(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月4日15時08分
青森県八戸港
(北緯34度39分東経129度36分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
油送船しんみち丸 |
総トン数 |
3,785トン |
全長 |
104.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,995キロワット |
回転数 |
毎分213 |
(2)設備及び性能等
ア 船体及び設備
しんみち丸は,平成14年5月に進水した,ダブルハル構造の船首尾楼付一層甲板船尾船橋型鋼製油送船で,推力約8トンの電動式バウスラスタ,可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)及びフラップ舵を装備し,船首端から船橋楼前面までの距離が79メートルで,同楼前方の上甲板下に1番から6番の貨物油タンクと,同タンクを両舷及び船底の三方から取り囲む形状の1番から3番のバラストタンクをそれぞれ配置していた。
操舵室は,船橋楼最上層の航海船橋甲板前端にあり,同室前部中央に操舵スタンドを,その右舷側に主機及びCPP遠隔操縦装置,バウスラスタ操作パネル並びにエンジンデータロガー等を一括して組み込んだ操縦盤を,左舷側にはレーダー2台等をそれぞれ設置し,操舵を操舵スタンドのほか,同スタンドから延長コードで取り出した遠隔操作箱で行えるようになっており,通常,主機回転数とCPP翼角操作を操縦盤上のテレグラフ兼用操縦ハンドルで一括フォロー制御するようになっていた。
また,機関室は,下段,中段及び上段の3層に区分され,上段の前部左舷側に機関制御室を設け,主機及びCPP遠隔操縦装置並びにエンジンデータロガー等を組み込んだ操縦盤を船尾側に,各発電機盤,同期盤,集合始動器盤及び給電盤から構成された主配電盤を船首側にそれぞれ設置していた。
イ 操縦性能
主機回転数,翼角及び港内速力の関係は,操縦ハンドルでフォロー制御する場合,中立運転から微速力まで回転数を毎分190(以下,回転数は毎分のものを示す。)に,半速力以上の回転数を206にそれぞれ設定し,翼角が,3度で4.5ノットの極微速力,7度で7ノットの微速力,10度で9ノットの半速力及び13度で11ノットの全速力となっていた。
また,海上公試運転成績書によれば,初速15.3ノットで舵角35度をとって90度回頭するまでの旋回縦距及び旋回横距が,左旋回したとき約290メートル及び134メートル,右旋回したとき約296メートル及び約135メートルで,15.2ノットの前進速力で航走中,全速力後進発令から船体停止に要する時間及び航走距離は3分36秒及び863メートルであった。
ウ 機関及び発電装置
主機は,D社製の6LF54A型と称するディーゼル機関で,連続最大出力4,045キロワット同回転数235の原機に負荷制限を設けて登録されており,減速機を介してCPPを駆動するほか,前部動力取出軸に連結したE社製のSGY220MY−102型と称する増速機を介して貨物油ポンプ2台及び三相交流電圧445ボルト容量750キロボルトアンペア(KVA)回転数1,200の軸発電機をそれぞれ駆動するようになっていた。
また,発電装置は,軸発電機のほか,いずれも三相交流電圧445ボルトで,ディーゼル機関(以下「補機」という。)で駆動する容量750KVAの主発電機を機関室中段左舷前部に,容量150KVAのディーゼル機関駆動停泊用発電機を同室下段左舷前部にそれぞれ備え,さらに,航海船橋甲板下の居住区内には容量40KVAのディーゼル機関駆動非常用発電機を設け,母線電圧が85パーセント以下に低下すると同機が自動的に始動し,2号操舵機,100ボルト系統及び蓄電池充放電盤などの限定された箇所に給電するようになっていた。
増速機は,歯車と油圧式多板クラッチを内蔵し,主機の回転を歯車により増速し,各クラッチを介して軸発電機及び貨物油ポンプに動力を伝達するもので,このうち,軸発電機用のクラッチにはオメガクラッチと称する,主機回転数の変動及び発電機負荷の変動に対し,電磁式回転センサで検出した主機及び軸発電機の各回転数を電子コントローラにおいてPI制御したうえ,その電気信号をオメガコントロールバルブで制御油圧に変換してオメガバルブに送り,同バルブがクラッチピストンにかかる油圧を変え,クラッチプレートのスリップ量を制御して発電機回転数を一定に保持する装置が組み込まれていた。そして,軸発電機が使用可能な主機回転数は,170から235までの範囲となっていた。
ところで,オメガクラッチは,電磁式回転センサの先端と回転軸に取り付けた検出歯車とに設けた0.6ないし1.1ミリメートルの間隙にゴミを噛み込むなどして生じる同センサの作動不良,油圧制御機器の作動不良あるいは主機回転数が使用範囲外になるなどの異常が起きると,発電機が規定回転数を保持できなくなり,電圧及び周波数に影響を与えるおそれがあった。
一方,主機及びCPP遠隔操縦装置は,445ボルト電源が喪失したり電圧及び周波数が異常低下した場合,CPP油圧ポンプが低電圧トリップするとともに主機のガバナ制御が不能となることから,操縦不能となるものの回転数とCPP翼角を現状維持するようになっていた。
(3)青森県八戸港石油基地
八戸港の石油基地は,同港のほぼ中央部に位置する河原木地区に所在し,北東に面した長さ約600メートルの石油基地岸壁と,同岸壁北西端から北東方に延びる長さ約240メートルの河原木西防波堤(以下「西防波堤」という。),及び同岸壁の約350メートル北側沖合に埋立造成された河原木第1ふ頭(ポートアイランド)と,同ふ頭と石油基地岸壁南東端とを結ぶシーガルブリッジで囲まれた長方形の船だまりを形成しており,同岸壁に南東側を2号として北西方に5号までの,西防波堤に6号の,計5基の石油荷役桟橋が構築され,西防波堤突端と河原木第1ふ頭西岸壁との間が可航幅約110メートルの船だまり出入口となっていた。
3 運航形態及び船舶管理状況
しんみち丸は,主に京浜港,四日市港などを積地として,八戸港ほか北海道から九州に至る国内諸港へのガソリン,灯油及びジェット燃料等の白油輸送に従事しており,着岸及び離岸時には,操舵室において船長が操船指揮を執るとともに遠隔操舵にあたり,機関長が操縦盤前で操縦ハンドルとバウスラスタ操作を担当し,機関室及び機関制御室では一等機関士1人が機器の操作と監視を行い,一等航海士ほか他の乗組員が船首尾配置に付くようにしていた。
そして,発電機については,通常航海中は軸発電機を,揚荷役中は主機で貨物油ポンプを駆動するとともに軸発電機を,さらに揚荷役のない停泊時には主発電機又は停泊用発電機をそれぞれ運転するようにし,出入港時には軸発電機と主発電機を並列運転とし,出力530キロワットのバウスラスタ用電動機に給電するようにしていた。
ところが,機関部では,いつしか,船長から機関長にバウスラスタの使用終了が伝えられると,電力的に余裕が生じることから,燃料費節約の目的もあって,スタンバイ中であっても並列運転を解除し,軸発電機の単独運転に切り替えることが慣習化するようになっており,B受審人もそのことを踏襲していたものの,船長に対して発電機の運転状況を具体的に説明したことはなかった。
一方,A受審人は,空倉時には1号操舵機を,貨物油積載時には2号操舵機をそれぞれ切り替えて使用するようにしており,操船指揮にあたっては,入港時には外防波堤を替わるころからバウスラスタを使用可能な状態とさせ,出港時には,通常,離岸操船後前進行きあしが安定したところでバウスラスタの使用を終えるようにしていたものの,バウスラスタの使用と発電機運転状況の関係について機関長と打ち合わせたことがないので,バウスラスタの使用終了を機関長に伝えると,発電機の並列運転を解除して軸発電機の単独運転に切り替えられていることをはっきりとは知らなかった。
また,F社は,自社船1隻,G社の所有船1隻及び同社と共有するしんみち丸の計3隻について,任意によるISMコード認証を取得したうえ船舶管理と両社に所属する乗組員の配乗業務を行っており,3箇月毎に各機器の運転・整備記録を提出させるほか,担当者による定期的な訪船活動を行って安全運航に関わる問題点の改善等を指導するようにしていたものの,出入港時のスタンバイ中には当然電源確保のために発電機を並列運転しているものと考え,出入港時の発電機使用基準を明確には定めていなかった。
4 本件に至る経過
しんみち丸は,A,B及びC各受審人ほか7人が乗り組み,平成16年2月4日08時40分,右舷錨を投じて錨鎖3節を右舷やや後方に延出し,八戸港河原木西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から197度(真方位,以下同じ。)250メートルの八戸港石油基地岸壁5号桟橋に出船左舷付けで着桟したのち,14時45分に揚荷役とともに海水バラスト約2,100トンの張り込みを終え,主機を回転数190の中立運転として軸発電機と主発電機を並列運転とし,空倉のまま,船首3.4メートル船尾4.8メートルの喫水をもって,同桟橋を発して京浜港川崎区に向かうこととなった。
ところで,八戸港のある青森県三八地方には,同日07時45分の青森地方気象台の気象情報で,オホーツク海の低気圧が発達して冬型の気圧配置となり,海上では西の風が雪を伴って昼過ぎから夜にかけて非常に強くなる旨の風雪,波浪注意報が発表されていた。
14時55分A受審人は,1号操舵機を運転して遠隔操舵操作箱を手に操舵室前部中央のレピーターコンパスのところに立ち,他の乗組員がそれぞれの出港配置に就くなか,昇橋したB受審人に機関用意を令し,15時00分に係留索を放させ,折から雪まじりの風力5の西南西風を左舷前方から受けながら,主機及びバウスラスタを種々使用して右舷錨を巻き揚げて徐々に桟橋から平行に離れ,同時03分アンカーアップの報告を受けたのち,バウスラスタにより右回頭しながら同時04分主機を極微速力前進にかけた。
15時05分A受審人は,防波堤灯台から171度170メートルの地点において,針路が船だまり出入口の中央部に向く012度となったとき,主機を微速力前進に増速して進行し,海水バラストを張り込んだとはいえ空倉で船体の受風面積が大きく,強い西南西風を正横付近から受けると風下の河原木1号ふ頭西岸壁に圧流されるおそれがあったが,舵の性能がよいので操舵とCPP翼角操作だけで無難に同出入口を航過できると思い,風圧流に対する安全措置として,バウスラスタを使用可能な状態に保持することなく,B受審人にバウスラスタの使用を終了したことを伝え,船首配置の一等航海士に投錨準備をしておくことも指示しなかった。
船首配置では,A受審人から特段の指示がなかったことから,右舷錨を揚収したのち,いつもの出港時と同様にウインドラスのクラッチを嵌合して待機した。
また,B受審人は,A受審人からバウスラスタの使用終了を伝えられたとき,まだ西防波堤突端を替わっていない狭い水域で少し早いのではと考えたが,電力的には問題がなくなったのでいつものようにしておこうと思い,不測の事態に備えて発電機の並列運転を続けるなど,船内電源を確保する措置をとることなく,機関制御室のC受審人に対してバウスラスタの使用が終了したので発電機を軸発電機の単独運転に切り替えるように指示した。
一方,C受審人は,荷役終了後,機関室及び機関制御室における種々の機器操作等に1人で追われ,離岸後の状況を知ることが困難であったところ,操舵室のB受審人から指示を受けたので,主配電盤上で軸発電機への単独運転切り替え操作を行い,補機が停止したことを確認した。
15時05分半少し過ぎしんみち丸は,左舵10度をとり,船首が対岸まで240メートルの,防波堤灯台から164度140メートルの地点に達したとき,軸発電機の単独運転となった直後で補機が自動運転モードに設定される前に,主機の回転数には変化がなかったものの,オメガクラッチの出力側回転センサが,検出部にゴミを噛み込むかして回転数を実回転より高く検出する状態になったため,クラッチのスリップ量が増して軸発電機の実回転数が低下したことから,気中遮断器のトリップには至らなかったものの電圧及び周波数が著しく低下する電源異常が発生し,1号操舵機が停止したほか,主機潤滑油圧力やCPP変節油圧力などが低下する一方,低電圧を検出した非常用発電機が自動始動したが,潤滑油圧力が危急停止設定圧力まで低下しなかったものか,主機の運転が続けられた。
A受審人は,操縦盤で警報が次々に鳴り,操舵機盤の警報も作動して一時的に操舵不能となったことから,遠隔操舵操作箱による操作から手動操舵に切り替えるとともに,B受審人にCPP翼角0度にあたるストップエンジンを指示したものの,同人からは主機の回転数に変化がなく同翼角が前進7度から下がらないと報告を受けた。そして,2号操舵機が運転されて操舵できることに気付いて直ちに左舵15度を取ったが,風圧流の影響で舵効が得られないまま,河原木第1ふ頭西岸壁に向かってほぼ直進状態となったため,15時06分半ごろ一等航海士に投錨を指示した。
一方,B受審人は,各種警報の作動とCPP等の操作不能からブラックアウトしたものと考え,機関室に急行したところ,主機照明用の水銀灯は消えていたものの,蛍光灯類は光力が低下していただけであることを認め,機関制御室に入ってC受審人に補機の再始動を指示し,船尾配置を終えて機関室に戻った二等機関士とともに,電源復旧にあたらせ,電源復旧後の主機操縦に備えて操舵室に向かった。
こうして,しんみち丸は,電源異常からウインドラスのクラッチが離脱不能で投錨できないまま,船首が河原木第1ふ頭西岸壁まで80メートルに接近したので,15時07分半少し前A受審人が衝突の衝撃を緩和するために主機を非常停止し,一旦ブラックアウトとなって間もなく,主発電機からの給電が開始されて電源が復旧したものの,同西岸壁に向かって惰力で進行し,15時08分防波堤灯台から027度210メートルの地点において,015度に向首して約4ノットの速力でその船首部が45度の角度をもって同岸壁に衝突した。
当時,天候は曇で風力5の西南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
衝突の結果,しんみち丸は球状船首を圧壊して破口を生じ,河原木第1ふ頭西岸壁は基部が一部損壊したが,のちいずれも修理された。
F社は,本件発生後,A及びB両受審人らから状況を聴取して事故原因を調査したうえ,出港スタンバイから安全な海域に到達するまで発電機の並列運転を行い,単独運転への切り替えは船長の指示によって行うことなどを定めた主機・補機の並列運転要領を新たに作成し,管理船舶の操舵室及び機関制御室に掲示する措置を講じた。
(本件発生に至る事由)
1 入出港時の発電機並列運転基準が明確に定められていなかったこと
2 出港スタンバイ中のバウスラスタ使用終了後,発電機の並列から単独運転への切り替えが慣習化していたこと
3 バウスラスタの使用と発電機運転状況の関係について船長と機関長との意思の疎通が十分でなかったこと
4 八戸港出港時,空倉状態で,風力5の西南西風が吹いていたこと
5 フラップ舵の性能を過大評価していたこと
6 広い海域に出るまでバウスラスタを使用可能な状態に保持したうえ,投錨準備を行わせるなど,風圧流に対する安全措置を十分にとらなかったこと
7 不測の事態に備えた船内電源を確保する措置が十分でなかったこと
8 軸発電機の単独運転中,オメガクラッチが作動不良を起して電源異常を生じたこと
9 操舵は可能であったものの,主機及びCPPが現状維持のまま操作不能となったこと
10 圧流の影響で舵効が得られないまま,河原木第1ふ頭西岸壁に向け圧流されたこと
(原因の考察)
本件は,風力5の西南西風が吹くなか,揚荷を終え空倉で八戸港石油基地岸壁を離岸し,バウスラスタの使用を終えて同基地の船だまり出入口に向けて航行を開始して間もなく,発電機を並列運転から単独運転に切り替えた直後に電源異常という不測の事態が発生して主機及びCPPが操作不能になり,左舵をとっても風圧流を受けて舵効が得られないまま,対岸の河原木第1ふ頭西岸壁に向け圧流されたことによって発生したものである。
船長が,風圧流に対する安全措置として,広い海域に出るまでバウスラスタを使用可能な状態に保持したうえ,投錨準備を行わせていたなら,結果的に発電機の並列運転が継続され,軸発電機用オメガクラッチの作動不良という不測の事態に対しても電源を確保でき,バウスラスタは使用不能であっても,CPP翼角操作あるいは投錨等によって本件を防止できたものと認められる。
したがって,A受審人が,フラップ舵の性能がよいので操舵とCPP翼角操作だけで無難に航行できるものと思い,バウスラスタを使用可能な状態に保持したうえ,投錨準備を行わせるなど,風圧流に対する安全措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
また,機関長が,船長からバウスラスタの使用終了を伝えられた際,西防波堤突端を替わっていない狭い水域で少し早いのではと考えたのであるから,船長に再確認のうえ,発電機の並列運転を継続していれば,前記不測の事態に対しても電源を確保でき,本件を防止できたものと認められる。
したがって,B受審人が,西防波堤突端を替わっていない狭い水域において,電力的には問題がなくなったのでいつものようにしておこうと思い,不測の事態に備えて船内電源を確保する措置を十分にとることなく,軸発電機の単独運転に切り替え,軸発電機用オメガクラッチの作動不良から電源異常を招いたことは,本件発生の原因となる。
入出港時の発電機並列運転基準が明確に定められていなかったこと,出港スタンバイ中のバウスラスタの使用終了後発電機を並列から単独運転に切り替えることが慣習化していたこと,及びバウスラスタの使用と発電機運転状況の関係について船長と機関長との意思の疎通が十分でなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,これらは,海難防止上の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件岸壁衝突は,西南西風が強吹する青森県八戸港において,揚荷を終え空倉で石油基地岸壁を離岸出港する際,風圧流に対する安全措置が不十分であったことと,船だまり出入口に向け微速力前進中,船内電源を確保する措置が不十分で,バウスラスタの使用終了後発電機を並列運転から軸発電機の単独運転へ切り替えたこととにより,軸発電機用オメガクラッチの作動不良から軸発電機の定回転制御が不能となって電圧及び周波数が著しく低下する電源異常を生じ,主機及びCPPが操作不能のまま,対岸の河原木第1ふ頭西岸壁に向け圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,西南西風が強吹する青森県八戸港において,揚荷を終え空倉で石油基地岸壁を離岸出港する場合,船だまり出入口に向かうとき横風となる状況であり,また船体の受風面積も大きくなっていたのであるから,圧流されることのないよう,広い海域に出るまでバウスラスタを使用可能な状態に保持したうえ,投錨準備を行わせるなど,風圧流に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,フラップ舵の性能がよいので操舵とCPP翼角操作だけで無難に船だまり出入口を航過できるものと思い,風圧流に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により,離岸揚錨後すぐにバウスラスタの使用終了を機関長に告げ,同出入口に向け左舵をとって微速力前進中,電源異常の発生から主機及びCPPが操作不能となり,対岸の河原木第1ふ頭西岸壁に向け圧流されて同岸壁との衝突を招き,しんみち丸の球状船首を圧壊して破口を生じ,河原木第1ふ頭西岸壁の基部を一部損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,西南西風が強吹する青森県八戸港において,石油基地岸壁を離岸し微速力前進中,船長からバウスラスタの使用終了を伝えられた場合,まだ西防波堤突端を替わっていない狭い水域であったから,不測の事態に備えて発電機の並列運転を続けるなど,船内電源を確保する措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,電力的には問題がなくなったのでいつものようにしておこうと思い,船内電源を確保する措置を十分にとらなかった職務上の過失により,機関制御室のC受審人に対して発電機を単独運転に切り替えるように指示し,単独運転に切り替えた直後に軸発電機用オメガクラッチの作動不良から電源異常に陥り,主機及びCPPが操作不能のまま圧流されて河原木第1ふ頭西岸壁との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人の所為は,本件発生の原因とはならない。
よって主文のとおり裁決する。
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