日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年広審第17号
件名

貨物船進宝丸交通船第七幸丸外1隻衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月8日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,黒田 均)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:進宝丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第七幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:平岡丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
進宝丸・・・右舷船首部に擦過傷,
第七幸丸・・・右舷外板に亀裂など,船長が頭部打撲の負傷
平岡丸・・・右舷外板に亀裂などの損傷,廃船,船長が外傷性頚椎症の負傷

原因
進宝丸・・・動静監視不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
平岡丸・・・見張り不十分,避航を促す音響信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,進宝丸が,動静監視不十分で,前路で錨泊中の第七幸丸及び平岡丸を避けなかったことによって発生したが,平岡丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月21日08時25分
 広島県大竹港
 (北緯34度13.4分 東経132度15.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船進宝丸  
総トン数 378トン  
全長 59.03メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 交通船第七幸丸 モーターボート平岡丸
登録長 7.61メートル 6.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 51キロワット 47キロワット
(2)設備及び性能等
ア 進宝丸
 進宝丸は,平成8年6月に進水した航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型貨物船兼砂利運搬船で,石炭灰及び土砂などの運搬に従事し,バウスラスターを有し,船橋中央部に舵輪及びジャイロコンパスが組み込まれた操舵スタンド,その右舷側に主機操作ハンドルとバウスラスター操作ボタン並びに左舷側にレーダー2台が設置されていた。
イ 第七幸丸
 第七幸丸(以下「幸丸」という。)は,昭和59年10月に建造されたFRP製交通船で,船体中央部に操舵室が設置され,航海計器は全く装備しておらず,汽笛も装備していなかった。
ウ 平岡丸
 平岡丸は,船体の中央部に操舵室及び同室後部甲板下に機関室が設置され,機関室にはさぶたをあけて入るようになっており,航海計器としてGPSを装備し,汽笛は装備しておらず,笛が操舵室に置いてあった。

3 事実の経過
 進宝丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,土砂積載の目的で,船首1.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成16年2月20日16時20分島根県那賀郡三隅町を発し,広島県大竹港に向かった。
 A受審人は,大畠瀬戸を経由したのち,翌21日07時37分岩国港内に入ったところで船橋当直に就いて同港内を北上し,08時09分岩国港北防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から113度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点で,針路を333度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
 08時15分A受審人は,防波堤灯台から086度1.6海里の地点に達したとき,正船首1.8海里ばかりのところに平岡丸を初認したが,その後左舷前方に設置されている工事用のオイルフェンスを注視したり,左舷前方の今回初めて着岸する岸壁を双眼鏡で探すことに気をとられ,その動静監視を十分に行わなかった。
 08時22分A受審人は,防波堤灯台から040度1.6海里の地点に達したとき,黒色の球形形象物を表示して錨泊している平岡丸及び同船に係留している幸丸が正船首1,000メートルばかりとなり,その後両船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,依然として平岡丸の動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 A受審人は,右転するなどして幸丸及び平岡丸を避けないまま続航し,08時25分防波堤灯台から024度1.9海里の地点において,進宝丸は,原針路,原速力で,その右舷船首が幸丸の右舷船首に,前方から平行に衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,幸丸は,B受審人が1人で乗り組み,C受審人から機関修理の依頼を受けて,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同日07時55分広島県佐伯郡大野町の係留地を発し,大竹港に向かった。
 08時20分B受審人は,前示衝突地点で船首を南方に向けて錨泊中の平岡丸の右舷側に幸丸を左舷付けして船首尾に係船索をとって係留し,平岡丸の機関室に入って修理を開始し,08時25分少し前平岡丸機関室から甲板上に出たとき,幸丸の船首至近に迫った進宝丸を初認し,驚いてこの旨をC受審人に伝え,直ちに平岡丸の左舷側から海面に飛び込み,幸丸は153度に向首しているとき,前示のとおり衝突した。
 これより先,平岡丸は,C受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,甲板上のオーニングを展張しないで中央部に巻き付けた状態とし,同日07時00分大竹港飛石船だまりを発し,大竹市阿多田島南方の釣り場に向かった。
 発航に先立ち,C受審人は,機関室のさぶたをあけて同室に入り,機関の油量と始動後の潤滑油漏れがないことを確認した。
 07時10分C受審人は,大竹港内を進行中に潤滑油圧力低下を知らせるアラームが鳴ったので,機関を停止して機関室をのぞいたところ,配管から同油が多量に漏出しているのを認め,続航不能と判断した。
 07時15分C受審人は,前示衝突地点で,船尾から重量8キログラムのストックアンカーを投入して太さ10ミリメートルの化学繊維ロープを23メートル延出し,甲板からの高さ約1メートルの左舷船首のオーニング支柱に錨泊している船舶であることを示す黒色の球形形象物を表示して錨泊し,携帯電話により船舶所有者に連絡した。
 08時20分C受審人は,B受審人が来船したので修理を依頼し,08時22分平岡丸が153度に向首しているとき,正船首1,000メートルばかりのところに進宝丸を視認することができ,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,機関の修理の状況に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 C受審人は,幸丸及び平岡丸を避けないまま接近する進宝丸に対して避航を促す音響信号を行わず,08時25分少し前B受審人の知らせで船首至近に迫った進宝丸を初認したが,何をする間もなく前示のとおり衝突し,平岡丸は衝突の衝撃によって転覆した。
 衝突の結果,進宝丸は右舷船首部に擦過傷を生じ,幸丸は右舷外板に亀裂などを生じて機関室に浸水したが修理され,平岡丸は右舷外板に亀裂などを生じたうえ機器を濡損して廃船となり,B受審人が頭部打撲など,C受審人が外傷性頚椎症などを負った。

(航法の適用)
 進宝丸は航行中の動力船であり,平岡丸は錨泊している船舶であることを示す黒色の球形形象物を掲げて錨泊中であり,幸丸は平岡丸に係留していた。本件発生地点は大竹港内であるが,港則法には航行中の動力船と錨泊船についての航法に関する規定がないので,海上衝突予防法第38条及び39条の船員の常務を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 進宝丸
(1)左舷前方に設置されている工事用のオイルフェンスを注視したり,左舷前方の今回初めて着岸する岸壁を双眼鏡で探すことに気をとられていたこと
(2)平岡丸の動静監視を十分に行わなかったこと
(3)幸丸及び平岡丸を避けなかったこと

2 幸丸
 周囲の見張りを十分に行わなかったこと

3 平岡丸
(1)機関が故障したこと
(2)機関修理の状況に気をとられていたこと
(3)周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(4)避航を促す音響信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 進宝丸は,動静監視を十分に行っていれば,衝突3分前に,正船首1,000メートルばかりのところに黒色の球形形象物を表示して錨泊している平岡丸及び同船に係留している幸丸を視認することができ,その後両船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況が判断できたので,余裕のある時期に右転するなどして幸丸及び平岡丸を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,左舷前方に設置されている工事用のオイルフェンスを注視したり,左舷前方の今回初めて着岸する岸壁を双眼鏡で探すことに気をとられて平岡丸の動静監視を十分に行わず,幸丸及び平岡丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,B受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったことは,平岡丸の機関室に入って機関修理に当たっていた点により,本件発生の原因とならない。
 また,平岡丸は,見張りを十分に行っていれば,衝突3分前に,正船首1,000メートルばかりのところに進宝丸を視認することができ,その後同船が衝突のおそれがある態勢で幸丸及び平岡丸を避けないまま接近する状況が判断できたので,進宝丸に対して避航を促す音響信号を行い,衝突を回避することができたものと認められる。
 したがって,C受審人が,機関修理の状況に気をとられて周囲の見張りを十分に行わず,進宝丸に対して避航を促す音響信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 平岡丸の機関が故障したことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,広島県大竹港において,航行中の進宝丸が,動静監視不十分で,前路で錨泊中の幸丸及び平岡丸を避けなかったことによって発生したが,平岡丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,広島県大竹港に向けて北上中,前路に平岡丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,引き続きその動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷前方に設置されている工事用のオイルフェンスを注視したり,左舷前方の今回初めて着岸する岸壁を双眼鏡で探すことに気をとられ,平岡丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,黒色の球形形象物を掲げて錨泊中の平岡丸と同船に係留している幸丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,両船を避けないまま進行して幸丸との衝突を招き,進宝丸の右舷船首部に擦過傷を,幸丸の右舷外板に亀裂などを,衝突の衝撃で平岡丸が転覆して同船の右舷外板に亀裂などをそれぞれ生じさせ,B受審人が頭部打撲など,C受審人が外傷性頚椎症などを負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 C受審人は,大竹港において,機関故障のため錨泊し,幸丸を平岡丸に係留してB受審人に修理を行わせる場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,機関の修理の状況に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,幸丸及び平岡丸に向首したまま接近する進宝丸に気付かず,避航を促す音響信号を行わないで衝突を招き,前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION