月に進水した船尾船橋型の鋼製漁獲物運搬船で,船橋楼前方の上甲板下に活魚倉8個が設けられており,船首端から同楼前面までの水平距離が約28メートルで,同楼最上層に配置された操舵室には,同室前面中央に操舵スタンドがあり,レーダー2台及びGPSなどの航海計器が備えられていた。
 本件発生当時,喫水は,船首1.8メートル船尾3.5メートルで,眼高は約6メートルであり,操舵室から前方の視界を遮る甲板上構造物はなく,見通し状況は良好であった。
 同船は,主として瀬戸内海及び九州一円の諸港間において活魚の運搬に従事しており,年間に10回ばかり大韓民国にも同種の運搬で寄港していた。
イ 日の出丸
 日の出丸は,昭和57年7月に進水し,県知事から小型底びき網漁業の許可を受けて手繰第2種及び同第3種の各漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室と機関室が配置され,操舵室やや前方の両舷にネットローラーが,船尾甲板に揚網用のやぐらが,機関室囲いの左舷後部に遠隔操舵用コントローラー及び機関遠隔操縦ハンドルがそれぞれ設けられていたが,汽笛は備えられていなかった。
(3)日の出丸の漁具
 当時,日の出丸は,周防灘南東部の許可海域において,あかえびなどを対象魚種とした手繰第2種漁業に従事しており,同漁業に使用する漁具は,両舷のネットローラーから船尾方向にそれぞれ伸出する長さ130メートルのワイヤー製のひき綱に,長さ6メートルのチェーン及び同50メートルの合成繊維索を連結した手綱,同19メートルの袖網及び同3メートルの袋網をそれぞれ順に繋ぎ,網口を広げるための長さ18メートルのビームを手綱のほぼ中間に取り付けたものであった。

3 事実の経過
 住宝丸は,船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,平成16年8月25日11時30分愛媛県宇和島港を発し,関門海峡を経由する予定で長崎県玉之浦港に向かった。
 ところで,C船長は,船橋当直をA受審人,次席一等航海士及び自らによる単独の4時間3直制に定め,自らの当直時間のほか視界制限時や狭水道通航時などには昇橋して操船指揮を執っていた。また,船橋当直者に対しては,いずれも運航経験が豊富な航海士であったこともあり,平素,具体的な指示を与えることは少なかったが,濃霧発生などの情報を入手したときや必要を感じたときには知らせるよう指示していた。
 15時50分A受審人は,大分県国東港東方約3海里の地点で,前直の次席一等航海士と交代して単独の船橋当直に就き,引き続き機関を全速力前進にかけ,9.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により国東半島沿岸を北西進した。
 17時07分A受審人は,姫島水道の西口にあたる,伊美港古町防波堤灯台から053度(真方位,以下同じ。)1.5海里の地点に至り,針路を下関南東水道第4号灯浮標の少し右方に向く295度に定め,操舵スタンド後方のいすに腰を掛け,同じ速力で進行した。
 17時30分A受審人は,香々地灯台から036度3.3海里の地点に差し掛かり,右舷船首方約2海里のところとその南方約1海里の左舷船首方に漁船群を認め,それらの漁船群のうちで最も自船の針路寄りとなる,右舷船首4度2.3海里のところに,船首を東方に向けた日の出丸を初認し,いすから立ち上がり右舷前面に移動して双眼鏡で見たところ,停留して網を修理しているように見えたことから,同船はしばらくは停留を続けるものと考え,特に気に留めることなく,左舷船首方の漁船群を見ながら続航した。
 17時40分A受審人は,香々地灯台から009度3.37海里の地点に差し掛かり,右舷船首9度1,340メートルのところに停留していた日の出丸が網を繰り出しながら東方に向け発進したが,このことに気付かなかった。
 17時41分A受審人は,香々地灯台から008度3.45海里の地点に達したとき,右舷船首13度970メートルに接近した日の出丸が,右転して針路を西方に転じ,同船が表示した鼓型形象物や船尾から海中に繰り出した網を視認でき,同船がトロールにより漁ろうに従事していることが分かり,その後,方位が変わらないまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,同船が停留を続けているものと思い,左舷方の漁船群に見とれて,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,この状況に気付かず,早期に右転するなど同船の進路を避けることなく進行した。
 17時45分少し前A受審人は,ふと右舷方を見たとき,至近に迫った日の出丸を認めたが,何もできないまま,17時45分香々地灯台から356度3.66海里の地点において,住宝丸は,原針路,原速力のまま,その右舷前部に日の出丸の船首が前方から80度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候はほぼ高潮時にあたり,視界は良好であった。
 C船長は,自室で休息中,右舷側に異常音を聞き,昇橋して衝突の事実を知り,事後の措置に当たった。
 また,日の出丸は,B受審人と同人の妻が甲板員として乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日15時10分大分県長洲漁港を発し,周防灘南東部の漁場に向かった。
 16時30分B受審人は,目的の漁場に至り,トロールにより漁ろうに従事中であることを示す鼓型形象物を操舵室後方の甲板上高さ3メートルの位置に掲げ,東進しながら操業を開始した。
 17時25分B受審人は,1回目の曳網を終えて機関を中立運転とし,停留状態で揚網にかかり,船尾近くにひき寄せた袋網をやぐらに吊り,漁獲物をいけすとかごに投入したのち,機関室囲いの左舷後部に立ち,手元の遠隔操舵用コントローラーと機関遠隔操縦ハンドルを操作し,同時40分香々地灯台から358度3.72海里の地点を発進し,針路を大分県姫島北端に向く093度に定め,機関を微速前進にかけ,2.5ノットの速力で,2回目の投網準備にかかった。
 17時41分B受審人は,香々地灯台から359度3.72海里の地点で,予定の投網開始地点に至り,網を3分の2ばかり船尾方海中に流した状態で右舵をとり,針路を福岡県宇島港の高さ204メートルの煙突に向く250度に転じたとき,左舷正横後32度970メートルのところに西行する住宝丸を視認でき,その後,同船の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,自船が操業中の漁船群の中にいたことから,漁船群に接近してくる他船はいないものと思い,繰り出し中の網の状態を見ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,この状況に気付かず,避航の気配を見せない住宝丸に対し汽笛不装備で警告信号を行うことも,速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作もとらずに進行した。
 17時44分半B受審人は,甲板上の袖網の残り分が1.5メートルばかりとなったので,手綱を繰り出すために船首方を向いたところ,左舷至近に迫った住宝丸に気付き,衝突の危険を感じ,左舵一杯をとって機関を全速力前進にかけたが及ばず,日の出丸は,船首が195度を向いたとき,ほぼ原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,住宝丸は,右舷前部ブルワークに凹損を,日の出丸は,バルバスバウの圧壊及び船首張出部の折損をそれぞれ生じ,のちいずれも修理され,日の出丸の甲板員が,第一腰椎圧迫骨折を負った。

(本件発生に至る事由)
1 住宝丸
(1)日の出丸が停留して網の修理を行っているように見えたこと
(2)日の出丸がしばらくは停留を続けると思ったこと
(3)左舷方の漁船群に見とれていたこと
(4)日の出丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(5)日の出丸の進路を避けなかったこと

2 日の出丸
(1)汽笛を装備していなかったこと
(2)操業中の漁船群の中にいたことから,漁船群に接近してくる他船はいないと思ったこと
(3)繰り出し中の網の状態を見ることに気をとられていたこと
(4)周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(5)住宝丸に対し警告信号を行わなかったこと
(6)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 住宝丸が,日の出丸に対する動静監視を十分に行っていれば,発進して網を繰り出しながらトロールにより漁ろうに従事している同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,余裕を持って同船の進路を避けることができ,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,日の出丸が停留して網を修理しているように見えたことから,しばらくは停留を続けるものと思い,左舷方の漁船群に見とれて,動静監視が不十分で,トロールにより漁ろうに従事している同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,日の出丸は,周囲の見張りを十分に行っていれば,接近する住宝丸を視認することができ,衝突のおそれのある態勢で接近していることを知り,避航の気配を見せない同船に対し警告信号を行わなければならないことが分かり,速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることができ,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,自船が操業中の漁船群の中にいたことから,漁船群に接近してくる他船はいないものと思い,繰り出し中の網の状態を見ることに気をとられ,周囲の見張りが不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,汽笛を装備していなかったことは,警告信号の履行を妨げることとなり,法令遵守及び海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,周防灘南東部において,西行中の住宝丸が,動静監視不十分で,トロールにより漁ろうに従事している日の出丸の進路を避けなかったことによって発生したが,日の出丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるため協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,周防灘南東部において,関門海峡に向け西行中,自船針路の近くに停留中の日の出丸を認めた場合,漁ろうに従事中の船舶であったから,新たな行動をとったときに衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船が網を修理しているように見えたことから,しばらくは停留を続けるものと思い,左舷方の漁船群に見とれて,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,発進して網を繰り出しながらトロールにより漁ろうに従事している同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,住宝丸の右舷前部ブルワークに凹損を,日の出丸のバルバスバウの圧壊及び船首張出部に折損をそれぞれ生じさせ,日の出丸の甲板員に第一腰椎圧迫骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,周防灘南東部において,網を繰り出しながらトロールにより漁ろうに従事する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が操業中の漁船群の中にいたことから,漁船群に接近する他船はいないものと思い,繰り出し中の網の状態を見ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれのある態勢で接近する住宝丸に気付かず,同船に対して汽笛不装備で警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:19KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION