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平成17年神審第60号
件名

漁船新栄丸モーターボートヒロコII衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月29日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:新栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:ヒロコII船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
新栄丸・・・ない
ヒロコII・・・左舷船首錨台付近が折損,船長が腰背部打撲等の負傷

原因
新栄丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ヒロコII・・・音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,新栄丸が,見張り不十分で,漂泊中のヒロコIIを避けなかったことによって発生したが,ヒロコIIが,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月14日10時00分
 和歌山県田倉埼西方沖合
 (北緯34度15.5分東経135度02.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船新栄丸 モーターボートヒロコII
総トン数 3.4トン  
全長 9.20メートル 6.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 69キロワット 36キロワット

3 事実の経過
 新栄丸は,昭和54年7月に進水し,航行区域を限定沿海区域とする船体中央やや後部に操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で,平成16年1月交付の小型船舶操縦免許証(一級・特殊・特定)を受有するA受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成16年11月14日06時00分和歌山県雑賀崎漁港を発し,和歌浦湾に至って曳縄漁を開始し,その後北西方に移動しながら操業を続けたものの,漁獲が少なかったので,はまちの一本釣り漁を行うため同県田倉埼西方1.4海里ばかりの漁場に向かった。
 A受審人は,09時00分ごろ数十隻の漁船などが操業する同漁場に到着して一本釣り漁を開始し,折からの微弱な潮流により北西方に流されるので,他船の間を縫って潮のぼりを繰り返しながら操業を続け,09時55分田倉埼灯台から269度(真方位,以下同じ。)1.7海里の地点で,潮のぼりのため針路を138度に定め,機関を半速力前進にかけ,5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 A受審人は,操舵室後方の右舷壁寄りに立って左手で舵柄を握り,右手で機関レバーを操作して操舵と見張りに当たり,09時58分少し過ぎ,田倉埼灯台から261度1.5海里の地点に達したとき,正船首300メートルのところに,船首を北方に向けて漂泊しているヒロコIIを視認することができる状況であったが,付近で潮のぼりを繰り返しながら操業する多数の漁船に気をとられ,船首方の見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在も,その後,衝突のおそれがある態勢で接近していることも気付かなかった。
 こうして,新栄丸は,ヒロコIIに衝突のおそれがある態勢で接近し,右転するなどして同船を避けることなく進行中,10時00分田倉埼灯台から256度1.4海里の地点において,原針路,原速力のまま,その船首が,ヒロコIIの左舷船首に前方から39度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,付近海域には微弱な北西流があった。
 また,ヒロコIIは,平成8年6月に建造され,限定沿海区域を航行区域とする船体中央部に船外機を操作するための操舵輪を装備した操縦席を設けているFRP製モーターボートで,平成7年9月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首尾とも0.3メートルの喫水をもって,同日06時00分和歌山県紀の川内の係留地を発し,田倉埼西方1.4海里ばかりの釣り場に向かった。
 B受審人は,06時30分ごろ同釣り場に至って船首から橙色のフロートが付いた直径3メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を投入し,トーイングロープを6メートル及び引き揚げロープを10メートル繰り出して船首クリートにそれぞれ係止して機関を停止し,漂泊して釣りを始めた。
 B受審人は,釣りのポイントを3,4回変えたのち,09時30分前示衝突地点付近に至り,シーアンカーを投入し,船首を北方に向けて機関を止め,船外機をチルトダウンのまま漂泊を開始し,操舵輪後方のいすに左舷方を向いて腰を掛け,左舷正横方向に2本の竿を出して釣りを始めた。
 09時58分少し過ぎB受審人は,前示衝突地点で,船首が357度に向いていたとき,左舷船首39度300メートルのところに,自船に向首して来航する新栄丸を初めて視認し,その後,同船が衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めたが,漂泊中の自船を新栄丸が避けてくれるものと思い,速やかに操舵輪の横に置いてある笛により,避航を促す音響信号を行わず,また更に接近したとき,シーアンカーのトーイングロープを解き放し,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらなかった。
 ヒロコIIは,そのまま漂泊を続け,10時00分少し前B受審人が,左舷船首至近に迫った新栄丸に気付いて衝突の危険を感じ,立ち上がって大声で叫んだが,効なく,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,新栄丸に損傷はなかったが,ヒロコIIは左舷船首錨台付近が折損してのちに修理され,B受審人が衝突の衝撃で背中から右舷方に転倒して腰背部打撲等の傷を負った。

(原因)
 本件衝突は,和歌山県田倉埼西方沖合において,新栄丸が,潮のぼりする際,見張り不十分で,前路でシーアンカーを投入して漂泊中のヒロコIIを避けなかったことによって発生したが,ヒロコIIが,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,和歌山県田倉埼西方沖合において,潮のぼりする場合,前路で漂泊しているヒロコIIを見落とさないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,付近で操業する多数の漁船に気をとられ,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ヒロコIIの存在に気付かず,右転するなど漂泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き,ヒロコIIの左舷船首錨台付近を折損させ,B受審人に腰背部打撲等の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,和歌山県田倉埼西方沖合において,釣りのため漂泊中,衝突のおそれがある態勢で接近する新栄丸を認めた場合,速やかに避航を促す音響信号を行い,また更に接近したとき,シーアンカーのトーイングロープを解き放し,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,漂泊中の自船を新栄丸が避けてくれるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,そのまま漂泊を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせ,自身が腰背部打撲等の傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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