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平成17年門審第31号
件名

油送船第21九翔丸貨物船ブンガ マス ラパン衝突事件
第二審請求者〔補佐人 a〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,清重隆彦,上田英夫)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:第21九翔丸船長 海技免許:二級海技士(航海)
補佐人
a,b
指定海難関係人
B 職名:ブンガ マス ラパン船長

損害
第21九翔丸・・・右舷中央部外板に破口等
ブンガ マス ラパン・・・球状船首部に凹損等

原因
ブンガ マス ラパン・・・安全な船間距離を保持しなかったこと(主因)
第21九翔丸 ・・・動静監視不十分,警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,関門航路において,第21九翔丸を追い越す態勢のブンガ マス ラパンが,追い越しを断念し,安全な船間距離を保持しなかったことによって発生したが,第21九翔丸が,動静監視不十分で,ブンガ マス ラパンに対して警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月10日19時15分
 関門港門司埼付近
 (北緯33度57.8分東経130度57.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第21九翔丸 貨物船ブンガ マス ラパン
総トン数 999トン 8,957トン
全長 83.00メートル 132.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,765キロワット 7,800キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第21九翔丸
 第21九翔丸(以下「九翔丸」という。)は,平成9年7月に進水し,主に大分港でガソリン・軽油等を載貨し,博多港で揚貨する船尾船橋型油タンカーで,関門海峡は月平均10回通峡しており,船橋からの見張りを妨げるものはなく,旋回性能は,最大横距が約100メートル,最大縦距が約200メートルで,最短停止距離が約700メートルであった。
 同船は,可変ピッチ式推進器1個,バウスラスタ,自動衝突予防援助装置付きレーダー2台,GPS,VHF送受信機,汽笛及び固定式信号灯を備えていた。
イ ブンガ マス ラパン
 ブンガ マス ラパン(以下「ブ号」という。)は,1998年にマレーシアで進水し,日本と中華人民共和国間の定期航路に就航する船尾船橋型鋼製コンテナ専用船で,船橋からの見張りを妨げるものはなく,載貨時の旋回性能は,旋回径が約300メートル,最大横距が約150メートル,最大縦距が約240メートルで,最短停止距離が約650メートルであった。
 同船は,固定式推進器1個,自動衝突予防援助装置付きレーダー2台,GPS,VHF送受信機,汽笛,持ち運び式信号灯及び英版海図を備えていた。

3 事実の経過
 九翔丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,空倉のまま,船首1.05メートル船尾3.80メートルの喫水をもって,平成16年12月10日14時45分博多港を発し,大分港に向かった。
 ところで,A受審人は,航海船橋当直体制を,0時から4時の時間帯を甲板手,4時から8時の時間帯を一等航海士,8時から0時の時間帯を甲板手がそれぞれ単独で当直を実施するよう定め,自らは,出入港時と関門海峡通航時に操船指揮を執ることとしており,また,視界不良時や船舶輻輳時などにも昇橋して同指揮を執っていた。
 18時05分A受審人は,関門海峡通航に先立ち操船の指揮を執り,船橋当直者の一等航海士を手動操舵とレーダー見張りに,機関当直者の一等機関士を船橋の機関操縦盤にそれぞれ就けて,法定の灯火を点灯し,同時15分関門第2航路西口に入航し,その後関門航路の右側に沿って東航した。
 A受審人は,翼角を航海速力の15度として折からの西向きの潮流に抗して11ノットばかりの速力(対地速力,以下同じ。)で航行中,18時33分関門航路第18号灯浮標付近で船尾方約2海里のところにブ号の表示する灯火を初認したものの,同船まで距離が離れていたことと同船が前方の航行船に注意を払うものと思い,ブ号に留意することなく進行中,同時44分関門航路第24号灯浮標西方に達したとき,先航船との間隔を保つため,翼角を約7度に減じて8ないし10ノットの速力で航行し,同時57分門司埼灯台から219度(真方位,以下同じ。)1.9海里の地点で,針路を037度に定め,増勢した潮流に抗して速力が6ないし7ノットとなって続航した。
 19時10分A受審人は,門司埼灯台から227度800メートルの地点に達したとき,レーダーによりブ号が船尾少し右方1,050メートルばかりに接近したことを認めたが,関門橋付近で自船を追い越すことはあるまいと思い,同船に対する動静監視を行わなかったので,その後同船が自船を追い越す態勢で接近していることに気付かないまま進行した。
 19時13分A受審人は,門司埼灯台から249度260メートルの地点に達したとき,ブ号が船尾少し右500メートルのところにまで接近していたが,依然,同船に対する動静を監視していなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことなく航行した。
 19時14分A受審人は,門司埼灯台から296度130メートルの地点に達したとき,航路に沿って転針するために右舵を令して徐々に右転を始めたが,操船信号を行うことなく,同時14分少し過ぎ同灯台を航過するころ先航船との間隔が開いてきたので,翼角を10度にして徐々に右転続航中,同時15分わずか前たまたま昇橋していた機関長の叫び声により,右舷後方間近に迫ったブ号を認めたが,どうすることもできず,19時15分門司埼灯台から012度130メートルの地点において,九翔丸は,船首が航路に向かう067度を向き,速力が5.8ノットで,その右舷中央部にブ号の船首部が後方から35度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,付近には約3.9ノットの西流があった。
 また,ブ号は,B指定海難関係人ほかインド国籍21人,マレーシア国籍4人の計26人が乗り組み,コンテナ312個を積載し,船首6.4メートル船尾7.7メートルの喫水をもって,同月9日04時12分(中華人民共和国時間)大連港を発し,関門港外の部埼検疫錨地に向かった。
 ところで,B指定海難関係人は,航海船橋当直体制を,0時から4時の時間帯を二等航海士,4時から8時の時間帯を一等航海士,8時から0時の時間帯を三等航海士がそれぞれ操舵手と二人一組で当直を実施するよう定め,自らは,出入港時や関門海峡通航時などに操船指揮を執ることとしていた。
 翌10日17時30分B指定海難関係人は,関門海峡北方で関門航路の通航に先立ち操船の指揮を執り,操舵手を操舵に就け,一等航海士を船長補佐に当たらせて同航路に向かい,法定の灯火を点灯し,18時15分ごろ関門航路西口に入航して機関を港内全速力前進にかけ,潮流に抗して11ノットばかりの速力で同航路の右側に沿って東航した。
 18時59分B指定海難関係人は,門司埼灯台から212度2.9海里の地点において,船首少し右方1.3海里のところにレーダーで九翔丸を初認し,19時05分門司埼灯台から218度1.9海里の地点に達したとき,針路を航路に沿う037度に定め,折からの潮流に抗して,10ないし12ノットの速力で進行した。
 19時06分B指定海難関係人は,門司埼灯台から218度1.7海里の地点で,正船首少し左方1,600メートルのところに九翔丸の船尾灯を認め,また,同船の船尾方に同航船が存在したので,航路右側端を航行することとして少し右転し,同時07分門司埼灯台から218度1.5海里の地点で再び針路を037度に復した。
 19時10分B指定海難関係人は,門司埼灯台から217度1.0海里の地点で,九翔丸を正船首少し左方1,050メートルばかりに認めるようになり,その後も同船と接近する状況であることを認めたが,同船の右舷側を無難に追い越すことができると思い,そのまま進行すれば,早鞆瀬戸の西流が強く,門司埼沖で下関側に圧流される傾向がある状況の下,同埼沖の転針点付近で九翔丸に著しく接近し,同船が自船を安全に通過させるための動作をとることを必要とする
状況であったが,追い越しを断念し,速やかに減速して安全な船間距離を保持することなく航行した。
 19時13分B指定海難関係人は,門司埼灯台から217度700メートルの地点に達したとき,九翔丸を左舷船首方500メートルに認めるようになっていたが,依然,減速することなく,門司埼に寄り過ぎたことから,同埼から少し離すこととし,針路を032度に転じて続航中,同時14分半同灯台から255度175メートルの地点で,右舵10度を令して転針を開始したが,潮流のため舵効が現れず,同時15分わずか前九翔丸が船首方至近に迫ったのを認めて右舵一杯をとったが効なく,ブ号は,ほぼ原針路のまま11.7ノットの速力をもって,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,九翔丸は,右舷中央部外板に破口等を生じ,ブ号は球状船首部に凹損等を生じたが,のち修理された。また,本件により,同日20時06分から22時45分まで,関門港早鞆瀬戸を通航する船舶に対し航行制限の措置が発令された。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,強西流下の関門航路内の早鞆瀬戸屈曲点において,九翔丸とブ号の両船が東航中,ブ号が,九翔丸の舷灯を見ることができない位置から,九翔丸がブ号を安全に通過させるための動作をとることを必要とする状況の下で,同船を追い越し中に発生したものであり,港則法施行規則第39条第2項を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 九翔丸
(1)関門橋付近の関門航路内で追い越しをする船舶はいないと思っていたこと
(2)ブ号に対する動静監視を行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと

2 ブ号
 追い越しを断念し,安全な船間距離を保持しなかったこと

(原因の考察)
 九翔丸が,船尾方にブ号を認めた後,同船の動静を監視し,警告信号を行っていたならば,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,関門橋付近の関門航路内で追い越しをする船舶はいないと思い,ブ号に対する動静監視を行わず,警告信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 ブ号が,関門港の特定航法にしたがって,門司埼北方の転針地点で九翔丸を追い越す態勢となる事態を避けていたならば,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,追い越しを断念し,安全な船間距離を保持しなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,西流下の関門航路門司埼付近において,両船が東航中,九翔丸を追い越す態勢のブ号が,追い越しを断念し,安全な船間距離を保持しなかったことによって発生したが,九翔丸が,動静監視不十分で,ブ号に対して警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,夜間,関門航路門司埼付近を東航中,船尾方に接近するブ号を認めた場合,同船が追い越す態勢をとっているかどうかを判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,関門橋付近で自船を追い越すことはあるまいと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が追い越す態勢で接近していることに気付かず,同船に対して警告信号を行うことなく進行して衝突を招き,自船の右舷中央部外板に破口等を,ブ号の球状船首部に凹損等をそれぞれ生じさせ,また,関門港早鞆瀬戸を通航する船舶に対し航行制限の措置がとられる事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,夜間,関門航路門司埼付近を東航中,先航する九翔丸に接近した際,追い越しを断念し,安全な船間距離を保持しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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