(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月12日12時30分
淡路島室津港南方
(北緯34度31.0分東経134度52.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
水上オートバイロマンスブルー |
水上オートバイジェッターロボ |
総トン数 |
0.1トン |
0.1トン |
長さ |
2.49メートル |
2.66メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
106キロワット |
106キロワット |
3 事実の経過
ロマンスブルー(以下「ロ号」という。)は,平成16年6月に新規登録された,最大搭載人員2人のウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで,艇体前部に操縦ハンドル,その後方に跨乗式操縦席と同乗者用座席が設けられていた。
ところで,A受審人は,平成15年3月に五級小型船舶操縦士の免許を取得し,同年の夏から水上オートバイに乗り始め,その後,年に2回ほど水上オートバイの操縦を経験していた。同16年9月12日11時ごろ知人やその家族など仲間20人ほどで,兵庫県淡路島室津港,室津防波堤南側の室津海水浴場に集合したのち,同所付近において,遊泳やジェッターロボ(以下「ジ号」という。)などの水上オートバイを乗り回して楽しんでいた。
A受審人は,同海水浴場に到着したあと,ロ号に1人で乗艇し,約15分間試乗して感触を確かめ,その後,同人が1人で乗り組み,小学生の男児(以下「同乗者」という。)1人を後部座席に乗せ,いずれも救命胴衣を着用し,遊走の目的で,12時20分淡路室津港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から199度(真方位,以下同じ。)850メートルの,室津海水浴場の波打ち際を発進し,沖合に向けて遊走を開始した。
A受審人は,同海水浴場沖合を毎時約20キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)で,大きく左回りに4回ほど周遊したところでそろそろ発進地に戻ることにし,同乗者がまだ遊走を楽しみたそうにしているのを気にしながら徐々に左旋回を始め,12時29分西防波堤灯台から206度1,100メートルの地点において,針路を波打ち際近くの発進地に向ける048度とし,同じ速力で進行した。
定針したとき,A受審人は,水際から5.0メートル離れた,正船首方270メートルのところに,艇尾を見せて停留しているジ号を視認することができ,その後,同艇に向け衝突のおそれがある態勢で進行していたが,後ろに首を振って同乗者に岸に戻ることを再三話しかけていて,船首方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
こうして,A受審人は,機関を停止するなどしてジ号を避けないまま,同じ針路で,スロットルレバーを少し緩めて減速しながら続航中,12時30分わずか前,前方に目を移したとき正船首至近にジ号を視認し,とっさに操縦ハンドルを左一杯にとったが及ばず,12時30分西防波堤灯台から199度850メートルの地点において,ロ号は,船首が010度に向いたとき,毎時10キロメートルの速力をもって,その右舷艇尾部が,ジ号のすぐ左側で海中に入ってアンカーブイへ係止作業中の同号船長Bと接触すると共に,ジ号の操縦ハンドル部に後方から10度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期にあたり,視界は良好であった。
また,ジ号は,平成16年7月に新規登録された,最大搭載人員3人のウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで,艇体前部に操縦ハンドル,その後方に跨乗式操縦席と同乗者用座席が設けられていた。
ジ号は,四級小型船舶操縦士免状を受有するB船長が1人で乗り組み,小学生の男児1人を乗せ,いずれも救命胴衣を着用し,室津海水浴場沖合で適宜遊走を行ったのち,海岸近くに戻り,水深約0.8メートルの前示衝突地点に至って船首を020度方向に向けて停留し,同船長がジ号のすぐ左側で海中に入って,あらかじめ投入されていたアンカーブイに艇体を繋ぎ止める作業に当たっていたところ,遊走を終え戻ってきたロ号が,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,ロ号は,右舷艇尾部に塗装剥離を,ジ号は,操縦ハンドル等に損傷をそれぞれ生じ,B船長が入院10日の加療を要する右腰背部打撲等を負った。
(原因)
本件衝突は,淡路島室津港南方の海水浴場において,遊走を終えて波打ち際近くの発進地に向け帰航中のロ号が,見張り不十分で,正船首方で停留してアンカーブイに係止作業中のジ号を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,室津港南方の海水浴場において,同海水浴場沖合で遊走を楽しんだのち波打ち際近くの発進地に向け進行する場合,正船首方で停留してアンカーブイに係止作業中のジ号を見落とすことのないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,後ろに首を振って同乗者に岸に戻ることを再三話しかけていて,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,正船首方で停留してアンカーブイに係止作業中のジ号に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,ロ号の右舷艇尾部に塗装剥離を,ジ号の操縦ハンドル等に損傷を生じさせたうえ,ジ号船長に入院10日の加療を要する右腰背部打撲等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。