日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年広審第11号
件名

貨物船日章丸岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一,川本 豊,島友二郎)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:日章丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:日章丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
日章丸・・・バルバスバウを含む船首部下部が圧壊
岸壁・・・製鉄所専用岸壁の損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件岸壁衝突は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月18日00時10分
 関門港
 (北緯33度54.0分 東経130度53.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船日章丸
総トン数 419トン
全長 72.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 日章丸は,平成5年2月に進水した限定沿海区域を航行区域とする全通二層甲板の船尾船橋型貨物船で,石膏粉などの輸送に従事していた。
 操舵室は,航海船橋甲板にあって同室前方に視界を妨げるものはなく,同室中央部に操舵スタンドが,同スタンドの右舷側に機関操縦装置などが,左舷側に第1及び第2レーダー並びにGPSプロッターなどがそれぞれ設置されていたが,居眠り防止装置は備え付けられていなかった。
 操縦性能は,旋回径が左旋回及び右旋回ともに全長の約3倍で,航海速力が空倉のとき約11ノットであった。

3 就労状況について
 日章丸は,平素,船長,一等航海士,機関長及び一等機関士の4人が乗り組んで運航されていたが,乗組員が約2箇月間乗船して10日ないし2週間の休暇を順次とっていたので,3人で運航される期間もあった。
 航海中は,乗組員が4人の場合には,船長,一等航海士及び機関長の3人が4時間交替3直制の船橋当直に,一等機関士が機関室当直に,乗組員が3人の場合には,2人が6時間交替2直制の船橋当直に,機関部職員1人が機関室当直にそれぞれあたっており,本件当時一等機関士が休暇のため下船していたので,00時から06時まで及び12時から18時までをB受審人が,06時から12時まで及び18時から24時までをA受審人がそれぞれ単独6時間の船橋当直に入っていた。
 荷役中は,陸上の作業員が荷役監督を行い,乗組員が荷役当直に入ることがなかったことから,A受審人が乗組員の勤務時間を定めておらず,荷役設備の状況や荷役の進行にともなって必要となる船体移動や荷役終了後の船倉の清掃などには,適宜,陸上の作業員から連絡を受けて乗組員全員で作業にあたっており,それらの作業がないときには,乗組員は自室で休息がとれる状況であった。
 B受審人は,A受審人から特に命じられることはなかったものの,居室が船倉に近い上甲板にあったことなどから,陸上の作業員が求める諸作業に応じることが多く,停泊中に休息が十分にとれないことがしばしばあり,本件当時一等機関士が下船して以来航海と荷役とが連続して疲労が蓄積していたうえ,福岡県苅田港入港当日は00時から06時まで船橋当直にあたったのち,入港作業を行い,09時50分入港後には,いつものように荷役に関する諸作業や船倉の清掃にあたったほか,食料の買出しなどを行って休息を十分にとれなかったので,同港出港時には睡眠不足の状態であった。
 A受審人は,一等機関士下船以来自らとB受審人とによる船橋当直が続いて疲労気味であったので,停泊中にできるだけ休息をとるように心がけ,時折甲板上に出て荷役の状況を確認していたものの,停泊中の乗組員の就労状況を把握しておらず,B受審人が荷役に関する諸作業などにあたって十分に休息をとっていないことを知らなかった。

4 事実の経過
 日章丸は,A,B両受審人ほか1人が乗り組み,空倉のまま,船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって,平成16年5月17日21時20分苅田港を発し,同港港外に錨泊して燃料油の補給を行ったのち,22時30分同錨地を発進し,関門海峡を経由する予定で長崎県松浦港に向かった。
 B受審人は,離岸作業に続いて投錨,燃料油補給及び抜錨の各作業に従事し,その後自室に戻って休息したものの,寝付かれなかったので,早めに昇橋して当直に就くこととした。
 A受審人は,出航操船に続き船橋当直にあたって周防灘を北上し,22時50分部埼灯台南東方沖合3海里の地点に差し掛かり,関門海峡東口に接近していたが,疲労気味であったうえ,昇橋してきた次直のB受審人から睡眠不足の状態であったものの寝付かれないので当直を1時間早めて交替してほしい旨の申し出があったことから,同受審人に同海峡通航中の操船を任せても問題ないものと思い,引き続き在橋して操船指揮をとることなく,23時00分B受審人に当直を委ね,翌朝の昇橋時刻を1時間早めることとして降橋し,自室で休息した。
 B受審人は,航行中の動力船の灯火を表示し,操舵スタンドの後方に置いた床面からの高さ0.7メートルの背もたれ及び肘掛付きのいすに腰を掛けて見張りにあたり,23時15分ころ関門航路に入り,23時47分半少し前下関岬ノ町防波堤灯台から106度(真方位,以下同じ。)780メートルの地点で,針路を202度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で,航路の右側をこれに沿って進行した。
 23時50分B受審人は,関門航路第29号灯浮標の灯火を右舷に見て航過するころ眠気を催したが,それまで居眠りに陥ったことがなかったことから何とか眠気を我慢できるものと思い,その旨を船長に報告するなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,いすに腰を掛けた姿勢のまま続航した。
 23時59分半B受審人は,門司大里防波堤灯台から280度730メートルの地点に達したとき,航路に沿って針路を251度に転じ,金ノ弦岬の南方沖合に差し掛かったところで,再び航路に沿って針路を右に転じるつもりで進行中,いつしか居眠りに陥った。
 B受審人は,翌18日00時04分少し前転針予定地点に達したものの,居眠りに陥っていたので,このことに気付かず,針路を右に転じることができないまま,関門港小倉区の製鉄所専用岸壁に向けて進行し,00時10分砂津防波堤灯台から331度900メートルの地点において,日章丸は,原針路,原速力のまま,船首部が同岸壁の東側に衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は,自室で休息中,衝撃で衝突を知り,昇橋して事後の処置にあたった。
 その結果,日章丸は,バルバスバウを含む船首部下部が船首端から3メートル後方まで圧壊して船首槽に浸水したが,来援した引船によって製鉄所専用岸壁北側に着岸し,のち修理され,同岸壁に損傷を生じた。

(本件発生に至る事由)
1 居眠り防止装置が備えられていなかったこと
2 A及びB両受審人が,6時間交替2直制の船橋当直と荷役とが連続して疲労気味であったこと
3 A受審人が,荷役中の乗組員の勤務時間を定めておらず,B受審人が,荷役中の諸作業にあたって休息をとれなかったこと
4 B受審人が,睡眠不足の状態のまま昇橋したこと
5 A受審人が,睡眠不足のままB受審人が昇橋したことを知っていたのに時間を早めて当直交替したこと
6 A受審人が,関門海峡通航時に自ら操船の指揮をとらなかったこと
7 B受審人が,自動操舵のまま,舵輪後方に置いたいすに腰を掛けていたこと
8 B受審人が,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
9 B受審人が,居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば,居眠りに陥ることはなく,予定地点で転針を行って岸壁に衝突することはなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,睡眠不足のまま昇橋し,単独の船橋当直中に眠気を催した際,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,自動操舵のまま,舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 また,A受審人が,関門海峡通航時に自ら操船指揮をとっておれば,適切に操船して岸壁に衝突することはなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,睡眠不足のままB受審人が昇橋したことを知っていたのに時間を早めて当直交替し,関門海峡通航時に自ら操船指揮をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A及びB両受審人が6時間交替2直制の船橋当直と荷役とが連続して疲労気味であったこと及びA受審人が,荷役中の乗組員の勤務時間を定めておらず,B受審人が,荷役中の諸作業にあたって休息をとれなかったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 居眠り防止装置が備えられていなかったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,海難防止の観点から同装置の設置が求められる。

(海難の原因)
 本件岸壁衝突は,夜間,関門海峡において,居眠り運航の防止措置が不十分で,関門港小倉区の製鉄所専用岸壁に向け進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,関門海峡通航時に自ら操船指揮をとらなかったことと,船橋当直者が,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,福岡県苅田港の出航操船に続いて単独の船橋当直にあたり,周防灘を関門海峡に向けて北上中,同海峡東口に接近した場合,引き続き在橋して関門海峡通航時に自ら操船指揮をとるべき注意義務があった。ところが,A受審人は,疲労気味であったうえ,昇橋してきた次直のB受審人から当直交替の申し出があったので,同受審人に同海峡通航中の操船を任せても問題ないものと思い,引き続き在橋して関門海峡通航時に自ら操船指揮をとらなかった職務上の過失により,B受審人が単独の船橋当直にあたって同海峡を通航中,居眠りに陥り,転針予定地点で針路を右に転じることができないまま,関門港小倉区の製鉄所専用岸壁に向け進行して同岸壁への衝突を招き,日章丸のバルバスバウを含む船首部下部が船首端から3メートル後方まで圧壊して船首槽に浸水などを,製鉄所専用岸壁に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,夜間,関門海峡を単独の船橋当直にあたって西行中,眠気を催した場合,その旨を船長に報告するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同受審人は,それまで居眠りに陥ったことがなかったことから,何とか眠気を我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,転針予定地点で針路を右に転じることができないまま,関門港小倉区の製鉄所専用岸壁に向け進行して同岸壁への衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION